1. はじめに

アッテネータは信号レベルの減衰量を調整する、もっとも基本的な測定器(ツール?)です。スペアナもSGもネットアナも、内部には正確なアッテネータが使われており、このような測定器の中核を成すものです。アッテネータが自作できれば、実験や自作をする上でとても便利となります。

今回は写真1のようなアッテネータを試作し、次回はCPUでコントロールするアッテネータに発展させようとするものです。

写真1 このような基板用のトグルスイッチを使った、ステップアッテネータです。

2.アッテネータについて

アッテネータには基本的な要素として、インピーダンスと減衰量があります。低周波でのインピーダンスは600Ω、高周波では50Ωか75Ωが一般的に使われます。この他に平衡型、不平衡型の違いや、π型、T型などの違いがあります。また、減衰量を固定するもの、可変するもの、可変するとしても連続型やステップ型など、作り方によっても様々な種類があります。構造や回路によって、減衰量や周波数特性などの性能に差が出てきます。

ここでは50Ωπ型のステップアッテネータとし、100MHz程度までは十分に使える事を考えます。ステップとしては、1,2,3,5,10,10dBの6段とし、使用上計算がやりやすいようにしています。最大31dBとなりますが、この位の方が無理なく安定に使う事ができると思います。これ以上の減衰を得ようとするならば、市販で20~30dBの同軸型アッテネータと組合わて使うのが無難と思います。シールド等に注意して作れば不可能という事ではありませんが、アッテネータは減衰量が大きくなると足し算が合わなくなってきます。また、周波数が高くなると顕著になってきます。

3.回路

図1が回路です。抵抗を使ったπ型のアッテネータを、スイッチで切り換えるだけのものです。アッテネータの計算は図2~6のように、エクセルのシートで行いました。当然ピッタリの値は入手困難ですので、近い値を選びます。なるべくE12系列で選んでいますが、75Ωや30Ω等はE24系列となってしまいます。そのときに何dBになるのかを、図2~6では逆計算しています。インピーダンスは、正しい50Ωを接続したときに、反対側からみて何Ωになるのかを計算しています。これらは一段だけの計算ですので、多段にした場合には必ず誤差が大きくなります。

図1 全体回路図です。

図2 1dBのアッテネータです。エクセルで計算したアッテネータの抵抗の値で、逆計算とインピーダンスの計算もしています。

図3 2dBのアッテネータです。

図4 3dBのアッテネータです。

図5 10dBのアッテネータです。

図6 31dBのアッテネータです。

抵抗は一般のものを使っていますので、誤差の5%を加味しなくてはなりません。そこで最悪値で計算し、規格内に入るか確認したのが表1になります。(その規格を決めるのも自分です)実際に全ての抵抗で、5%の誤差が偏って出るとは思えません。表1は、アッテネータの設定を31dBとしたときに、抵抗の誤差が最悪になった場合の減衰量の誤差を計算したものです。入出力インピーダンスは、31dB設定時の最大値と最小値です。ここまで誤差が出るとは思えませんが、最大でもこの程度の幅には収まります。これを「そこそこ」と見るか「まだまだ」と見るかは目的次第ですが、一般的には高周波的な問題による誤差の方が問題となりそうです。

あまり考えると、アッテネータなど自作できなくなってしまいますので、それでは先へ進めません。従って、最終的には結果オーライで作っている事は承知して下さい。デジタルテスターで抵抗を選別する方法もありますので、これ以上の精度を求める時には考えてみようと思います。

表1 最悪値での計算を31dBの設定で行ってみました。誤差が積み重なっても、±1.5dB程度の誤差で収まります。入出力インピーダンスは45~55Ωですので、SWRは1,1以下となります。

4.製作

回路は簡単ですので、部品集めと作り方に成否がかかってきます。写真2が全ての部品になります。ジャノメ基板を使っていますが、部品面が全面アースの基板を使っています。また、抵抗は1/6Wタイプを用います。1/4Wでは形状が大き過ぎるため大きさのバランスが崩れ、うまく配線できません。1/6Wの大きさで、W数は1/4Wというものは大丈夫です。また、チップ抵抗は試していませんが、リード線のタイプよりも有利でしょう。上手に収める必要がありますので工夫して下さい。

写真2 部品はこれだけ。ジャノメ基板はシールド付きのものを使っています。

トグルスイッチは基板用の2回路を用います。いずれの部品でも同じ事ですが、このような場合には可能な限り小型の部品を集めます。写真3のように抵抗はトグルスイッチの端子に直接ハンダ付けしますので、表からは見えません。アースの部分のみ基板を通過させます。少しでも短い配線にするためです。T型のアッテネータでは、このような配線はできません。この後で、写真4のようにアースを強化します。ふと考えると、本来の部品面には部品を付けてないため、普通の基板でも銅テープを貼るだけで良いような気もしますが、試してはいません。ジャノメ基板の配線では、よく抵抗などのリード線の切れ端で配線するのですが、このアッテネータでは写真4のように銅テープをカッターで細く切断して使っています。少しでも回路のインピーダンスを50Ωに近づけようとしているのですが、この効果は??です。

写真3 トグルスイッチを並べてハンダ付けしたところです。下側のハンダは反対側の抵抗の足です。

写真4 信号は銅のテープを通るようにしました。下側の銅テープは、抵抗を取り付けた後に貼ってアースを強化しています。抵抗の足自体は直接反対側のシールド側へ行っています。

次に写真5~9のようにBNCコネクタを両サイドに取り付け、箱型となるように両面基板で囲みます。立体的に作った方が機械的に丈夫という事と、アースを確実に接続させるという意味があります。BNCコネクタは部品面に取り付ける方法もありますが、接続する同軸ケーブルが同じ方向に平行に出入りするよりも、信号の流れは直線にする方が良いと思います。

写真5 カラーを使って、BNCコネクタを仮に固定します。コネクタ間の長さは、カラーの3mmネジで調整します。

写真6 そしてハンダで固定すると、このようになります。

写真7 生基板をこのように100円均一のクランプで固定し、ハンダ付けします。

写真8 ガッチリとハンダ付けしますと、このようになります。

写真9 内部もガッチリとハンダ付けし、高周波がどこを流れても良いようにします。

5.ソフト

私のスペアナ+TGで特性をチェックしました。測定結果1~5はアッテネータを一段ずつ測ったもので、200MHzまでの特性です。測定結果6はアッテネータを全部入れたところで、31dBとピッタリになりました。ほぼ200MHzまでは問題なく使えそうです。試しに31dBの設定で500MHzまでを測ると、測定結果7のように乱れが出てきました。一応アッテネータにはなっていますが、数値が信用できなくなります。

このように200MHzまでは十分に使用できそうです。500MHzまでは数dBの誤差範囲で使用できそうです。

測定結果1 1dBのアッテネータの特性です。単体のアッテネータの測定として0~200MHzを測定しましたが、全く問題なさそうな特性です。

測定結果2 2dBのアッテネータの特性です。

測定結果3 3dBのアッテネータの特性です。

測定結果4 5dBのアッテネータの特性です。

測定結果5 10dBのアッテネータの特性です。

測定結果6 全部のアッテネータをONとした時の31dBの特性です。

測定結果7 31dBのアッテネータとして500MHzまで測定すると誤差が出てき ますが、使えないという事でもありません。

6.おわりに

アッテネータは地味な測定器ですが、測定の基本「モノサシ」となるものです。測定や測定器に興味を持つと必ず作りたくなるでしょう。モノサシを作る時には、別のモノサシがないと検証ができません。スペアナやSGなどがある場合には、比較する事が可能です。

正しい検証ができるに越した事はありませんが、このように作れないという事ではないと思います。趣味で行う自作ですから、多少の難点や困難があった方が楽しめるとも思えます。

次回はもう少し進化させ、若干派手に変身した?アッテネータを紹介します。