1. はじめに

前回はトグルスイッチで切り換える、ステップアッテネータを紹介しました。使いやすいようにステップを設定したのですが、微妙な違いを比較したい時には不便な事もあります。例えば、10→9dBとしたい時には、10dBをOFFして1,3,5dBをONします。また、10dBに戻すと・・などと思うだけでうんざりするのが普通でしょう。これでは、音の違いを比較する事は困難と思われます。

そこで、今回は一歩進化させ、0~31dBを1dBずつ連続で切り換えるアッテネータを紹介します。ロータリーエンコーダの操作でリレーを切り換える、写真1のようなアッテネータです。特性は悪化しますし電源を使いますので、一長一短どころか一長二短になってしまいます。しかし、使いやすさは抜群になりますので、上手に使い分ければ良いでしょう。

写真1 1~31dBのCPU制御のアッテネータです。

2.回路

図1に回路を示します。前回のアッテネータは1,2,3,5,10,10dBの6段でした。今回はCPUで制御しますので、1,2,4,8,16dBとし、合計は31dBで同じですが、一段少なくできます。なお、前回は人手でパチパチと設定するアッテネータでしたので、解りやすいように値を並べました。今回はCPUで制御しますので、減衰量の順に並べる必要はありません。減衰量の大きいアッテネータは隣接しないように、8,2,16,1,4dBとしました。この位では関係ないでしょうが、減衰量の大きなアッテネータは、なるべく遠く離した方が安定するように思います。なお、多少の無理を承知とするならば、32dBのアッテネータも追加できますが、ここでは確実に動作する事を優先しました。

図1 本機の全回路図です。

図2 1dBの計算になります。

図3 2dBの計算になります。

図4 4dBの計算になります。

図5 8dBの計算になります。

図6 16dBの計算になります。

表1 抵抗の誤差が偏った場合の最悪値の計算です。有り得ないような数値ですが・・。

アッテネータの計算を図2~6に示します。また、抵抗の誤差±5%を加味した最大の偏差を表1に示します。実際には考えにくいのですが、誤差が極端に偏った場合の最悪値です。

アッテネータはリレーで切り替え、そのコントロールにはCPUを用いています。そのCPUには、AVRのAT90S2313を使っています。このICの出力ポートはシンク電流が20mAまでですので、小型とはいえ30mA程度流れるリレーを駆動するのは無理です。そこで定番のTD62003Pを用いてドライブしています。トランジスターを使っても良いのですが、ここは簡単に済ませてしまいました。このような事を考えていながら、肝心な検討が飛んでいたため、この後でチョンボが発覚したのでした。

3.製作

作り方としましては、高周波の流れる部分は基本的に前回と同じです。CPUやLCDを用いますので、どのようにまとめるかです。前回のように、BNC-Pと-Rを使って同軸管モドキとして作れば良いのですが、少々重くなってしまい無理があります。そこでBNC-Rを2個使って、机上に置いて使う事を想定しました。前回のトグルスイッチをリレーに変更し、LCDとロータリーエンコーダなどを付加した構成になります。

写真2が主な部品です。アッテネータにはシールド付きの基板を使っています。入出力には基板用のBNCコネクタを用い、この部分を独立した基板にしています。もう一枚のメイン基板にはCPUが入りますので、アッテネータを流れる信号とCPUが同一のアースを使う事にならないようにしていますが、シビアな使い方をすると問題がありそうです。少なくとも、アースは分離する方が良さそうです。写真3はBNCコネクタとリレーを載せ、抵抗の配線をしたところです。抵抗のアース側配線は、このように全面グランド側に出しています。次に写真4のように抵抗のアース側に銅のテープを貼って、アースの補助としています。写真5はアッテネータユニットが完成したところです。これを写真6のようにCPUユニットに載せます。写真7は、その後でCPUユニットの作成を進めている状態です。写真8は「これで完成!」と思ったところですが、ここでチョンボに気が付きました。

写真2 使った(使うはずだった)主要部品です。この後の大失敗で若干部品が変更になりました。

写真3 アッテネータの製作を開始し、リレーと抵抗を取り付けたところです。抵抗のアース側は全面グランド面でアースしています。

写真4 銅のテープを追加で貼り、アースの補助にします。

写真5 アッテネータユニットの完成です。

写真6 CPUユニットに載せて、制御回路の配線を始めます。

写真7 配線面側の様子です。

4.大失敗

写真8の状態で何の不自由も無く動くはず、と思っていましたが、リレーが動作するとLCDの表示が薄くなり、そのうちに消えてしまいました。そうです。リレーの消費電流を計算せずに、小型のボタン型のニッカド電池を使ったためでした。小型のリレーですが、一個30mA程度流れます。リレーは5個ありますので、150mA以上は流せる必要がありますが、50mAhの電池にはあまりに過酷な要求でした。

写真8 「これで完成」と思ったのですが・・

そこで、まとめ方を見直し、写真9のようなアルミ板を曲げた金具で、簡易シャーシを作る事としました。下側に単3×4本の電池ホルダーを取り付け、写真10のようにまとめ直しました。単3のニッケル水素を用いれば、当然この程度の電流は楽々と流す事ができます。

写真9 1mm厚のアルミ板をコの字型に曲げ、簡易シャーシを作りました。

写真10 これで本当に完成の様子です。

5.ソフト

ソフトはアッテネータのリレーをコントロールするだけですので、普段はひたすらロータリーエンコーダの動きを見ているだけです。もちろん、動きを解析し、それによってアッテネータの制御とLCDの表示を行っています。写真11のように、第2回で紹介しましたテスト用ボードを使ってソフトの開発を行いました。

写真11 テスト用ボードを使ってソフトの開発を行っているところです。

6.測定

測定結果1は31dBを設定した時の、0~200MHzの特性です。100MHz以下では問題なさそうですが、125MHz付近にはディップ点が出てしまいました。0~500MHzが測定結果2となります。500MHzではダラダラと下がってしまいます。使いやすさと、高周波的な性能の良し悪しは別のもので、前回のアッテネータの方が特性的には優れています。恐らくリレー内部で可動部分の距離が、トグルスイッチよりも多少長くなり、その間のインピーダンスが50Ωに合ってないのでしょう。もっと小型のリレーが入手できれば、結果が異なる可能性もあります。また、グラフ1に設定値と実測値をグラフにしてみました。多少の誤差はありますが、直線性は問題ないようです。

測定結果1

測定結果2

グラフ1 設計値と実測値(50MHz)を測定しグラフにしました。若干の誤差はありますが、ほぼ問題ないでしょう。

7.終わりに

失敗は別にして、使いやすいアッテネータになりました。もし31dBで足りない時には、同軸型の固定アッテネータを併用して測定すると良いでしょう。前回紹介したステップアッテネータと併せて使っても合計62dBとなりますので、相当に用途が広がると思います。このようなアッテネータは、作った後にどのような応用をするかが鍵です。決してこれだけで終わるものではありませんので、何かのアイデアを考えて頂ければ幸いです。

ソフトを書いたICを希望する方がおられましたら、私のHPで紹介します。