1. はじめに

古い雑誌を眺めていると、当時は気にもしなかった記事に目が止まる事があります。それは興味が変化した事もあるのでしょうけど、私自身でいろいろと自作していた故に、反応する範囲も広がったとも考えています。この電源用ダミーロードは、CQ誌の1984年7月号の特集「海外の回路で作る実用アクセサリー」(JR1TRE岩間氏とJE1HPT久保田氏の共著)に掲載されていたもので、その元の出典は73magazine(sept,1982)となっています。当時は全く興味が無かったのですが、最近になって面白そうだと思い作ったものです。 これを手元にある部品に置き換え、写真1、2のように小型用にマイナーチェンジしました。

写真1 1.5Aの電流計を用いた、このような電源用のダミーです。電源の特性の測定、確認に使用します。

写真2 このように1.5mm厚のアルミ板を曲げて簡易シャーシにしています。

2. 回路と部品

CQ誌の回路は2N3055とVRを用いた図1のような簡単な回路で、どうも矢印の方向が違っているように思えます。図1では2N3055は1個ですが、これをパラにする事で100W機用の電源に使えるとなっています。私のところにはそんな大きな電源はありません。自作ばかりしていると、0.15~3A程度が程よく感じられ、その位の電源ばかりを使い分けしています。そこで2N3055はシングルとし、とりあえずメータに合わせて1.5A用として実験を始めました。メータは1.5Aのジャンクで、かなり大型なので非常に使い難く、ゴミ箱直前ジャンクでした。このような使い方なら、大きくてもあまり気になりません。その後に分流器を付け、3Aと切り換えるようにしましたがせいぜい10W機用です。

図1 CQ誌の回路図です。

最初に部品ありきで始めましたので、このような容量と作り方になっています。ヒートシンクはパソコンの中から出てきた写真3です。元はインテルのceleronに使っていたFAN付きのもので、「これは何に使えるか?」と思案していたところ、2N3055が出てきたのがキッカケで、昔の記事にリンクしたわけです。FANに電圧をかけてみると6Vで回り始め、20Vでは強烈に回ります。どうやら回る「感じ」から12V用のようですが、表示がないので断言できません。何しろ「壊れたら考える」という、乱暴な作り方です。長い間インテルを冷やしテルのですから、放熱には問題ないでしょう。2N3055は、今でも入手可能なポピュラーなトランジスターです。

写真3 パソコンの中から出てきた、FAN付きのヒートシンクです。

図2の回路で実験を始めましたが、VRはすぐにガリになってしまいました。元の回路では25Wの500ΩVRとなっていたのですが、70円の小型1kΩVRを使ったのでは耐えられないのは当然です。これは想定の範囲内です。電流を測ると、VRの接点には最大で40mAも流れていました。VRは、しゅう動子に電流を流さない事が理想ですが、流す場合にはしゅう動子側から流します。そうでないと、接触部分で陽極酸化を起こし抵抗値が不安定になってしまいます。この使い方ではW数的にも方向的にも無理を押した実験でした。

図2 この回路から実験を開始しました。

次に、25WのVRは高そうですし、それだけでダミーができてしまいます。そこで、もう一個トランジスターを入れてダーリントンにしてみました。こうすればVRに流がす電流は少なくなります。最初は2SC1815を使っていましたが、Pcを超えてしまいそうな気がしていたため2SD2037に交換しました。Pcは1.6Wですから充分でしょう。ジャンク箱から若干大きめのトランジスターを探しただけです。このようにして、最終的に図3の回路になりました。

 

図3 最終的にこのような回路になりました。

3. 製作

このような作り方ですので、ありあわせで試作したものが、そのまま作品となります。入手した電流計と、測定したい電源との兼ね合いでスペックを決める必要があります。ケースの大きさなどは電流計とヒートシンクで概ね決まってしまいますので、あまり参考にならないと思います。私の場合には、1.5mm厚のアルミ板をL字に曲げて、ケースというより簡易的なシャーシにしました。壊れても修復は簡単ですし、内部の様子もわかります。危なそうな時には、早めに止める事ができます。これが一番大事かもしれません。

ヒートシンクには2.5mmのドリルで穴を開けて、タップで3mmネジを切っています。放熱用のシリコンをたっぷり塗って、2N3055をガッチリと固定します。

1.5Aを3Aへ拡大する分流器は、写真4のようにワイヤーの長さを調整し、メータの振れが半分になる長さを探して固定しました。当然ですが、ワイヤーは長めから始め、振れ具合から見当をつけて短くして行きます。常識的な方法で、簡単にできるように書くのですが、だいたい一回は失敗します。私も2回作り直しをしました。

写真4 赤いワイヤーを巻いている部分が分流器になります。

切り替えスイッチは接触抵抗の影響が大きいため、良さそうなものを探して使う必要がありました。電流容量が十分であれば良いというものでもなく、不安定になってしまい使えないスイッチもありました。実験の流れのまま製作したため、切り替えスイッチはメータの裏側端子に直接ハンダ付けしています。

4. 測定

VRは左に回し切っておき(つまりトランジスターのベースは0V)、試験する電源を接続します。電流計を見ながら、VRを序々に右に回します。これで電源がどのような安定化性能を持っているのか、どのようなフの字特性を持っているのかをチェックする事ができるわけです。また、同時にオシロスコープで波形を見る事で、動作中のリップル電圧を連続的に見る事ができます。

試しに、写真5のような自作電源(12V 1.5A)を測ってみました。何しろ30年前に自作して、そのまま使っている年代ものです。この頃は各種のゴム印をたくさん集め、金属用の不滅インキを使用していました。測定している様子が写真6です。グラフ1と2に測定した結果を示しますが、案の定たいした性能ではない事が出ています。

写真5 試しに測定した12.5Vの1.5A定電圧電源です。

写真6 測定している様子です。

グラフ1 5Aの電源のつもりでしたが、1.5Aまで取り出せてない事が解ります。

グラフ2 取り出す電流が多くなるにつれ、リップルも増えてしまいます。最終的に減っているのは、出力電圧が下がっているためです。

5.おわりに

22年前には興味がなかった記事の追試となりました。かなりマイナーチェンジの部分はありますし、ジャンクの寄せ集めですが、基本的に入手し難い部品はありません。また、代替できる部品もたくさんありそうです。

5V以下になった時にはFANが回りませんので、放熱効率が下がってしまいます。その点は十分に注意しながら使う必要があります。逆に20Vも加えるとFANが強烈に回り過ぎる感じで、放熱としては良いのですが、ベアリングの耐久性が心配になります。別の意味で注意して使う必要があります。FANの電源を別にすれば良いのですが、使用範囲は9~12Vが中心ですので、そこまでする必要はないと考えました。もちろん、5Vとか20Vを中心とする場合には、対策を考える必要があります。