1. はじめに

普通は電子工作の紹介をしているのですが、今回はちょっと変わった工作を紹介します。ハンダ付けはするのですが、電流は全く流れません。スペアナやオシロスコープ等の画面をデジカメで写して保存するための、写真1のような接写装置です。もちろん、フィルムカメラでも同じように使用可能です。

写真1 このようにしてスペアナやオシロスコープの画面を撮影するもので、三脚は不要です。

2. データの保存について

最近のオシロスコープやスペアナは、内部でパソコンが制御しているようなものですから、波形の保存についてはjpgやtifなどの形式で、フロッピーディスク等に取り出す事ができます。しかし、少し前の測定器ではカメラで写すのが普通でした。専用のポラロイドカメラなど、10~20万円もしていました。こんな高いものは趣味の世界では使えません。私はダンボールを切ってガムテープで貼りあわせ、写真2のようなフードと三脚を作ってスペアナの画面を写していました。最初の頃は35mmの一眼レフ(もちろんフィルム)と接写用レンズを使い、データをメモに残しながら写して現像に出したものです。

写真2 それまでは、このように三脚とダンボール製のフードを使っていました。ガムテープが必需品でした。

最近ではデータを数値で取り出す方法も考えましたが、デジカメを購入してからはこの方が早いという事で、専らデジカメを使っています。ところが、三脚を使って高さや位置を調整する必要がありますので、写すたびに角度が変わってしまったり、画像の位置がずれたりします。それをパソコンで加工するのですが、そのたびに異なる加工をする事になります。結局BEACONの記事を書くようなとき、一枚の失敗のために全ての写し直しをしていました。それは記事の流れの中で、データを写した写真の雰囲気が変わってはおかしいからです。

そこで、いつでも素早く簡単に、しかも同じ写真が写せるように、作ったのがこの接写装置です。

3. 作成

まずはカメラの焦点距離を確認します。せっかく作っても、画面に近過ぎてピントが合わないのでは悲劇です。デジカメの場合は普通マクロ機能がありますので、まず問題ありませんが一応確認しておきましょう。焦点距離は短ければ扱いやすいのですが、近づき過ぎて罫線が歪んで写っては困ります。そのような事からは、なるべく遠くから写す方が良いのですが、それには限度があります。実際に写して確認し、どこかで妥協するしかありません。

次は写そうとするものの口径です。普通は119×106mmが標準のようですが、異なる場合もあります。この部分はピッタリと収める必要があります。但し、上側の溝に合わせて突起を付けますので、上下方向に多少の「入れしろ」が必要です。次にカメラ側の口径です。この部分が広いと光が入り、画面に写り込んでしまいます。だた、多少の隙間があっても黒い布を被せる事で何とかなりますので、神経質になる事はありません。これにピッタリと合うように、図1のような内寸で作る事にしました。

図1 スペアナやオシロスコープに合わせて、このような内寸にしました。

なお、私の使用しているデジカメは、かなり古くなりますが、オリンパスのC-1を使っています。これらを併せて、図2のように基板を切断する事にしました。久しぶりに三角関数で悩んでしまいました。

図2 基板をカットする設計図です。

まずプリント基板を図2のようにカットします。もちろん使うデジカメによって、修正して下さい。写真3がカットしたプリント基板です。片面基板で十分なのですが、最近ではジャンクで出回るのは両面基板が多いようですので、両面基板を使っています。基板の材料費は300~400円程度でしょう。これらの基板をハンダ付けで写真4のように組み立てます。一気にハンダ付けせず、一部だけ付けてみて、収まり具合を確認しながら作業を進めます。フタのない円柱に近い構造になりますので、力の加わる方向によっては壊れやすくなります。そこで黄銅の板を加工してアングルを作り、補強金具としてハンダ付けしています。この部分を写真5に示します。

写真3 生基板をカットしたところです。

写真4 このように組み立てます。

写真5 黄銅板を曲げて補強用のLアングルを作りました。ガッチリとハンダ付けします。

スペアナ等のディスプレイの上側には、写真6のような溝が切ってあります。これがフードを固定する溝になります。この溝に合わせて、フード側にも写真7のような突起を付けました。ある程度の力が両方向からかかりますので、片面基板では外れてしまいカメラを落とす危険があります。ここは両面基板を用いて両方向からハンダ付けをしっかりと行いましょう。図3のように両面基板を3mmに切ってハンダ付けしています。もう少し狭い方がスペアナやオシロ側の溝に合うのですが、取付けた後でヤスリで削って微調整した方が楽です。この固定にも細心の注意が必要です。中心だけ仮付けして具合を確認しながら、少しずつハンダ付けを広げて行きます。

写真6 スペアナのディスプレイの上側には、このような撮影用のフードを固定する溝があります。

写真7 その溝に合わせて、両面基板を3mm幅に切ってハンダ付けしたところです。

図3 ディスプレイの溝とフードはこのように合わせます。

次にカメラを取り付ける金具を作ります。この金具が曲がっていると画面が中央に来ません。何度も調整する必要があります。アルミ板をカットし、僅かな角度を付けてカメラの軸が水平になるようにします。しばらくこれでカメラを固定してみましたが、ちょっとした衝撃でカメラの角度が変わってしまいます。そういえば、三脚のカメラを固定する部分(雲台)には、ゴムの滑り止めが貼ってある事に気が付きました。そこで薄いゴムを探してみましたが、灯台元暗し。プリント基板の裏に貼るゴムのシールを切って使ってみました。これで一切不意に回ってしまう事は無くなりました。もちろん強引に回せば回ってしまいます。写真8がこの金具の様子です。図面は書かずに適当なアルミ板を現物合わせで加工しました。固定用のネジは、カメラ専門店で探したものです。

写真8 カメラ固定用の金具です。影の部分にゴムシールが貼ってあります。

上側に蝶番を使ったのぞき窓をつけましたので、画面を確認してからの撮影がやりやすくなりました。蝶番は小型のものを購入し、ネジで固定しました。また、タンスに使用するようなツマミを買ってきましたので付けていたのですが、重さでパタパタしてしまうため、ネジだけにしました。

フードの内側は光の反射を防ぐため、黒のツヤ消しスプレーで塗装する事も考えました。しかし、実際に写してみても何ら不都合はありません。使用目的は充分に達成できていますので、塗装は止めました。

4. 使用感

とても便利です。今までの苦労は何だったのかと思うくらいに、素早く簡単に、しかも同じ条件での写真が写せるようになりました。上側の覗き窓も、とても便利です。欠点といえば、今までは写真9のように畳んで本棚にでも保管できたのですが、場所が必要となってしまった事です。しかも、極めて収まりの悪いスタイルで、のぞき窓などもパタパタしてしまいます。

写真9 今までは、このように畳んで本棚に保管可能でした。

試しにスペアナとオシロで撮影をしてみたのが、写真10と写真11です。今までと同じといえば同じ結果なのですが、写すまでのセッティングとパソコンでの後処理が簡単になりました。

写真10 試しにスペアナを写しました。

写真11 オシロを試しに写しました。

5.おわりに

今回は電子工作というよりも、電子工作「関連」となってしまいました。ちょっと変わった日曜大工ともいえるでしょう。まだまだ、アマチュアの間ではアナログオシロや、旧タイプのスペアナが多く現役であると思います。このような工作で、作業の効率が上がる事は良い事だと思いますし、日曜大工も楽しいものです。

なお、このようにデジカメで写した測定記録は、パソコンでネガ処理してから印刷しましょう。その方がインクの消耗が少なくて済みます。