エレクトロニクス工作室
No.31 CW解読機
1. はじめに
その昔、TVをやりたくて2アマを取った私にとって、CWは大の苦手です。35年位前の話しですので、現在は4アマでTVもできます。送信の試験時など、アルファベット26文字で精一杯なのに、「受験番号を打って」と言われて固まってしまったのでした。そして案の定間違えてしまい、「ちゃんと覚えてね」と言われたのですが、「そんなつもりは無いのだ!」と心で思っていました。この時に、試験に出る26文字しか覚えていなかったのが、今になっても続いているのです。それでも何とか2アマはクリアーしましたが、当然1アマは不可能でした。(今ならOK)
しかし、10年程前に今年はCWをやろうと一念発起し、まず始めたのが「聞く」のではなく、CWの解読器を作り始めたのでした。すぐに自作に走ろうとする所が、正道か邪道か別として、技術的には面白いテーマです(邪道という意見が多い事でしょう)。このようにして開発を始めたのが、写真1のCW解読器です。LCDを取り外したのが写真2になります。
写真1 このような、4行のLCDを使ったCWの解読器です。
写真2 LCDを外すとこのようになります。
2. 800Hz検出回路の長い遠回り
FCZ研究所のキットにEVER599というものがありました。QRMのあるCWを入力すると、ある一定の周波数を選んで検出し、別のトーン発振器を動かす事で、常に599になるというものでした。私がこのキットに興味を持った頃には中止になっており、IC(LM567)は入手可能でしたが、ちょっと違う方向から攻めてみる事としました。このような機能をソフトでCPUに持たせてみたのが、デジタルCWフィルターです。写真3は、このデジタルCWフィルターをAKI80を使った解読器と組合わせて実験しているところです。これが遠回りの始まりでした。
写真3 左がAVRのデジタルCWフィルターで、右がAKI80です。これでも一応は動作していました。
デジタルとはいっても高級な機能にはほど遠いものですが、何かと遊びの入り口にはなるだろうと思いました。単一のトーンを選び出すため、ON/OFFの繰り返す周波数が一定になった時のみに信号ありと判断します。図1が回路で、トーンをオペアンプで増幅し飽和させ方形波にします。これをCPUに入力し、周波数が合致した時に2ピンにHを、3ピンにLを出力します。
図1 AVRを使ってソフトで処理するデジタルCWフィルターです。名称は立派ですが、大した性能ではありません。
ところが、本来人間の耳なら取り除かれる余分な信号や、僅かな周波数のズレが結果に出てしまいます。信号ありと判断すべきところで、ブチブチと穴が空いたようになったり、反対に信号なしのはずが、不自然に短い信号が出たりする事がありました。実際、この後に別のCPUで作った解読器をつないでもなかなか文字になりません。発振器を使ってCWの練習をすると、完全に解読するのですが、ここはこの方法はあきらめ、LM567を使う方法を試す事としました。
そこで長い遠回りをしましたが、EVER599の回路を参考にLM567を図2の回路で試してみました。すると、これまでの苦労が「何だったの?」というくらい見事に800Hzを拾い上げるではありませんか。これには降参し、LM567を使う事としました。
図2 LM567の最初の実験回路です。
3. CPUの長い遠回り
10年前からの構想であったため、当時はAKI80を使ってソフトを作り初めていました。自分でキーを叩いてみると、一応正しい文字が出るようなソフトです。中断していたのは800Hzの検出回路のためでした。この回路がうまく動いたので、試しに古いユニットを持ち出してみました。これでCWのQSOを入力してみると、ちゃんと文字になります。これでまとめようかとも思ったのですが、今更Z80系でもあるまいし、ソフトの変更も出来ないし・・。と考えてAVRを使ったソフトの開発を始めました。
しかし、ネットで検索してみると、JK1XKP/貝原さんのHPに良さそうなソフトがあります。基本的な回路もあまり変わりません。CPUにはPICの16F84を用いていました。さっそくダウンロードして試したところ、私の作ったソフトよりもずっと出来が良く、具合良く動きます。そこで、このソフトを使う事としました。結局、長い遠回りをし、時間がかかった割にはあっけなく決めてしまったのでした。貝原さんにはこのBEACONでの使用に際し、快く承諾して頂きました。このページをお借りして、厚くお礼申し上げます。
4. 回路
図3に示します。入力にはマイク入力とLINE入力を設け、切り換えるようにしました。スライドスイッチで切り換えても良かったのですが、写真4のようなジャンパーピンを用いました。LINE入力とはいっても、VRを使っただけのいい加減なもので、600Ωとかインピーダンス一定とかには無縁なものです。また、他のトランシーバーのAFゲインにパラとした時には、音声レベルが下がってしまう事もあります。
図3 最終的な回路図になります。
写真4 青いVRの左側がジャンパーピンです。
800Hz検出にはLM567を使ったトーンデコーダを使用しています。トーンがこれによってONかOFFの信号になりますので、後は解読用CPUのPIC16F84に入力し、ソフトで処理をして4行のLCDに表示します。
LM567周辺のコンデンサは、図4に示す値を使っています。C1(3.3μF)はOUTPUT FILTERのパスコンで、0.47μFだとノイズのような出力になってしまいます。といって10μFとすると、信号と信号の間のスペースが短くなり認識し難くなります。C2(0.47μF)はデコードする周波数の幅が変化します。1μFでは狭くなり過ぎる感じでした。これらの中心的なコンデンサの値は、FCZ大久保さんの発表された値がベストという結論になりました。
図4 LM567周辺のコンデンサ値です。
PIC周辺の回路は前述の貝原さんの回路と同じです。全体的にもあまり変りません。
5.作成
このような低周波とデジタルの回路ですので、それ程気を使う事もありません。普通のジャノメ基板に組み立てました。今までは考えながら配線していたため、時々(良く?)しくじる事がありました。今回はパソコンで図5のような実装用図面を引いてから組み立てましたので、不用意なしくじりは無くなりました。
まず生基板をカットし、写真5のように裏面にアースと電源ライン用の銅テープを貼ります。次に、実装用図面のとおりに組み立てました。銅テープに穴を開ける場合は、100円ショップで買った手回しのミニドリルを使いました。ハンダ付けした様子が写真6です。これで写真7のようにして動作の確認を再度行いました。とはいっても、もう少し検討した方が良いでしょう。
写真5 生基板をカットし、実装図に従って銅のテープを貼ったところです。
写真6 ハンダ付けした後です。
写真7 アルミ板にネジ止めする前に、基板だけで動作のチェックをします。
LM567は、この他にNE567やNJM567も同様に使用できるようです。あまり無線関係では馴染みのないICですが、この手としては定番のICのようです。NE567でも試してみましたが、全く同様に動作しました。NJM567については試していません。
LCDの下側にICやCR類を置きますので、部品の高さ制限がでてしまいます。電解コンデンサは小型のものでないと収まりません。また、半固VRの位置が良くないため、後からの調整が一部やりにくくなっています。仕方ない事ですが、不便といえば不便です。
ケースにはタカチのYM-130を用いる予定でしたが、スイッチの取り出しなど考え、10cm×13cmのアルミ板上に基板と電池を並べるだけとしました。電源には単3型ニッカド電池を4本を使いますので、ちょっと窮屈になります。もう少し大きめにするか、電池を単4にしてしまう方法もあります。
6.調整
LCDの半固VRは、文字が見やすいように調整します。LM358の100kΩ半固VRは、出力電圧(つまり7ピン)が電源電圧の1/2になるように調整します。LM567の10kΩ半固VRは、デコードする周波数を設定します。つまりCWを800Hzで聞くのであれば、800Hzを入力した時に反応する(LEDが点灯する)ように調整します。CWを聞きやすいようなトーンで聞いて、それに合わせれば良いでしょう。逆に本機を使う時には、LEDの点滅がはっきりとするように受信機のチューニングを取ります。
7.終わりに
QRMやノイズで文字にならない時もありますが、正しく信号が入ってくれば問題なく解読します。「通信の秘密」という電波法もありますので、QSOで表示した文章は載せられませんが、私の良く解らない符号でもちゃんと読んでくれます。補助として使う事もできそうで、これで趣味の幅が広がりそうです。