[1.はじめに]

今までBEACONの中で、かなりの数の測定用ツール類の紹介をしてきました。それはそれで良いのですが、基本的な測定器であるSWR計が無い事に気が付きました。SWRの測定にはいろいろな方法がありますが、SWR測定シリーズも何回か行ってみたいと思います。

そこで手始めに、写真1のようなオーソドックスなSWR計を作ってみました。メータはトグルスイッチでの切替式とし、矢印の方向を読むようにしています。つまり、入力(送信機側)と出力(アンテナ側)をどちらに置いても同じです。一応HF〜50MHzの2〜3W程度でフルスケールが取れる事を想定しました。

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写真1. このようなSWR計を作成しました。

[2.SWR計について]

この方式のSWR計は、私が開局した1970年代には写真2のようなものが、たくさん製品として売られていました。これは当時8k円程度したように思いますが、何時の間にか流行らないスタイルになってしまいました。この頃のリグにはSWR計が内蔵されていないのが普通で、多くの局はこのような外付けのSWR計を使っていました。実際に各種製品が売られていました。

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写真2. ハムセンターのSWR計、30年程前はこのような製品が沢山発売されていました。

それから月日が流れ、SWR計のしくみが少し解ってくると、本来SWR計はインピーダンスを乱し、大事な電力を使ってメータの針にエネルギーを与えて振らせるものだと気が付きました。メータの感度が良い事による高感度なら良いのですが、回路的に高感度にしている場合は、結合度が深い=インピーダンスを乱し電力のロスが大きい、という事になります。QRPの電力で振らせようとするとロスが大きくなってしまい、何のためのSWR計?となってしまいます。従って、この方式はあまりQRPには向かず、数W以上に使うのが良いと思います。

ちょっと斜めから見たSWR計云々ですが、このようなオーソドックスなSWR計を作ってみました。

[3.回路]

図1ですが、一般的なSWR計の回路となります。トロイダル活用百科に載っていた回路を若干アレンジしたもので、オーソドックスな回路です。方向は、コイルの向きで入れ替わってしまいますので、注意して下さい。適当に作って後から確認すれば良いと考えた方が気楽で良いかもしれません。

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図1. 回路図になります。コイルにはFT50−77を使用しています。

コイルはFT50−77を用いて10回巻とし、中央に入出力間の信号を通過させます。つまりこれが1回巻となります。この部分はライン上の電流をピックアップする回路で、−20dBの信号が10回巻側に現れます。次に対地間にコンデンサを入れ、分圧した電圧をピックアップします。このように電流と電圧をそれぞれピックアップし、これらの信号を合成します。この時に、位相が和となる場合は進行波、差となる場合は反射波となります。これによって進行波あるいは反射波を取り出し、ダイオードで直流にしてメータを振らせます。メータは200μAを使用しましたが、100μAの方が良いでしょう。

進行波による信号でメータを振らせたときに、VRでメータをフルスケール、つまりSWRが∞のポイントに合わせ、そのまま反射波の方向でメータを振らせると、SWRの測定ができるわけです。VRは100kΩを用いていますが、常に左一杯にまで絞って使う場合や、フルスケールまで絞れない場合は、コイルの結合度を下げるべきでしょう。その方が電力のロスが少なくなります。この場合、電圧の結合度は10pFを小さくし、電流の結合度は51Ωを小さくするかコイルの巻数を増やします。

[4.作成]

このような作成はプリント基板を使うよりも、直接空中配線で組んでも作る事ができます。よく使う方法ですが、写真3のようにシールド付きの基板に銅デープを貼って作ってみました。部品をハンダ付けして、アルミのLアングルをネジ止めしたところが写真4と写真5です。ケースは使わず、アルミ板を折り曲げただけの写真6のような簡易なシャーシを作ってみました。写真7が組み上げたところです。

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写真3. このように、シールド付きのジャノメ基板に銅のテープを貼り、また、トロイダルコアに合わせた切れ込み加工をします。

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写真4. 部品を取り付け終わったところです。

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写真5. このように、固定用金具としてアルミのLアングルもネジ止めしました。

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写真6. アルミを折り曲げただけの簡易シャーシです。

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写真7. 基板を固定して完成です。

目盛はパソコンで作っても良いのですが、あえてμA目盛のままとしました。QRPの場合にはフルスケールがとれるとは限りませんので、表1を底面に貼り付ける事にしました。普通のメータを使う場合には、目盛を作ります。フルスケールの50%つまり反射50%のポイントは、電圧の最大が1+0.5=1.5となります。最小が1−0.5=0.5となりますので、1.5/0.5=3がSWRとなります。これはSWRの式そのままです。この表1のようになります。但し、あまりに入力が少ないQRPの場合には、ダイオードの立ち上がり特性が影響してしまいますので、誤差要因となります。

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表1. SWRをエクセルを用いて計算したものです。

[5.調整]

写真8のように左側に送信機、右側にダミーロードを接続します。ダミーロードは標準となりますので、なるべくSWRの低い上質のものを用います。もちろん電力的に余裕のあるものです。VRは左側へいっぱいに(抵抗が最大のところ)回しておきます。

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写真8. 左側に送信機、右側にダミーを接続します。逆からでも同じですけど。

このまま送信し、トグルスイッチを操作しメータの振れる側にします。メータの振れがフルスケールの位置になるようにVRで合わせます。次にトグルスイッチを反対の振れない側にします。メータの振れが最小になるように、トグルスイッチで使っている回路の方のVCを調整します。ダミーロードが正確であれば、ほぼゼロに合わせられるはずです。一旦送信を中止し、ダミーロードと送信機を入れ替えます。再度送信し、同様に調整します。

なお調整は、良く使う周波数か高い周波数で、2〜3回繰り返せば充分と思います。文章にすると面倒そうですが、実際に行ってみるとそれ程のものではありません。SWRの不思議を少し体験できるかと思います。

[6.終わりに]

普段なにげなく見ているSWR計ですが、実は奥深いものがあります。理論も大切でしょうけど、実際にSWR計を作ってみると結構楽しいものがあります。

写真9と写真10は同じように試作した、もう一台と写してみました。

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写真9. ちょっとメータの大きさが違いますが、ほぼ同じ回路で試作したもう一台と写してみました。

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写真10. 裏側の様子です。