エレクトロニクス工作室
No.37 デジタルRF電流計
1.はじめに
今年のハムフェアも盛大に行われました。何か面白いものはないかと、いつも探すのですが、今年は写真1のような『デジタルRF電流計』のパーツセットを入手し、作成しましたので紹介します。このような高周波の電流計は他に知りませんが、使い道は結構ありそうです。
写真1:このような洗濯バサミを用いたクランプ式の高周波用電流計です。
2.高周波電流の測定について
コモンモードや給電線上の電流を測定したい場合には、良い方法がなく困っていました。直流や50Hz用の電流計はたくさん市販されていますが、高周波で使えるようにはできていません。そこで、このようなクランプ式の高周波専用の電流計が登場します。
原理は20dBカップラーと変わりありません。カレントトランスを用い、高周波電流の一部を取り出して検波し、直流電圧にしてデジタルテスターで表示します。デジタルRF電流計とは言っていますが、デジタルテスターは別に用意します。詳しい事は「トロイダルコア活用百科」の最新版を参照して下さい。古い版にはありませんので、注意して下さい。
3.このパーツセットについて
クランプ式の電流計を考えた場合、一番問題となるのが分割されたコアの入手です。大きめのコアを買ってきて自分で切る事も考えましたが、金ノコなどではまともには切れません。実は、試した事があるのでした。そこで、このような分割されたコアを探していたところ、今年のハムフェアで目に付いたのでした。しかも、コアだけでなく一式のセットとしてありました。これはありがたいという実感です。
このように今年のハムフェアで入手しましたが、同じものが通販でも入手できます。大進無線のホームページで、CQ−23がこの写真2のパーツセットになります。パーツセットとキットの違いは良く判りませんが、他に必要となるのは工具だけですので、キットとしても良いと思います。
この他にも、分割されたコアだけの購入もできますので、他に面白いアイデアがあれば余分に購入しておいても良さそうです。
写真2:セットはこのように梱包されて送られて来ます。
4.作成
送られてきたパーツセットから、部品を取り出したのが写真3になります。まずコイルの作成からですが、その前にビニールの突起が邪魔になりますので、写真4のようにニッパで切っておきます。次に結束バンドを写真5のように仮止めします。この時には軽く締めておくだけにします。写真6のように半分側だけ5回巻きします。写真7のようにもう片側も5回巻きします。ワイヤーを開口側ではない側に戻し、結束バンドで締めます。この時に、ラジペンなどを使って下手に締めるとコアを割る事がありますので、テコの支点には注意して下さい。このような割れてしまった場合には、接着剤で固定します。まるで割ったような書き方ですが、実は見事に割りました。割れる時には何の前ぶれもなく、簡単に割れるという印象です。
写真3:内部の部品を取り出したところです。
写真4:分割されたコアは、まずビニール製の突起を切ります。
写真5:結束バンドを仮止めします。
写真6:片側に5回巻きします。
写真7:もう片方も5回巻きします。
結束バンドはニッパで切断し、写真8のように大型の洗濯バサミの中に収めます。なかなかのアイデアで、ピッタリと収まります。このようなピッタリの洗濯バサミも、自分では探すのは大変かと思います。
写真8:結束バンドをカットし洗濯バサミの中に固定します。
次に検波基板を作成します。この部品が写真9になります。写真10のように作成しました。配置については各々の方で考えて、という説明書の書き方ですが、洗濯バサミに収納できる大きさにカットしてあるたためか、どうもジャノメの穴が中途半端で部品実装には首を捻ります。面積的には不足ないのですが、しっくりきません。部品を並べてイメージすると納得して頂けるかと思います。ダイオードはブリッジですので、写真11のように一本はハンダ面に持って行った方が収まり良く製作できます。
写真9:検波部の部品になります。
写真10:部品面です。
写真11:ダイオードはブリッジですので一個はハンダ面に取り付けると収まりが良くなります。
写真12の状態で動作チェックを行います。良ければ、基板を選択バサミの中に収めて熱収縮チューブを被せて完成です。説明書の中には製作例がありますが、基板はコードの中間においてもどちらでも構いません。ただ、デジタルテスターのリード線もありますので、あまり長いコードをブラブラさせておくのも考えものかと思い、なるべく短めにまとめました。
写真12:この状態で動作チェックします。その後基板を熱収縮チューブで固定します。
5.校正
これで電流の大小の比較はできます。しかし、値としてどの程度の精度を持っているのかを確認する事も大事な事です。つまり調整ではなく、校正表の作成となります。トランシーバーとダミーを図1のように接続し、周波数ごとの誤差をチェックします。このキットは0〜300mAを測りますので、5W程度の送信機があれば50Ωの負荷でフルスケールまで校正できる事になります。
図1:トランシーバーとダミーを使用したテスト方法です。(※クリックすると画像が拡大します。)
この他にSGを使って校正する事も可能です。ちょっと出力は低いのですが、図2のように出力をショートしこの位置で測定しますと、SWRが無限大で電流が最大の位置となります。この場合の電流はI=V/Rで求める事ができます。
図2:出力レベルの低いSGを使用した場合のテスト方法です。(※クリックすると画像が拡大します。)
6.使用方法
いろいろな応用ができるかと思います。同軸に載ったコモンモードのRF電流を測る事もできるでしょう。
そして、クリップタイプのノイズフィルターを入れる効果があるかどうかも、今までは機器の動作状態で結果として効果ありとしていた事が、何dB改善したのでTVIがこれだけ減った、これだけのダイナミックレンジが得られた、のように判るようになるでしょう。
7.おわりに
もっと大きな電流を測りたい場合には、ブリッジ入力の1MΩを小さくする事で、ある程度は可能となります。どこまでコアが耐えられるのかは良く判りません。
逆に小電流を測る場合には、ダイオードブリッジを止めて直接スペアナに入力してしまう方法もあるでしょう。この場合は、電流計というよりもクランプ式の20dBカップラーとなるでしょう。
一見地味に思えるかもしれませんが、実はあらゆる場面において使えるツールと思います。今まで測り難かったものが測れるというだけでワクワクしてしまいますし、工夫次第で様々な応用ができるものと思います。