1.はじめに

最近では自作をしていてもGPS関係の機器が多くなったように思います。このGPSにはアンテナが必要です。私も最初はカーナビ用のアンテナを窓の横に置いていました。しかし、GPSDOの大元となってくると出力の周波数が安定せず問題が残ります。何とかしたいと思っていた時に、写真1のようなGPS用のアンテナをジャンクで入手しました。某所でタイムサーバー用に使われていたものです。これが屋外に2本並べて設置されていましたので、私は勝手に「ドラえもんの手」と呼んでいました。少し試してみると、カーナビ用よりも感度がかなり良い事が解りました。外に出してみると更にレベルが上がりました。

写真1 入手したジャンクのGPSアンテナ

そこで、このアンテナを使う事を前提に、GPSアンテナをシステムとしてまとめる事にしました。そして写真2のような分配器を作りました。分配器の出力をNo.180の「10MHz GPS発振器」に入力し、その出力でNo.189のGPSDOを動かします。この他に、No.164の「ハイブリッド方式の周波数カウンタ」にも同時に供給するようにしました。3分配していますので、残りの出力は次の実験に使用できます。

写真2 自作した分配器

2.アンテナの整備

分配器の自作に先立って、まず初めにアンテナの整備を行いました。この整備が分配器の前段にあります。入手したジャンクのアンテナは、写真3のように内側と外側の2か所にOリングが使われていました。内側のOリングはひどくはありませんでしたが、外側の方は風化してボロボロに切れていました。モノタロウで探すと似たようなサイズが沢山あり選択に困りましたが、何とか同じようなサイズを探して交換しました。下側のケーブルを引き出すところは、ホームセンターで同じサイズのキャップを購入しました。これはカッターで切れ込みを入れて、ケーブルを通します。

写真3 まずはOリングを交換

このアンテナを写真4のように2階の南側ベランダに設置しました。固定用の金具もモノタロウで購入しました。同軸の固定には耐候性のある結束バンドを用いています。写真4では極めて郊外であると分ってしまいますが、ポツンと一軒家ではありません。GPSの衛星は南の地平線より上がり、南の地平線に戻るようです。そのため南側への設置が推奨されています。本来は屋根以上に上げないと北側の衛星の補捉には難点があるのですが、少なくとも南側を優先する方が良いようです。

写真4 ベランダに固定した様子

このアンテナのケーブルは写真5のようにしてアルミサッシを通り抜けました。これはJARL栃木県支部が毎年行う「ハムのつどい」で当てたコメットのCTC-50Mです。1GHzまでとなっていましたが、測定したところ測定結果1のように1.5GHzでも何とか通せるだろうと考えました。測れる範囲ではありませんが、多少悪化する程度でしょう。受信するだけですし、多少ロスが増えても支障はありません。もちろん屋内は別の同軸で通しました。

写真5 市販の隙間ケーブルを使って室内に入れた

測定結果1 1 GHzまでの隙間ケーブル 1.5GHzでも通せそう

このようにして屋外のGPSアンテナを開通させました。なお栃木県支部が行う「ハムのつどい」は、今年は昨年に引き続いて中止になってしまいました。コロナ禍の影響です。今年は個人ブースを出して、講演会も行う予定だったのですが残念です。
 

隙間ケーブルで検索すると、結構自作がヒットします。工作教室なので自作しても良いのですが、あるものを使う事も大切です。無線機用に使っている隙間ケーブルも古くなりましたので、そのうちに自作してみようかと思っています。QRPですので、私的にはこれで充分です。
 

タイミング良くジャンクのGPSアンテナが入手できたのは幸運でした。このような屋外用のGPSアンテナも検索で何件か見つける事ができます。アンテナは屋内よりも屋外の方が有利なのはアマチュア無線もGPSも同じです。

3.回路

さて分配器の回路ですが、入力した信号を分配しますので必ずレベルが低下します。そこで分配する前にアンプが必要となります。しかし広帯域を増幅した場合、GPS以外の電波の影響が考えられます。そこで1.5GHzのBPFをマルツで探しました。TDKのGPS用SAWフィルタでB3522という型番を2個購入しました。写真6のようなフィルタで、入出力共に50Ωになります。初めに実験として、ひとつめは写真7のようにSMAコネクタにマウントしてみました。私のスペアナでは特性は測れませんが、No.164の「ハイブリッド方式の周波数カウンタ」に使ってみると衛星の捕捉数とレベルに変化は感じませんでした。もちろん実際には必ずロスがありますので、解らない程度という事です。No.210のストリップライン式BPFは、このために実験したものです。

写真6 入手したGPS用のBPF

写真7 SMAコネクタを使って単独で使えるようにしたBPF

1.5GHzのBPFを通した後にMMICで増幅します。No.209の「BGA420を使ったワイドバンドアンプ」はこの実験でもありました。ただ、BPFや分配とケーブルの引き回しでのロスを考えると、もう少しゲインがあっても良かったと思います。
 

一番困ったのが分配器です。こんな高い周波数の分配器は作った事がありません。最初はコアを使ってみたのですが、ロスが多くてNGでした。これは想定どおりです。普通であればストリップラインで作るのでしょうけど、私には無理です。それなら試しにと写真8のように抵抗で作ってみました。3分配ですので4ポートとなり、この場合の抵抗は25Ωです。これが測定結果2のように、0~1500MHzですが理論どおりの約10dBのロスでした。10dBだと下手にコアを使ったものと大差ありません。それなら抵抗にしてしまえと、抵抗で3分配をしました。抵抗の場合、分配数によって抵抗値とロスが変わりますので注意して下さい。なお写真8では見難いのですが、抵抗の他にチップの100pFをDCカットのために入れています。そのために低い周波数でのロスが大きくなっています。分配につかう抵抗は25Ωが理想ですが、これは入手し難いため実際には51Ωをパラにしています。写真8では足付きをパラにしていますが、次に作った基板ではチップの51Ωを2階建てにしてパラにしました。ポート間のアイソレーションはロスの値と同じになります。

写真8 試しに抵抗で作った分配器

測定結果2 抵抗で作った分配器の特性

このように実験を行って図1のような回路としました。アンプで使う電源を使って、GPSアンテナ用に供給します。ジャンクのGPSアンテナの電圧は12Vですが、最近は5V程度で動かす場合も多そうです。電圧はジャンパーピンで切り替えるようにしました。

図1 回路図

4.作製

秋月電子のシールドの付いたC基板を使う事としました。実装図を図2のように作製しました。ハンダ面が図3になります。入出力はSMAコネクタの基板エッジマウント用を使っています。ハンダ付けした様子が写真9になります。ハンダ面が写真10になります。チップ抵抗等とMMICはハンダ面に付けています。前述のように、25Ωはチップの51Ωを2階建てのパラにしています。SAWフィルタについては部品面のアースを使っていますので注意して下さい。SMAコネクタの間隔は、もう少し開けておいた方が使い勝手が良かったようです。

図2 実装図

図3 ハンダ面

写真9 基板を作ったところ

写真10 ハンダ面

基板の作製後は動作を確認し、同じサイズのアクリルを台にしてネジ止めしました。ケースには入れませんでした。今回はそれだけではなく、上側にもクリアのアクリルをネジ止めしました。そして写真11のように壁に吊り下げて、出力をGPSDOと周波数カウンタに分配しています。出力は3つありますので、未使用の出力端子は50Ωで終端します。抵抗で分配する回路ですので、インピーダンスがずれないように終端抵抗が必要になります。

写真11 紐で壁に吊り下げて使っている

5.使用感

GPSDOへの入力レベルとすれば、アンテナを直結する方が少しだけ高くなります。まあ、しかし複数台のGPS機器を使うためには仕方ないのでしょう。少なくとも、これまでのカーナビ用アンテナよりも衛星の補足数が増えた事、全体のレベルが上昇した事、GPSDOの揺らぎが減った事、これは事実であります。GPSDOの出力を安定させる事が目的ですので、充分に達成できたと思います。但し私の測定環境ですので、どの程度の改善があったのかの数値的な検証ができません。
 

このような作り方以外にも、BSアンテナ用の分配器が使えないかと考えたりしました。しかし、大きなメリットも無さそうでしたので抵抗を使っています。いろいろな作り方があっても良いと思います。
 

慣れない周波数の自作となってしまい、この帯域を専門とする方からすると未熟な作品と思われるでしょう。シロウト工作ですが、部屋の窓においたアンテナよりも遥かに良い結果が得られました。

6.終わりに

今回で211回になりました「エレクトロニクス工作室」ですが、これで最終回となります。私の知識不足や文章力不足で、ご迷惑をお掛けした事も多くあったと思います。今後はFBニュースの「新・エレクトロニクス工作室」に場所を変えて、引き続き出筆を行います。長い間ありがとうございました。