エレクトロニクス工作室
No.40 50MHz アンテナカップラー
1.はじめに
50MHzというバンドは、ある意味自作の定番バンドでしょう。SSB, AM, CW, FMと何でも作れる、モードのデパートでもあります。その定番バンドで写真1のようなQRP用のアンテナカップラーを作ってみましたので紹介します。
なお、QRP用には作りましたが、QRPでなくてもLCの定数に変更はありません。ただ、ポリバリコンの耐圧では燃えてしまう事も考えられます。
写真1: このようなアンテナカップラーです。
2.回路
トランシーバー側のインピーダンスは50Ωとします。このとき、アンテナ側のインピーダンスがズレた時に不整合が生じ、トランシーバーで作った電力がアンテナ側に100%伝わらなくなります。この時給電線には電圧の高いところと低いところが現れ、この比を定在波比(SWR)というわけです。この不整合を防ごうとするのが、このアンテナカップラーです。
アンテナカップラーには定番の回路がいくつかあります。それぞれ一長一短がありますが、ここではπ-Cと呼ばれる図1の回路としました。一応モノバンドですので、それ程作成も難しいものではありません。
図1: 回路図です。コイルには手持ちのトロイダルコアを使いましたが、もっと小さいものでも充分ですし、空芯で作る事もできます。(※クリックすると画像が拡大します。)
なお、インピーダンスの変化をスミスチャート上にプロットしてみたのが図2です。このようにVC1とVC2がありますが、50Ωのアンテナにマッチングさせようとすると、22pFと 60pFがそのポイントになります。当然この値よりも大きいVCを用い、広い範囲のSWRを50Ω、つまりSWR=1に収束させます。
図2: スミスチャートでプロットすると、このように一周します。Lの値はもう少し小さくても良いかもしれません。(※クリックすると画像が拡大します。)
もちろん、この値以外にないという事ではありません。C1には68pFを使っていますが、もっと大きい値を使用しスミスチャート上の軌跡を大きくとる方法もあります。その方が高調波の除去という2次的な目的には効果があり、またマッチングできる範囲も広くなります。一方電圧が高くなりますので、耐圧には注意する必要があります。いくらQRP用とはいっても、ポリバリコンには不向きでしょう。それ程広くマッチングさせる必要がない場合には、調整しにくいだけになってしまいます。
3.部品
QRP用と考え、ポリバリコンを使用しました。耐圧が不明ですので、何Wまで使用できるのか良く判らないのですが、とりあえず500mW程度では問題はありませんでした。QROで使う場合には、エアタイプのバリコンを使用して下さい。ポリバリコンは東京ラジオデパートの3階で入手したものです。70.8pFと152pFという2連でしたので、2個入手するとそれで用が足りてしまいます。一個250円でした。この容量の細かい値は良く解りませんが、概ねこの程度のバリコンなら使えると思います。値が離れすぎると、図2の軌跡が変わってしまい、調整可能な範囲がいびつになる事が考えられます。
このようなカップラーは、本来シールドケースに入れて使うのが良いのでしょうけど、今回はアルミ板を折り曲げただけの簡易ケースにしてみました。材料は2mm厚のアルミ板です。厚いアルミなのでガッチリしますが、工作が大変です。1.5mmや1mmでも一向に問題はありません。
4.作成
写真2のアルミ板をコの字型に曲げ、入出力のコネクタの穴とポリバリコン用の穴をあけます。次に写真3のように、入出力間に銅のテープを貼ります。これをアース母線として、両方のコネクタをハンダ付けします。これに68pFとポリバリコンのアース側もハンダ付けしています。
写真2: アルミ板をコの字に曲げて穴あけをしたところです。何となくキタナク見えるのは保護用のフィルムです。
写真3: BNCコネクタを取付けて、銅のテープを貼ったところです。
この回路の場合、アンテナ側のバリコンがアースされません。従って、シャフトに金属を使うとボディエフェクトで調整がうまく出来ません。そこで写真4のようなシャフトを使っています。これでも影響はゼロではありません。元々オープンシャーシですので、あまり深くは考えていません。
写真4: 2.6mmのネジを絶縁性の3mmカラーの中を通してシャフトにします。
写真5のように部品をハンダ付けして回路的には完成です。写真6のようになりましたが、これでは殺風景です。そこで、パソコンを使って、シルバーつや消しのフィルムラベルに表示を印刷し貼り付けました。
写真5: 部品のハンダ付けをしたところです。
写真6: 一応できましたが殺風景ですので、パソコンでラベルを作成しました。
5.使用方法
図3のようにセットし、SWRメータが最小になるようにVC1とVC2を交互に調整します。使ったCとLの値が概ね合っていれば、必ずSWRの下がるポイントがあるはずです。
図3: このようにセットし調整します。(※クリックすると画像が拡大します。)
次にダミーを外し、実際のアンテナで試してみます。同様に調整し、SWRが1に下がるポイントがあるはずです。もし下がらない場合は、アンテナのSWRが極端に悪く、カバーできる範囲を超えてしまっている場合です。あるいは回路の定数が間違っています。
6.終わりに
このようなアンテナカップラーも、最近ではトランシーバーに組み込まれているのが普通です。しかし、交互に回してストンと下がる快感は、やってみないと解りません。少々時代錯誤とも言えますが、こんなに楽しい調整を機械に任せてしまうのは、もったいないと思います。