エレクトロニクス工作室
No.42 JH1HTK方式Cメータ
1.はじめに
高周波関係の自作をしていると、コンデンサの値を測りたくなる事が多々とあります。電源やAF回路で使用するμF単位のコンデンサは、写真1のような秋月電子のキットを使っています。大きな容量はとてもうまく測れるのですが、数10pFの程度の小さい値となると苦手のようで、オフセットの引き算が必要な上に不安定な表示をしたりします。またポリバリコンなどでは、ツマミを回す度にボタンを押さなければならず、リアルタイムの測定ができません。そこでもう一台、写真2のようなFCZ研究所のキット(JH1HTK方式)を使っています。これの具合が良く、相当の精度で測定できます(たぶん)。このキットは電池の位置を変更したりしましたが、20年間安定に使っています。
写真1: ケミコンなど割と大きめの容量を測るのに使用している。秋月電子のキットです。
写真2: 100pFと1000pFのFCZ研究所のCメータです。
一昨年の11月に東京晴海でQRPクラブの創立50周年記念行事に出席しましたが、この時にJS1BVK山田さんがJH1HTK方式のCメータを持ってこられました。1pFのフルスケールというものです。こんな小さいコンデンサの測定もできるのかと感心しました。
最近になって、このBEACONの記事でアンテナカップラーを作りました。この時にこのCメータを思い出し、実験を始めたものです。写真3のようなフルスケールが15pFのCメータにまとめましたので紹介します。なお、メータの表示が15等分だったので最小レンジは15pFとしましたが、このままで10pFでも20pFでも可能です。ただ目盛は自作する必要がありますので、正確を期するためにそのまま使っています。
写真3: 今回自作した15pF、150pF、1500pFの3レンジのCメータ。これもJH1HTK方式です。
2.測定原理
CMOSロジックICの消費電流は、入力信号の周波数と負荷容量に比例します。という事は、図1においてコンデンサを変えると消費電流も変わるという事になります。また発振器の周波数を変えても消費電流が変わります。つまり消費電流を測る事で容量が測れ、入力の周波数を変える事でレンジが変えられるという事になります。この方式はJH1HTK増沢さんが実用新案を出されているもので、素晴らしいアイデアです。
図1: このような場合CMOSICの消費電流は、入力信号の周波数と負荷の容量に比例します。
問題は、コンデンサが無くてもベースとなる暗電流が流れる事です。この暗電流は測定の邪魔となりますので、図2のFETを使った定電流回路でキャンセルします。この定電流源の電圧はロジックICの電圧よりも高い必要がありますので、ロジックICには5V定電圧を使用し、定電流には006Pの9Vを直接使用する事にしました。
図1: このようなFETを用いた定電流回路を使い、定電流を調整する事で暗電流をキャンセルします。
写真4がこの実験を行っているところです。実際に行ってみると面白いように変わります。この時はVR2個での実験でしたが、レンジを切り換えた瞬間の不都合などがないか、ロータリースイッチでの切り換えテストも写真5のように行いました。
写真4: このようにブレッドボードで実験しました。こんな状態でも2pFフルスケールまで可能でした。
写真5: 写真4ではVRを使っていましたが、ロータリースイッチを使った実験に切り替えたところです。
3.回路
概ね前項で説明してしまいましたが、図3が全回路図になります。各レンジ毎に予め暗電流をキャンセルするようにしています。これは、レンジによってVRの位置が極端に変わってしまうためで、VRでは調整が難しくなってしまいます。但し、微調整はできません。
図3: 今回自作した15pF、150pF、1500pFの3レンジのCメータ。これもJH1HTK方式です。
5V電源の安定化には78L05を用いていますが、暗電流のキャンセル回路によって出力側に電圧が加わっています。また、バッテリーチェック用のLEDによっても出力側に電圧が加わっています。僅かな電流ですので大丈夫かとは思いますが、本来はツェナーダイオードを用いるべきかもしれません。実は5Vのツェナーダイオードが手持ちになかったのでした。
発振回路には写真6のような秋月電子のモジュールを用い、発振周波数を変える事で簡単にレンジを広げました。その代わり、全レンジ毎での校正が必要となりますので、不便な面もあります。また、このユニットは600円しますので、決してコストを下げる事にはなりません。このモジュールは、1kHz〜30MHzを発振させます。Nの設定とVRで簡単に周波数を変える事ができますが、RF用としてはちょっと安定度に難点があります。しかし、このような用途にはピッタリのモジュールです。測定精度を追求する場合には、周波数の安定度が問題になるかもしれません。
写真6: 1kHz〜30MHzの発振モジュールです。20MHzと見えるのは3Vの場合です。
メータには写真7のような200μAの電流計を用いています。これはジャンクで15等分の表示のため、フルスケールは15pFとしました。しかし、このままの回路で10pFや20pFのフルスケールにする事は可能です。
写真7: メータにはジャンクの200μAを使いました。
4.作成
一応15pFをフルスケールとしていますので、内部でも浮遊容量が少ない事に越した事はありません。そこで、なるべく線は短く作成します。特に、74HC04とコンデンサ間は最短に配線します。
簡単な回路ですので、ジャノメ基板上にすぐ作成できます。まず写真8のように基板をカットしアース部分に銅のテープを貼り付けました。図4の実装図のように部品を取り付けました。
写真8: ジャノメ基板に銅テープを貼ったところです。
図4: ジャノメ基板で作成した実装図です。参考程度にして下さい。
ケースにはタカチのKB-S1を使っています。写真9のように穴あけの準備を行い、穴あけを行ったのが写真10です。組み立ての終わった状態が写真11になります。電池の交換が容易にできるように、006Pはケースの外に取付けています。
写真9: ケースにメンディングテープを貼って、エンピツで場所を書きます。
写真10: このように穴あけ完成です。
写真11: 組み立てた様子です。
半固VRは、写真12のようにロータリースイッチの近傍にまとめています。この方が引き回す線が少なくて済みます。
写真12: 半固VRはコモン側をまとめて配線し、ロータリースイッチの後ろにまとめました。
なお、コンデンサとの接続にはクリップを使っています。トリマーやポリバリコン、あるいはチップコンを測る時にターミナルでは使い難くて仕方ありません。そこでクリップを使っていますが、15pFのレンジでは0点が多少ふらついてしまいます。まあ、あまり気にしても仕方ありませんし、ふらつくのは当然の事です。但し、ショートした場合にはメータが振り切れますので、充分に注意して下さい。この場合ICを壊す事が考えられますので、ICにはソケットを使っています。また、間違ってもメータを壊したくありませんので、あまり高感度のメータは使わない方が良いと思います。
5.調整
フルスケールで調整するのが理想ですので、校正用の標準コンデンサを15pF、150pF…と最大レンジまで揃えるのが良いのですが、10pF、100pF…でも一応は校正可能です。この点フルスケールは10pFの方が良いかもしれません。
フルスケールに近い標準コンデンサを接続し、各レンジ毎にVRを調整します。この時に、0点調整と交互に合わせて追い込んで行く必要があります。
レンジは10倍おきになりますので、発振周波数も10倍ステップになります。従って、コンデンサは一個だけ用意し、後は発振周波数で合わせる方法もあります。周波数カウンタで周波数を確認しながら標準コンデンサを付けて調整すると、極めて簡単に合わす事ができます。
6.終わりに
改めてユニークなCメータを作成しました。とても便利な測定器です。実験ではこのままの回路で、2pFのフルスケールも可能でした。ただ、あまりにも実用的ではないので止めました。機構的に上手に作れば超微小容量も測れると思いますが、クリップを使って簡単に接続するような方法では絶対にダメでしょう。意味のある測定結果にするには、ガッチリとした端子を使えば良いと思います。しかし、どうやって使えば良いのでしょう?
レンジは15pFの10倍ステップとしましたが、例えば20pFを測定する場合、150pFのレンジで測りますので誤差が大きくなってしまいます。そこで、10,20,50,100のように細かくする事も簡単にできます。単にロータリースイッチの接点を使って半固VRの切替が増えるだけですから、味付けは自由です。
このような容量測定方法を考えられたJH1HTK増沢さんに敬意を表します。