1.はじめに

IC-703はQRPファンにはちょうど良いトランシーバーです。HF+50MHzをオールモードでカバーし、0.5W、1W,2.5W,5W,10Wと出力をイニシャルモードで設定する事ができます。更に、この中をクイックセットモードで設定できますので、5Wの場合には100mW〜5Wを可変する事もできます。つまりQRPに最適な、面白いトランシーバーです。

私はこれをQRP専用として0.5W設定で使っており、10Wで使う事はありません。このトランシーバのオプションに電源はあるのですが、何しろ25Aでは大き過ぎます。もちろん数A程度の実験用電源でも使えるのですが、トランシーバーで使うとすると電圧は固定の方が安心です。また、余分な熱を出さないように設定する事もできますし、電源コネクタが直結できるので安定した使い方が可能となります。実験と共用の電源では、トランシーバーを動かしながらの実験ができませんし、不便で仕方ありません。うっかり過電圧を加えてしまうようなトラブルも考えられます。

そこで、QRPに特化した写真1のようなIC-703用の電源を作成しましたので紹介します。注意して頂きたいのは、QRP用としては余裕を持っています。しかし、10W用として使う場合には、もう少し電流の容量を大きくして下さい。

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写真1: このような小型のケースに入れた電源です。

2.定格は

IC-703の取説を見ると、10Wの場合には13.8Vで3A以上の電源が必要となっています。定格を見ると、送信時の最大で3.0Aとなっているからでしょう。ところが、QRPで使う場合の電流の記載がありません。そこでダミーを使って測定してみました。

その結果、1Wの出力を設定した場合、1Aもあれば充分である事を確認しました。そこで、10.7Vで1.5Aの電源としました。但し、7MHzのCWで測定していますので、AMやSSBの場合にはこれよりも増える可能性が大です。その点は御了承願います。

QRPの電源ですので13.8Vではなく、自動的に5Wとなる10.7Vとしました。11V以下だとBATTモードとなり自動的に5W以下になりますので、ちょっと余裕をみて10.7Vとしました。9.6V以下では、BATT LOW表示が出てしまいます。10V位の場合は電圧降下によって、BATT LOW表示が出てしまう事があり、非常に煩わしく感じます。なお、5W用としても容量は何とか足りますが、私はいつも0.5Wに設定しています。

なお、スピーカはケースに少し余裕があったので取り付けてみました。もう少し余裕があれば、AFフィルターを入れる等のアイデアも出てくると思います。

3.回路

図1に回路を示します。LM350Tを使用した秋月電子の電源キットを利用しています。相当前に購入したキットですので、専用基板はジャノメタイプになっています。最近のキットではガラエポ製の丈夫な基板となっています。出力を10.7Vとしたため、トランスのタップは14Vを使っています。ICの放熱と省エネのため、なるべくロスの少ないように設定しています。逆に考えれば、トランスのタップに合わせた電圧を適切に設定してしまえば、あとはトランシーバーの方が合わせてくれます。優秀なトランシーバー用の付加機器の自作は楽だと痛感しました。自作トランシーバの場合ではこのように行きません。

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図1: 回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

出力には保護のため、1.1Aのポリスイッチを使用しました。1.1Aで切れるのではなく、1.1Aまでは確実に通すというものです。2倍の電流では直ぐに切れます。その間の電流では、タイムラグを持って切れますので、もう少し小さいものでも良いのかもしれません。もちろん、普通の管ヒューズでも可能です。ポリスイッチは、リセッタブルヒューズ、PTCヒューズとか呼ばれています。

4.作成

ケースはリードのPS-12(100×65×140)に入れました。高さがちょうどIC-703に合う感じだったために使用したケースです。(正確には異なります)スピーカを収容しても、収まりは良いと思います。これを写真2のように穴アケを行いました。次にスピーカ用のパンチングメタルとスピーカを写真3のようにゴム系の接着剤で固定しました。ネジ止めをしなかったのは、パネル前面にネジを出したくなかったからです。スピーカ用BOXとして考えると今ひとつで、大きな音を出すとビビリそうな構造です。専用のスピーカBOXを買ってきて、内部に電源を入れてしまう方法も良いかと思います。

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写真2: ケースに穴あけを行ったところです。

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写真3: スピーカはゴム系のボンドで固定しました。

写真4が基板を作成したところです。LM350Tは基板のハンダ面側に写真5のように取り付けています。これはICを直接ケースの下側で放熱しようという考えからです。

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写真4: 作成したキットの基板です。

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写真5: 裏面はこのようになっています。

この基板を写真6のようにケースに固定します。写真7のようにして動作確認をしました。ここでトラブル、出力がでません。LM350Tはフィンが出力となっています。放熱のためと思ってそのままネジ止めしたので出力が地絡するという基本的な間違いでした。しばらく出力が出ない原因に悩んでしまいましたが、絶縁型のネジとシールを使う事が必要です。

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写真6: 基板や部品をネジ止めします。

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写真7: 配線を良く確認後に動作チェックをします。

調整は電圧の設定だけです。前述のように10.7Vに設定しました。この電源をNo.28で作った電源のテスターで測定してみると、図2のような特性になりました。ICの規格的にはこの程度は余裕でしょうけど、電源トランスが2Aですので限界という感じで電圧が低下してしまいます。また、このポリスイッチをスルーとし、電源全体の特性を測ってみました。すると図3のようになりました。これはポリスイッチの動作特性になります。抵抗がありますので、どうしてもレギュレーションは悪化してしまいます。もっともヒューズでも同様です。写真8が取り付けたポリスイッチです。

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図2: 出力の特性です。ポリスイッチが入っていますので、限界を超えると電圧が遮断されます。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図3: ポリスイッチが無い場合の出力の特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真8: 1.1Aのポリスイッチです。

ダイオードブリッジには4個のダイオードが入っていますが、それぞれが0.6Vのロスを熱にしますので、4倍の熱が出ます。放熱器なしでは、触れない位に熱くなりましたので、アルミ板を加工して放熱器を自作しました。写真9が放熱器の様子ですが、これで1.5Aでは暖かくなる程度になりました。

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写真9: コの字型に見えるのが後から追加したダイオードの放熱器です。

電源のコネクタは付属のコネクタを切って使用しました。アイコムからも購入する事ができますので、別に使用する場合は問い合わせて下さい。IC-703での送受の試験を写真10のように行いましたが、異常は全くありませんでした。

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写真10: トランシーバーを使った動作テストです。

なお、裏面は写真11のようになります。電源コードを接続し、スピーカをイヤホンジャックに入れるだけとなっています。

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写真11: 裏面はこんな感じに配線します。

5.終わりに

これで安心してIC-703を使用する事ができます。IC-703と並べると、写真12のようにピッタリくる感じです。色は黒の方が良さそうですが、これは仕方ありません。間違って10Wの設定で送信しても、電圧が低く5Wになるだけです。電圧を少し上げて10Wで出せますが、少しずつポリスイッチが働き電圧が下がって5Wで安定してしまいました。もちろん、正しい使い方ではありません。

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写真12: このように、IC-703にピッタリの電源に仕上がりました。

なお、このような外部電源の自作は自己責任で行って下さい。電源の不具合や逆接でトランシーバーが破損しても、全て自己責任です。もちろん自作ですから、何を作っても自己責任に変わりはありません。