エレクトロニクス工作室
No.44 7MHzアンテナカップラー
1.はじめに
No.40では50MHz用のアンテナカップラーを紹介しました。今回は7MHzのQRP用アンテナカップラーを作成しましたので紹介します。最近では7MHzのCWがQRPの定番になってきました。私も参加すべく着々と準備をしていますが、どうしても自作に走ってしまうのはいつもの事で、なかなか電波が出せません。
その中の一環として作った、写真1のようなQRP用のアンテナカップラーです。計算上ではSWR=2をSWR=1に調整可能なものです。
写真1: このようなQRP用のアンテナカップラーです。7MHz用です。
2.回路
アンテナカプラーには幾つかの回路があります。No.40では50MHzのカップラーをπ-C型で作りました。7MHzでも同じように作る事はできますが、作りにくくなってしまいます。その理由はコンデンサの値が大きくなってしまうからです。パラに固定コンデンサを入れても良いのですが、それでも1000pF以上はあった方が良さそうです。そうでないと、SWR=1に収束させる事のできる範囲が狭くなってしまいます。そのような容量のポリバリコンは、入手が困難です。エアバリコン等の特注品やジャンク等があれば可能でしょうけども、QRP用の簡単なカップラーには不向きとなってしまいます。
そこで、図1のようなT型の回路で作ってみました。コンデンサの値、つまりポリバリコンの値が小さくて済むという長所はありますが、この回路はHPF型になります。つまり高調波を抑えるという、2次的な効果はほとんど期待できません。そのかわり比較的広い範囲のSWRを1に収束させる事が可能となります。この回路では、見てのとおり対称ですので、アンテナ側と送信機側を決める必要がありません。もちろん決めても一向に差し支えはありませんし、微妙な違いで使いやすい方向が出るかもしれません。
図1: このようなT型のHPFの回路で作ってみました。(※クリックすると画像が拡大します。)
この回路をスミスチャートで確認すると、図2のようになります。また、試しにこの時の周波数特性を計算させたのが図3です。このように低い方は減衰しますが、高調波はほぼフリーパスになってしまいます。
図2: スミスチャートを一周する様子です。(※クリックすると画像が拡大します。)
図3: 周波数特性をスミスチャートのソフトで計算してみた結果です。(※クリックすると画像が拡大します。)
3.部品と実験
写真2のような290pFのポリバリコンを2個使用しています。250pFもあれば充分かと思います。ポリバリコンは250pFで良いのですが、7MHz合わせるため、パラに120pFを入れています。この位のポリバリコンは、最小の容量が10pF程度まで下がります。ところが、バランス良く7MHzをカバーする事ができません。そこで、パラにコンデンサを入れる事で補正しています。なお、トリマーの付いたポリバリコンの場合には、トリマーの容量との兼ね合いで検討して下さい。アンテナカップラーですので、50Ωのダミーで合わせられれば良いというものではありません。もちろん、ダミーにすら合わせられないのでは論外です。ある程度のSWRの範囲をSWR=1に収束させる事が目的ですので、実際に使用するアンテナで合わせらられれば良いとも言えます。実際にどの程度の性能に収まっているのかは、ネットワークアナライザ等で解析しないと解りません。そこで、スミスチャートを使って図4のようにシミュレーションしてみました。多少の凹凸はありますが、概ねSWR=2の円は収束できる事になります。但し、計算上ですので、実際に使用する部品によって誤差が生じるのは仕方ありません。
写真2: 290pFのこのようなポリパリコンを使っています。トリマーの付いてないタイプですが、付いている場合には、パラに入れるコンデンサの値を調整します。
図4: 青い範囲が50Ωに収束できる範囲です。共役のインピーダンスがマッチング可能です。(※クリックすると画像が拡大します。)
コイルはトロイダルコアのT-37-6に0.4mmのUEW線を23回巻いて1.52μHとしています。もう少し大きめのコアに巻いても良いのですが、手持ちの関係でこの大きさにしました。
これらの部品を用いて、写真3のようなバラックセットを作り動作を確認してみました。どの程度のSWRが1に収束できるのかは測定できませんが、充分な性能という感触は得られました。スペアナとTGで通過特性を測ったところ、測定結果1のようになりました。これは図3とほぼ一致します。もっとも、同じグラフを計算で出すか測定するかの違いですから、当然同じ結果になります。
写真3: このようなバラックで動作確認をしました。
測定結果1: スペアナとTGで測定した通過特性です。このようなHPFとなります。(※クリックすると画像が拡大します。)
4.作成
基本的な作り方はNo.40と同じように作成しています。2mm厚のアルミ板をコの字に曲げただけの簡易ケースを自作しています。前回よりも小さく作れると考え、一回り小型にしてみました。この方が出力とのバランスも良いかと思います。写真4がアルミ板を曲げたところですが、小型のケースに入れても、もちろん大丈夫です。入出力にはBNC-PとBNC-Rを取り付けています。この回路の場合には、どちらをアンテナ側にしても同じです。ケーブルなしで使えますので、このようにすると使いやすくなります。写真5のように穴あけをしました。
写真4: アルミ板を曲げてシャーシとしました。
写真5: 穴アケをしたところです。
写真6が入出力間に銅のテープでアースラインを引いたところです。写真7がポリバリコンを取り付けたところです。写真8が全ての部品を取り付けたところです。この状態で一度動作確認を行っておきましょう。内部の様子が写真9となります。なお、ポリバリコンは写真2のように、軸に絶縁体のカラーを使っています。この工作はNo.40と全く同じです。
写真6: コイルをアースにするため、入出力間にはこのように銅のテープでアースをつないでいます。ネジ穴を開けても良いのですが、この方が簡単です。
写真7: ポリバリコンを取り付けたところです。
写真8: 全ての部品を取り付けたところです。
写真9: 内部の様子です。
これで電気的には完成です。この後、写真10のようなシールを貼りました。こんな簡単なものでも、表示をするとグッと締まって見えます。このシールはパソコンで作ったもので、アルミと同色の用紙に印字していますので、ほとんど違和感はありません。洒落た感じと思います。もちろん、どんな色でも性能に差があるはずはありません。写真11が貼っている途中の様子です。
写真10: パソコンで作ったシールです。
写真11: キレイに貼るのは結構難しいです。
5.使用感
7MHz用のアンテナカップラーは初めて作りましたが、快調そのものです。思った範囲は簡単にSWRを落とす事が可能です。No.40で紹介した50MHz用と比べたのが写真12です。このように、一回り小さくなりました。QRP用としては、小さい方が良いかと思います。
写真12: 以前作った50MHzのものと比較してかなり小さく作っています。
なお、この定数で5.7〜8.6MHzで同調しました。ダミーで調整が可能な範囲という事で、調度7MHzに合っているようです。あわよくば10MHzでも、と思っていましたがとても無理でした。