1.はじめに

アマチュア無線用の基本的な測定器の一つとして、SWR計が良く使われています。No.36でもSWR計を紹介しましたが、ある程度の送信出力がないとメータがフルスケールまで振れないという欠点があります。SWRは比なので、フルスケールまで振らせる必要はありませんが、それにしても読みにくいし気分的に良くない事は確かです。また、ダイオードの特性の立ち上がり部分を使う事になってしまいますので、誤差要因が大きくなる事もありそうです。

そこで、方向性結合器(方結)を用いて進行波と反射波を個別に測定する、写真1のような方向性の電力計を作成しましたので紹介します。ログアンプを使うため電源は必要となりますが、ダイオードを使いませんのでQRPでも正しい測定が可能です。進行波と反射波の電力を測定し、その差からSWRを計算する事ができます。

片方向の電力を測りますので、通過型方向性電力計と大層なネーミングをしてしまいましたが、SWR計をちょっとモジッた程度のものです。

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写真1. このようなスタイルの通過型の電力計です。しかも片方向毎に測定する事ができます。

2.回路

回路としましては、No.14で作った方向性結合器と、AD8307を用いたレベル計の組み合わせです。図1に回路を示します。方向性結合器はメーカ製のものを使っても良いのですが、一応自作として作ってみました。レベル計の部分も自作しようとしましたが、秋月電子の電界強度計のキットをそのまま流用する事としました。ネットで検索すれば、ICの入手先はいくらでもありそうです。

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図1. 全回路図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

最初はQRP用にしようとしましたが、AD8307のレンジが広いため、レベル計の入力に10dBのアッテネータを入れれば、充分に10W用に使えると考え、10Wとしました。それでも100μWの出力でも充分にリターンロスを測る事が可能ですので、QRP用としても使用可能です。この方がバランス的に良いと思います。

但し、実はあまり耐圧の事を考えていませんので、もしコイル等の焼損があるようでしたら対策が必要です。10Wとしても、AMで100%変調の場合にはピークで2倍の電圧が掛かります。SWRが∞とすると更に2倍の電圧が掛かります。つまり4倍の電圧に耐える必要があります。これは電力にすると16倍、つまり160Wに耐えないと完全な10W用とは言えません。これは私にはちょっとテストが困難です。簡単に10WのCWでダミーを使った場合では、何ら問題はありませんでした。という事で、条件付の10W用です。

3.部品

特に入手が困難なものはありません。コイルにはFT-23-43を2個用いています。レベル計には秋月電子のAD8307を使った電界強度計を用いてメータを振らせています。入手可能であれば、キットである必要はありません。もっと短い配線にする事もできると思います。

ケースはリードのP-4を用いました。良くあるコの字のアルミ板を組み合わせるタイプではありません。箱型にアルミ板の蓋というタイプです。内部に手が届きにくいのですが、入出力のコネクタ2個と006Pの乾電池を取り付けるために、3方向が使えるケースを探しました。そのため、このケースとなりました。

入出力のBNCコネクタには写真2のように、グランド側がケースと絶縁されているタイプを使用しました。簡単に基板との接続をしようとしたからで、あまり意味はありません。どのようなタイプでも使えるかと思います。

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写真2. 入出力にはこのようなBNCコネクタを使いました。

4.作成

写真3が秋月電子の電界強度計のキットです。ケース等は使いませんでした。使った部品は写真4の部分になります。まずは基板を写真5のようにカットします。そして、写真6が部品を載せたところです。実はこの後で基板をもう少々削る事になってしまいました。

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写真3. 使用した電界強度計のキットです。

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写真4.使わない部分も結構あります。使った部品です。

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写真5. 基板は小さくカットしました。この後で更に追加カットする羽目になりました。

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写真6. キットの基板が完成したところです。

そして写真7のように、方結の部分をアース付きの高周波用のジャノメ基板上に作成します。写真8が裏面の様子になります。

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写真7. 方結の部分です。このようにして動作確認をしました。

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写真8. 裏側はこのようになっています。

ケースはリードのP-4ですが、写真9のようにケースの穴あけを行いました。コの字型でなく小型なので、メータの穴アケ等の加工が大変です。内側に加工用の線を描き、外側からハンドニブラで穴を開けました。

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写真9. ケースに穴あけをしたところです。

写真10がこれらを仮接続して動作確認をしているところです。ログアンプと直流アンプの部分は別々の基板に作成します。この方が特性上は良いと思います。目標とする周波数は50MHz程度までと考えていますので、このような作り方で充分と思います。

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写真10. トータルでの動作確認をします。

ケース内は写真11のように配置しています。BNCコネクタと電源スイッチがニアミスしてしまいました。ニアミスどころか実際には接触するため、BNCコネクタの端子は削られています。もう少し検討すべきでした。あまりバランスが良いとは言えない感じです。

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写真11. 基板はメータに両面テープで貼り付けました。

反射波と進行波の方向はコイルの巻き方で変わります。あまり気にせずに作り、後から実験して方向を記入すれば充分と思います。

目盛りは図2のようなものを作りました。最近ではパソコンを使って簡単に作る事ができます。特別なソフトは使っていません。ワードで地道に書いただけのものを、ビットマップにした後で再びワードに貼り付けて大きさを調整しているだけです。完全に地道な作業です。

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図2.ワードで作った目盛りです。うまく作れば、もっとダイナミックレンジが取れるはずです。(※クリックすると画像が拡大します。)

5.調整

方結の結合度は20dBです。また、アッテネータが10dB入っていますので、それを考慮してメータにレベルを振ります。まずアッテネータをパスしてSGからの信号を入力します。アッテネータと方結のロスを考えて目盛を振ります。このようにする事で、進行波のレベル計とする事ができます。

正確に10Wの送信機があればそれで10Wつまり、40dBmのポイントを決める事ができます。最近の送信機であれば出力を絞る事も可能でしょう。

写真12はアンテナカップラーの調整状態をチェックしているところです。反射電力がストーンと落ちるところがありますので、こんな実験も実に楽しいものです。

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写真12. 出力側にアンテナカップラーをつないで確認しているところです。

6.使用方法

送信機とアンテナの間に入れます。この時に進行波を測る方向に入れてレベルを測ります。次に入出力を反対にして測りますと、反射波のレベルとなります。これは低い程良いアンテナとなります。進行波と反射波の差がリターンロスとなります。例えば、1Wの送信機で30dBmの進行波とします。いったん送信を止めて本機を反対に取り付けます。そして再び送信して反射波が-5dBmだったとします。この時のリターンロスは、進行波-反射波ですので、 30-(-5)=35dBとなります。リターンロスが35dBですので、表1の35dBを読むとSWRは1.036となります。

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表1. リターンロスとSWRの変換表です。(※クリックすると画像が拡大します。)

慣れないと判り難いかもしれませんが、出力側のレベルと反射側のレベルを測定し、その差が大きいほど良くマッチングが取れていると考えれば良いでしょう。その差がリターンロスとなります。基本的には電力計で、進行波の電力と反射波の電力を片方向毎に測るものです。

7.終わりに

リターンロスにはなかなか馴染めないかもしれません。しかし、これを使い出すと結構便利なものです。方結に両方向のものを使い、ログアンプを各々に使えば常にリターンロスを監視するシステムが出来上がります。