1.はじめに

 今回と次回は、2007年のハムフェアで規定部門の2席に入賞した、7MHzのCWトランシーバーを紹介します。今回は図番等を通し番号とします。今回は実験編とし、次回を製作編とします。

 開局して35年以上にもなりますが、昔からCWが大の苦手でした。最近になって少しずつCWに興味を持ち始め、作ったのがこの写真1のトランシーバーです。CW初心者の作品ですので、作った本人の気が付かない欠点やツメの甘さがあると思います。同じようなトランシーバーを数台は作らないと、きちっと動作させる事は困難でしょう。

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写真1. このような7MHzのCWトランシーバーです。

2.特徴

 このようなトランシーバーを作る場合、受信機をスーパーとすると送信機側はキャリアを利用してローカル発振器とMIXして送信周波数を作るのが一般的です。しかし、スプリアス的には不利になります。あるいは送信周波数を直接発振させ、受信機側をDCとした場合、スプリアス的に有利になりますが、受信機側はDC以外の選択肢はありません。DCが良くないという事ではありませんが、一長一短になります。

 そこで本機ではVFOはDDSとし、送信時の周波数は直接発振させ、受信時は中間周波数分をソフトでスライドさせるという、いわば「ハイブリッド方式」としてみました。つまりデジタルトラッキングで、スーパー受信機でありながら送信機はダイレクトに周波数を作ります。一長一短の長所だけ合わせたつもりです。DDS自体にはスプリアスの点で問題はあるのですが、入手が容易という事でポピュラーな秋月電子のキットを使用しました。それでもMIXするよりは、スプリアスのレベルは簡単に抑える事ができます。フィルター式のSSBではこのような方式で作る事はできませんが、CWなら可能となります。

 欠点として、DDSの消費電流が大きいため、総入力に対する出力が小さくなってしまいます。従って、QRPの割には消費電力が大きいという事になります。この対策としては、DDSに使用している秋月電子のキットを止めて、もっと新しいIC等を使用すれば改善されるでしょう。しかし、入手の方法や作成に困難が伴ってしまうという事もありますので、今回は仕方がないものとしました。要は、カテゴリーとしては超小型で超QRPを狙うトランシーバーではなく、多少本格的なデスクトップ型と考えています。

 受信機にはラジオ用ICのTA7792Pを用いています。IFのフィルターにはJA9TTT加藤さんの提案された、セラミック発振子5素子を使ったCW用の世羅多フィルターを使用しています。

3.構成と回路

 図1に構成を示します。前述のとおり、送信時はDDS出力をダイレクトに使っています。2SK241のドライバーと、2SC1815×3のファイナルで約300mWを出力しています。受信時にはDDSの周波数をIF分だけシフトし、TA7792Pへ加えています。図2に回路を示します。図3がDDS/CPUの部分の回路になります。

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図1. 本機の構成になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図2. メイン部分の回路になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図3. DDSとCPUの回路になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

 AVRのAT90S2313は、ロータリーエンコーダの読み取りと、周波数の制御と表示を行います。キーダウンしT9Vを検知すると、AVRが周波数を自動的に送信用に変更します。キーを戻した時には逆の動作を瞬時に行います。

 受信側はラジオ用ICを用いた簡易型です。IFフィルターには前述のように、480kHzのセラミック発振子によるフィルターを使用しています。この480kHzのCSB480は、2005年のハムフェアで一袋500個入りを100円で入手したものです。つまり単価が0.2円ですので、5素子分で1円となります。大半はハムフェアの時にQRPクラブのブースで配ってしまいましたので、それ程は残っていませんが充分な量はあります。この周波数のセラミック発振子も割と入手しやすい周波数ですので、1円フィルターはちょっと困難と思いますが、追試は容易でしょう。もっともコンデンサの方が高くなってしまいますので、実際には1円フィルターではありません。157個の中から選別した5素子のフィルターは、測定結果1のように468.8kHzが中心になりました。図1の構成は、このようにIF周波数が決まっています。受信周波数はCWバンドの7.000〜7.030MHzになりますので、6.5312〜6.5612MHzを発振周波数としました。もちろん、上側を用い、7.4688〜7.4958MHzとしても良いのですが、イメージ信号の分離を考えて少しでも有利な下側を使いました。大差はありませんし、455kHzのセラミック発振子でも同様に使用できるでしょう。当然ですが、IF周波数が変わればシフトする周波数も変わりますので、ソフトの設定を変える必要があります。もっとも同じ表示のセラミック発振子を使っても、フィルターにした場合にバラツキがあります。必ずしも同じ周波数のフィルターにはなりません。いずれにしてもソフトでの調整は必要になります。

 TA7792PのAGCは、約50dBの幅で動作するようです。10〜80dBμの信号を受信できますが、7MHzでは常にアッテネータをONするような状態になってしまいます。受信機の基本的な回路は、BEACONの第32、33回で紹介したものとほぼ同じですし、写真2のようなTA7792P用実験ボードまで作ったため、実験は効率良く行う事ができました。送信と受信の切り替え回路は、外付けの試作回路を作って動作を確認しました。

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測定結果1. 世羅多フィルターです。468.8kHzが中心となりました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真2. TA7792P用実験ボード。No.32で紹介しています。

 受信側の入力には、JF1DMQ山村さんがCQ誌2006年1月号に発表されたBPFをアレンジし、小型にマイナーチェンジした図4のBPFを入れてみました。元は写真3のようなT-106#6を使っているのですが、あまりにゴツ過ぎると思い写真4のようにT-50#6で試しました。何しろ送信側のLPFより大きいのではバランスも取れませんし、簡易型の受信機ですから・・。T-106#6を使った場合の特性は、測定結果2と3です。これに対して、T-50#6の場合は測定結果4と5になりました。多少甘くなりましたが、目的の7MHzを1MHz幅で測定した場合はほとんど遜色がなく、ある程度の性能は確保できました。これで放送波の通り抜けとイメージ信号を軽減しています。4MHz幅ではT-106#6の方が、明らかに優秀な結果となりました。なお、コイルと並列に入るコンデンサにはディップドマイカを使っています。ここにセラミックを使うと全く性能が出ません。トリマーを使って調整できるようにしていますので、調整が容易になります。

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図4. 7MHzBPFの回路になります。

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写真3. T-106#6を使ったBPFです。手前のがT-50#6ですので大きさが解ります。

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写真4. T-50#6で試作したBPFです。

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測定結果2. T-106#6を使ったBPFを1MHzスパンで測定したところです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果3. 4MHzスパンで測定すると、このようにバッサリと切れる事が解ります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果4. T-50#6を使ったBPFを1MHzスパンで測定。測定結果2と大きな差は無いように見えます。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果5. 4MHzスパンで測定すると、多少は測定結果4よりも甘く見えます。(※クリックすると画像が拡大します。)

 TA7792Pは低電圧で動作可能です。3.3Vで800mAのレギュレータを使いましたが、たまたま入手したからで、1.5〜4Vの100mA程度のレギュレータICが使用できるでしょう。最大電圧が6Vですので5Vでも大丈夫ですが、ちょっと高いように思います。

 送信側はDDS信号をそのまま増幅し、2SK241のドライブと2SC1815×3のファイナルで、約300mWの出力を得ています。周波数変換がないため、このようなシンプルな回路でスプリアスの少ない電波を作る事ができます。出力のLPFは、図5のようなチェビシェフ型LPFを使っています。写真5のようなバラック状態で測定したのが、測定結果6です。

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図5. 送信側に使うチェビシェフ型LPFの回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真5. の試作です。

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測定結果6. チェビシェフ型LPFの特性はこのように2段でも効果があります。(※クリックすると画像が拡大します。)

 受信側と送信側はフィルターを入れる目的が違います。最初は図6のようにLPFとBPFをハッキリと分けていました。ファイナル部分でのスプリアスは測定結果7のように、このままでは使えません。チェビシェフ型LPFによって測定結果8のようになりましたので、これで良しと思っていました。ところが送受の切り替えにダイオードスイッチを使ったため、ここで作られたスプリアスが測定結果9のように出力に現れてしまいました。これでは面白くありませんので、図7のようにLPFを追加する事で、測定結果10の出力としました。追加したLPFは図8のような簡単な定K型で、写真6のようなバラックで測定したのが測定結果11です。どうも対処療法になってしまいましたが、ダイオードスイッチを根本的に見直した方が良いようにも思います。また、最初からダイオードスイッチのアンテナ側に、チェビシェフ型LPFを入れておけば良いようにも思えます。

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図6. 最初はこのように受信側と送信側でフィルターを使い分けていました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果7. ファイナル出力を直接測定すると高調波がこのように測定されました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果8. チェビシェフ型LPFを通るとクリーンになりました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果9. ダイオードスイッチを通過すると、3倍波が……。2倍波は不思議に減ったがこの原因は不明です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図7. このように共通部分にLPFを追加しました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果10. 最終的に図8のLPFを追加したところ、このような出力となりました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図8. 追加したLPFです。

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写真6. 追加したLPFの試作です。

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測定結果11. 追加したLPFの特性はこのようなものでした。(※クリックすると画像が拡大します。)

4.終わりに

 次回はプロトタイプの製作、その次にJARLの自作品コンテストに出品した作品の製作と、2台の製作編とします。