エレクトロニクス工作室
No.53 7MHz CWトランシーバー その2
1.はじめに
前回から、写真7のような7MHzのCWトランシーバーの紹介をしています。前回は回路の説明までとしました。図番等は通しですので注意をお願います。
回路の説明に付け足ししますが、キャリア発振には苦労しました。かなり無理をしてセラロックの発振周波数を下げています。相当大きめのコンデンサを使って発振させていますので、うまい方法ではありません。LC発振を使う方が良いかもしれません。
写真7. このようなトランシーバです。
2.プロトタイプの製作
このようなトランシーバーを一発で動作させる事は、とても困難です。そこで写真8のようなプロトタイプを製作し、最終的な確認を行いました。プロトタイプでもほぼ同じ回路ですが、変更を繰り返したため基板の銅テープ側は多少グチャグチャになっています。回路は図9のように少し異なっており、出力は100mWとなっています。裏からの様子は写真9のようになっています。なお、このメイン基板の実装図を図10に示します。CPU基板は次項で説明するコンテスト出品作品と同じです。
構造的にCPUと高周波部分が近いため、ノイズとフィーリングの点では若干劣ってしまいました。ちょっとレトロな雰囲気で、固定用としては面白いかと思います。どう見ても移動向きではありません。これを貸し出して試用した知人は、早速2局とQSOした模様です。
最近の自作では、Sメータにラジケータを使う事が多いのですが、ここではレトロな雰囲気を出すために、わざわざ40年前の「Sメータ」を使っています。しかも表示部分のみを四角の窓で表示するのではなく、メータ全体が見えるようにしてみました。
写真8. このようなプロトタイプを作成し確認をしました。
図9. プロトタイプの回路図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真9. 裏からの様子です。
図10. プロトタイプのメイン基板の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
3.コンテスト出品作品の製作
バラックで動作の確認を行い、プロトタイプで作品としての動作を確認しました。次にハムフェアの自作品コンテストに出品した作品を作りました。回路は前回の図2を参照して下さい。
メイン基板の裏面は写真10のように、電源のラインに銅のテープを貼って配線をしています。写真11が部品取り付け中の様子です。TA7792P周辺ではフィルターの配線が、ICのピンと合いません。フィルターの出力側を同軸ケーブルで、ICと配線しています。なお、図11のような実装図を予め描いて作成しています。
写真10. コンテスト出品作品、つまり写真7で使ったメイン基板の裏面の様子です。
写真11. 部品を取り付けているところです。
図11. コンテスト出品作品のメイン基板の実装図です。この方がかなり小型に作られています。(※クリックすると画像が拡大します。)
DDS/CPUは、写真12のようにDDS基板をCPU基板の上に載せています。CPUの基板は写真13のようにジャノメ基板に銅のテープを貼り付けて作っています。このCPUの実装図を図12に示します。この部分はメイン基板の入ったシールドケースの上に載せる部分になりますので、取り外しが容易にできるように、コネクタを用いています。
写真12. CPU基板の上にDDS基板を載せています。
写真13. CPU基板です。
図12. CPU基板の実装図です。これはプロトタイプと全く同じになりました。(※クリックすると画像が拡大します。)
4.実装
DDS/CPU部とメイン基板はノイズの問題がありますので、分離して3階建ての基板になっています。共通のアースは避けるようにしています。更にノイズ対策のため、メイン基板は、タカチのYM-130に入れています。ケース内のケースとなりコスト的にはもったいないのですが、これによってDDS,LCD,CPUから出るノイズを随分軽減しています。シールドケースなしで作ったプロトタイプでは、いろいろな種類のノイズがありました。
シールド効果を上げるためには出力にコネクタを用い、制御線には貫通コンデンサを用いるのが良いと思います。しかし、まだ修正も多そうな回路ですのでシールドケースには切れ込みを入れるだけとし、簡単にケーブルごと取り出せる構造にしました。手抜きのシールドですが、プロトタイプに比べて明らかにノイズは少なくなっています。
ケースにはリードのPS-3を使用しています。内部は写真14のようにほとんど余裕がありません。シールドケースの開閉が良くできるものだと、作った本人も感心しました。写真15のようにYM-130のシールドケースを開けます。すると、内部は写真16のようになっています。奥行きがもう2cmくらいあると、ずい分作りやすくなると思います。単3電池6本用の電池ボックスは、ケースの裏面に取付けています。見栄え的には良くないのですが、電池の交換が一番楽な方法です。自作としてはこれがベストの実装でしょう。
写真14. 内部の様子です。
写真15. シールドケースを開けると・・
写真16. シールドケースの内部です。
パネルの裏側には、薄めのプリント基板を使ったサブパネルを付けています。これはLCDとSメータの取り付けのために、ネジ頭をパネル面に出さないようにする工夫です。プリント基板にパネル面と同じ穴あけを行い、LCD固定用のカラーのハンダ付けをしています。Sメータ固定用には皿ネジを使っています。このサブパネル自体は、VR等の固定用ナットでパネルに固定されます。この様子は写真17のようにしています。
ロータリーエンコーダは写真18の下側のような、コパルのRES20-50-200-Lを使っています。一回転50パルスで、割とねっとりとした感触の回り方をします。10年近く前に、秋葉原にて1個1000円で入手したものですが、すでに入手不可能です。ワイヤーが短く、このままではコネクタが届きませんので、上側のように延長しました。接続部分はハンダ付けをし、熱収縮チューブで仕上げています。
Sメータは、目盛をパソコンで作ってラジケータに貼り付けて使っています。この部分はプロトタイプの方が高級なSメータになってしまいました。スペース的にもこの方法が最良と思います。
写真17. サブパネルを使ってLCD等を固定しています。パネル面にネジが出ないようにするためです。
写真18. 使用したロータリーエンコーダです。コネクタを延長しています。
5.ソフト
ソフトはアセンブラで作っています。CPUはAVRのAT90S2313と少々古いICです。ソフトは常にロータリーエンコーダの動作とキーダウンを監視しています。キーが押される、つまり送信となるとDDSの出力を7MHzとします。キーが戻るとDDS出力をIF周波数分だけシフトします。受信時にはロータリーエンコーダの動作を見に行きますが、送信時には見に行きません。周波数を変えるのは受信時のみという思想からです。
元にしたソフトは、2004年のハムフェア自作品コンテストで自由部門の最優秀賞を受賞したDDS SGで、これをトランシーバー用にマイナーチェンジしています。高級言語は使えないため、全てアセンブラで組んでいます。「全て自分の掌で動かすのだ」というのは、完全な負け惜しみです。
ソフトの開発は写真19のようなテストボードを用い、DDS,LCDなどを実際に動かしながら行いました。このままでも直接受信機程度なら動作させる事ができます。
写真19. ソフト開発の様子です。
簡単に済ませるため、10進表示データ、受信用ヘキサデータ、送信用ヘキサデータ、RITデータと4つのテーブルを持たせ、それぞれから1ステップ毎に加減算しています。このDDSの分解能としては1ステップ=1ヘルツですので、このような方法としています。本当は10進表示からIF周波数を加減算してヘキサに変換したいところですが、スピードとソフトのリソースの関係でやめています。なお、ソフト的には1ステップは1Hzですが、それではダイヤル一回転での速度が遅くなってしまいますので、1ステップは10Hzで設定しています。
なお、ロータリーエンコーダは、2相式の一回転50パルスのもので、4倍モードとし一回転で200ステップとしています。つまり一回転で2kHz可変します。もっと細かいものを使用した場合には読み飛ばしが発生し、使い難くなる事が考えられます。その場合には、ソフトやハードにもうひと工夫が必要となるでしょう。図13にダイヤルの回転数と読み取り率のグラフを示します。一回転を500msで回した場合はほぼ100%近く読み取れますが、400msでは70%、300msでは50%に下がってしまいます。仮に500パルスのロータリーエンコーダを使った場合には、5sかけて一回転させないと100%読めない事になってしまい、逆にストレスが溜まります。もう少し良ければとは思うのですが、フィーリング的にはまずまずと思います。回転がネットリした感じのロータリーエンコーダですので速く回し難くく、あまり違和感はありません。軽く回る製品だと50パルスでも読みこぼしが目立つかもしれません。
図13. ロータリーエンコーダの回転速度と、読み取り率を測定したグラフです。(※クリックすると画像が拡大します。)
SPRITはSPRITスイッチをON側にする事でSPRITモードに入ります。SPRITモードではロータリーエンコーダを回したときに受信周波数を変化させます。送信側の周波数は当然変化しません。SPRIT用にテーブルを用意し、受信の10進表示をさせています。このテーブルをUP/DOWNする度に受信用ヘキサデータを1ステップずつ加減算します。SPRITをOFFした時のみ、SPRITテーブルの値だけ受信用ヘキサデータの値を戻し、SPRITテーブルをリセットします。送受信の切り替えを可能な限り早く行おうとするため、このような作り方をしました。モノバンドのCW用としてはこれで良いのですが、他のモード、マルチバンド化はし難い構造となっています。せいぜい他のバンドに転用する程度でしょう。このままでは発展性が少ないのですが、この場合は止む無しと考えています。
スタンバイ制御は、KEYが押された事をトランジスター経由でCPUが受け取り、送信周波数にチェンジします。CPUにポートが余っていれば、ソフトを通してT9VとR9Vの制御を行いたかったのですが、時間的な制約もあってできませんでした。微妙なタイミングの調整をソフトで行ってみたかったのですが、次回作にしたいと思います。
6.ノイズ
プロトタイプの段階ではオープンな構造としたため、ノイズだらけになってしまいました。そのためにメイン基板を簡単とはいえシールドケースの中に入れる構造としましたが、僅かにビートの出る周波数が残っています。また、LCDから「ピロピロ」とノイズが出ます。LCDによって出てくるノイズの周波数が異なるようです。指を近づけるとノイズがQRHしたりします。
完全に消すには高周波の部分を、もっと厳重にシールドする必要がありそうです。本機では簡単な構造にしたい事もあって、ある程度は仕方なしとしました。
7.使用感
CWトランシーバーを作ったのは初めてですが、思ったよりもまともに動作しているようです。但し、受信時のSメータはそれなりの振れ具合で、理想的な表示には程遠いものです。
フルブレークインもうまく機能しています(たぶん)。受信に切り替わった時に多少のAGC電圧が出てしまうため、フィーリングがもう一つのようにも思えます。ラジオ用ICの流用ということである程度は仕方ありませんが、一考の余地はありそうです。信号をモニターしてもキークリック等の問題はないようです。
これからCWを始めるには、性能が低過ぎるかもしれません。しかし、自作のスタートとすれば、ちょっと面白いトランシーバーかと思います。外観的にはプロトタイプの方が面白いかもしれませんし、工作もずっと楽です。
乾電池で動作させるのは良いのですが、その割には少々大きく作り過ぎていると思います。時間があれば、もう少しの小型化は可能でしょう。消費電力も乾電池にしては多過ぎるなど、問題は山積みです。まあ、欠点多く手直しする余地が多いほど、今後が楽しみと考えれば、こんなに楽しいトランシーバーもないでしょう。
8.終わりに
10年前に友人であり同僚のJA9WMC中村さんが病気のため若くして亡くなりました。その時に、写真20の電鍵を奥様から譲り受けましたが、CWの苦手な私にとって少々持て余していました。電鍵の魂を復活させねばと、ずっと心に引っ掛かっていました。この電鍵を使ってガンガンと電波を出さなくてはならないので、実はこれからなのですが、多少荷が降りたような気がしています。
写真20. JA9WMC中村さんの電鍵です。