エレクトロニクス工作室
No.55 短波AM受信機
1.はじめに
CQ誌の2005年の6月〜9月号にSGについての記事を書いた事があります。この時はDDS ICのAD9851を空中配線で接続し極めて危ない配線をしました。テクノラボでこのICを載せる基板が入手できますので、この基板を何枚か入手し、No.50ではこのテストボードの紹介もしました。そして、次の自作を試す事としました。
その手始めに、写真1のような0.5~22MHzの短波AM受信機を作製しましたので紹介します。DDSでのソフト開発とICの値段を考えると、短波受信機、それもAM専用では全く割が合いません。しかし、これも次につなげるステップと考えています。この先には、オールバンド、オールモードと発展するわけです。しかし、最初からそこまでのジャンプは不可能ですから、手始めにAMのラジオとしました。また、ヨーロッパ生まれのラジオ用ICのTCA440を入手しましたので、試して見る事としました。
写真1. このようなシースルーの短波AM受信機です。
という事で、コストと性能のバランスとしては、最悪の作品です。受信周波数が22MHzまでという事で「セミ」ゼネカバ受信機ですが、国際放送のAM波は21.9MHzまでですので一応は充分です。トランジスタラジオ風にまとめてみました。
2.回路
図1が構成になります。アンテナから入った0.5MHz〜22MHzの信号はDDSで発振した周波数とDBMで受信した信号とミックスし、23.822MHzのルーフフィルターに入れます。このフィルターは71.5554MHzのクリスタルを使い、基本波でラダー型のフィルターを作っています。この特性を測定したのが、測定結果1になります。似たようなクリスタルを探して頂くほかありません。
図1. この受信機の構成になります。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果1. ルーフフィルターの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
ルーフフィルターを通った23.822MHzの信号と、23.367MHzをミックスして455kHzの第2中間周波数に変換します。変換の部分はTCA440の一部を使用しました。TCA440の出力をダイオードで検波し、TA7368を用いてスピーカを鳴らせます。単なるAMラジオですので、入手の難しいTCA440を使う必要はありません。他のラジオ用ICで充分です。
23.367MHzは、23.340MHzの3倍オーバートーン用水晶を基本波で発振させ、3逓倍しています。基本波で発振させないと周波数の調整ができないからですが、基本波が受信周波数に飛び込むという欠点もありますので、検討の余地は大です。
DDSの発振周波数とルーフフィルターの関係で、30MHzまでは受信できずセミゼネカバとなっています。無理すればもう少しは何とかなるのですが、AM受信機ですからこれで充分かと思います。
TCA440はJA9TTT加藤さんが以前WEB上で紹介されたICで、特にSSB、CWの受信機を作る場合には使いやすいICです。性能的にもなかなか良さそうです。但し日本での入手は困難で、秋葉原あたりで入手できるところはないようです。私は、加藤さんのWEBで紹介されたオランダからの通販で入手しました。国内の商社でも扱うところはありますので、ネットで検索してみて下さい。
最近では、ちょっとしたものを作ろうとした場合、部品の入手が一番のネックになってしまいます。しかし、あまり入手にこだわっても作れるものが制限されてしまいます。このバランスは難しいところです。
DDSの制御はAVRの2313で行っています。一回転25パルスのメカニカル式ロータリーエンコーダで1MHzステップの制御をします。一回転50パルスの光学式ロータリーエンコーダでは4倍で制御し、一回転200ステップとしています。1kHzステップですので一回転200kHzとなり、周波数の可変にストレスは全くありません。
図2に回路図を示します。構成は面倒ですが、ICを使っていますので割と簡単な回路にはなっています。TCA440付近は加藤さんの回路を参考にしています。1:1のトランスは省略できるのですが、レベル調整用のアッテネータを入れた都合で残ってしまいました。写真2のようなジャンクのトランスですが、FB801で1:1に巻けば充分です。数年前のハムフェアで入手したものです。
図2. 回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真2. 使用したジャンクの1:1トランスです。
AGCのループを2つに分離してかける方法もありますが、ここではSメータ出力からIF段とRF段にかけています。いろいろなAGCの使い方ができるICで、まだ実験の中途ではありますが、この方法が一番良いように思えました。
フィルターを含む周波数関係は、たまたま手元にあった水晶を使用しています。まったく同じにする事も困難とは思います。DDSの発振周波数との関係を考えると、組み合わせはいくらでもあります。
3.作成
実際にこの回路を一気には作れません。写真3のように試験用のボードとBNCコネクタを使ったツールを接続し、トータルの動作の確認をしています。動作の確認後に、写真4のようなシールドのついた高周波用のジャノメ基板に回路を組んで行きました。基板はDDS部を分離し、ラジオ部分とは離しています。ケースが小さいので完全な分離は不可能ですが、一応努力はしました。図3にこのメイン部分の基板の実装図を示します。
写真3. AD9851テストボードとTCA440の実験ボードなどを接続して動作試験を行っているところです。
写真4. シールドの付いた高周波用のジャノメ基板上に組み立て始めたところです。
図3. 基板の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
ケースは100均で探した写真5のようなハガキ入れを使ってみました。一応透明ですので中身がシースルーで見えます。LCDの穴あけをする必要はありませんが、多少は見にくくなっています。
写真5. 100均で買ったハガキ入れです。すでにVRは取り付けてしまっています。
写真6が裏フタを開けた様子です。中央の基板がCPUの基板で、右側の緑の基板がDDSの基板になります。
写真6. 内部の様子です。もっと大きめのケースの方が良かったようです。
4.調整
回路的には比較的簡単なものです。入力側は無調整ですし、DDSは正しく発振します。調整は第2LOの23.367MHzの発振周波数です。フィルターの帯域が合うようにすれば良いかと思います。もちろん、出力のコイルは同調するように調整します。
5.使用感
感度良く短波放送が聞こえます。やはり、このような自作ラジオで聞いてみるのは、ちょっと違った格別の感覚があります。昔々に5球スーパーで聞いたラジオの感覚が戻ってくるような・・
問題点はケースが狭く、CPUやLCDからのノイズがRF部に回り込んでしまう事です。実際に沢山のビートが入ってしまいます。バラックで実験をしているときの方がずっとクリアに受信できました。いろいろな意味で、まだまだ途上の作品かと思います。
元々受信不可能な周波数もあります。CPUのクロックに10MHzを使っていますので、このビートがあります。第2LOは基本波で発振させますので、23.367MHzの3分の1の7.789MHzにもビートが出ます。当然その2倍にも出ます。
中波も聞く事はできますが、極めて感度が悪い印象です。アンテナ端子が50Ωという事もあり、当然まとまなアンテナは望めず、極めて短いアンテナになります。この場合バーアンテナを使った、普通のトランジスタラジオの方が有利で良く聞こえます。決してこのラジオが悪いのではなく、アンテナが悪いのです。というよりも電波の取り入れ方が悪いのです。あまり中波の受信には適しません。