1.はじめに

 以前JA9TTT加藤さんが、CQ誌にラダーフィルターの記事をシリーズで書かれました。この中にセラミック発振子を並べた世羅多フィルターがありました。SSB用やCW用のフィルターを作るというもので、自作派の中には相当広まったようです。私もその一人で、BEACONの中でも何回か使っています。

 この世羅多フィルターを使って困るのが、キャリア発振です。10k以上低い周波数でのフィルターができるため、ちょうど良いキャリア用のセラミック発振子が入手できません。このキャリア発振に、セラミック発振子の中を開けて振動片を削ると言うアイデアを、加藤さんの掲示板旧E-Enginers Square NEOで紹介しました。3年前くらいに実験をしていたのでしたが、この掲示板が閉鎖されるというので、お礼を兼ねて慌てて紹介したもので、実は全くデータの整理はできていませんでした。

 そのため、反響は驚くほどあったのですが、まだ実験途中の段階でまとまりも何もない状態でした。そこで、もう一度実験のやり直しを行い、改めて写真1のようなセラミック発振子の発振周波数を変える実験を紹介する事とします。

 このコーナーは自作品を一つ紹介するというのが基本ですが、今回は実験記となりますので、ご了承をお願いします。

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写真1. このようなムラタの455kHzと480kHzのセラミック発振子がターゲットです。

2.開封方法

 この実験は480kHzのセラミック発振子を用い、468kHz前後のSSBあるいはCW用のフィルターを作った場合を想定しています。フィルターはできるのですが、キャリア発振も必要になってきます。ところが、この発振に使うセラミック発振子が入手できません。そこでいろいろと工夫をしましたが、どれも今ひとつという感じでした。そこで、455kHzの振動片に細工をして、468kHz付近まで強引に引き上げる事を目的としています。2種類の周波数のセラミック発振子が必要となりますので、注意して下さい。

 最初にセラミック発振子を開封する必要があります。私は写真2のように金ノコで上から1/3の位置で切断し、振動片を取り出していました。もちろん、振動片と金具を切ってはいけませんので、裏表から少しずつ切ります。プラスチック部分が切れると、内部から金具に挟まれた振動片が取り出せます。削ったら戻して発振周波数を確認する事が出来ますので、工事中の振動片のソケットになるという意味もあります。

 その後、掲示板で阿部さんにリード線部分から攻める方法を教えて頂き、試しました。100均で買った0.8mmの手回しのドリルで、エポキシの部分にちょっとだけ穴をあけます。この穴を1mmのドリルで少し広げ、2mmでまた広げ………、するとエポキシ接着剤が綺麗に外れます。写真3のように分解できました。元に戻して使う事を考えると、この方が賢い方法です。ノコギリのような力仕事ではありませんので、作業も楽です。ただ測定にはちょっと不便ですので、最初の方法で測定用のソケットを作っておくのも良いかと思います。

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写真2. 金ノコで裏と表から切って開封したものです。

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写真3. 小型の手回しドリルで下から攻めて開封したものです。削った後でそのまま閉じる事ができます。

3.削る方法

 次に周波数の変更方法ですが、まずは昔々に水晶で行われたように、振動片をヤスリで薄くする方法を試してみました。といっても、私の世代の話ではありません。これは試すと簡単に少し上がりました。しかし、メッキが剥がれるためか途中で発振しなくなりました。この方法はダメでした。

 次に隅を削ってみました。最初は紙ヤスリで削ったところ、具合良く周波数が上がって行きました。これは良いと思ったのですが、測定しながら削っていると時間がかかるため、ニッパに削ってしまいました。もちろん少しずつ切るのですが、これが思いの他うまくできました。セラミックなので硬いと思っていましたが、イメージよりもずっと柔らかく簡単に削れます。泥を固めた、という感触です。もちろん、細かく調整する場合はヤスリを使います。納得できる周波数になったら、ケースに戻して接着剤で密封します。最後に発振周波数を確認して終了です。何個か削っていると、すぐにコツを掴めると思います。少なくとも2〜3個は壊すつもりで削ってみて下さい。

4.データ

 次にどの位を削ると、どの程度周波数が上がるのか、データを取る事としました。データといっても非常に曖昧なものですので、目安程度にしかなりません。もちろん削った量と周波数変化についてですが、削った量の表現が難しいので写真で表す事とします。

 写真4が削る前の振動片で、正方形です。この時の特性をFRMSで測定したのが測定結果1になります。ちなみに開封前にも測定していますが、全く同じでしたので省略します。455kHzのセラミック発振子ですから、455kHzで発振させるのが本来の目的です。どの位置を使っているのか大体解るかと思います。ちなみに一般的な図1の発振回路でこのセラミック発振子を使うと、トリマーを回す事で454.2〜456.4kHzの範囲で発振しました。

 次に振動片の四隅のうち1箇所を写真5のように、ニッパで削ってみました。この時の測定結果2では見事に3.9kHzほどシフトしています。写真6のように2箇所を削ると測定結果3のように更に2.5kHzシフトしました。写真7が3箇所で測定結果4のように更に4.7kHzシフトしました。480kHzの振動片を使った世羅多フィルター用のキャリアには、このあたりで微調整をするのが良さそうです。しかし、このさいどんどん削ってみました。写真8のように4箇所を削ると測定結果5のように、更に2.9kHzシフトしました。次に写真9のように四隅を更に少しずつ削ってみました。これが測定結果6で更に4.7kHzシフトし、最初から約19kHz動かせた事になります。次に写真10のように更に削ってみると、測定結果7のようになりました。このあたりは、ちょっと怪しい雰囲気があります。更にどこまで・・と、写真11まで削ってみたところ測定結果8のようになりました。これでは副共振が沢山できてしまってNGです。これは削り方が悪いのか、もう無理なのかは良く解りません。結論として、455kHzのセラミック発振子の周波数は4〜5%程度なら簡単に動かせるという事になりました。削ってみた感覚として、削った量に応じて周波数が上がるように思います。やはり同じように均等に削るというのは無理です。

 実際の発振周波数の微調整は、発振回路のコンデンサで行います。これは削ってないセラミック発振子の場合でも同じです。

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写真4. 削る前です。このような振動片が入っています。

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測定結果1. 削る前の特性です。開封しても同じでした。

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図1. 受信機等で使っているキャリア発振回路です。

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写真5. 手前右をちょっとだけニッパで削ったところです。

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測定結果2. 1箇所を削ると3.9kHz周波数が上昇しました。

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写真6. 2箇所目を削ったところです。

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測定結果3. 2箇所を削ったときで、更に2.5kHzほど上昇しました。

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写真7. 3箇所目です。これでキャリア発振にはちょうど良いくらいです。

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測定結果4. 3箇所で更に4.7kHz上昇しました。

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写真8. 4箇所目を削りました。

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測定結果5. 4箇所を削って更に2.9kHz上昇しました。

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写真9. 更に僅かですが4箇所を削り直しました。

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測定結果6. 4箇所を更に削って4.7kHz上昇しました。

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写真10. また、4箇所を削り足しました。

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測定結果7. 4箇所を更に削り足ししました。ちょっと怪しい特性です。周波数軸を少し動かしました。

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写真11. 更に4箇所を削りましたが、見るからに削り過ぎです。

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測定結果8. 限界まで削るつもりでしたが、使い物にならないような特性になってしまいました。周波数の幅もがこれまでと異なります。

5.まとめ

 文章にすると面倒そうに感じるかもしれませんが、実際には簡単です。ちょっと、強引というか野蛮な方法かもしれませんが、セラミック削りは結構楽しくて何個も削ってしまいました。アマチュア的に可能性が広がるというのは、それだけで楽しくなってしまいます。うまく削れば、455kHzちょうどのフィルターもできるかもしれません。普通に考えると大変過ぎますが、測定をしながら少しずつ削れば以外と簡単かもしれません。そのうちにチャレンジしてみたくなりました。

 セラミック発振子はいろいろな周波数が売られていますので、希望のものが入手できない場合には、4〜5%は高い周波数側に調整できるという実験でした。

 メーカが想定した使い方ではありません。当然ですが、動作保障外になります。自作や実験は、常に自己責任でお願いします。