1.はじめに

 No.55ではTCA440を用いた、AM用の「セミ」ゼネカバ受信機を紹介しました。しかし、このICを使うのであればSSBやCW用として作ってみたいものです。No.58では世羅多フィルターで使う、セラミック発振子についての実験を紹介しました。これらを合わせて、最も簡単と思われる回路で写真1のような、7MHzSSB受信機を作成しました。まだまだ発展途上の作品で、改良すべき点も多いと思いますが紹介します。

 使っている部品も、今では入手困難なものをたくさん使いましたので、そのつもりで参考にして下さい。

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写真1. TCA440をメインのICに使った、7MHzの受信機です。

2.回路

 TCA440の特徴はラジオ用のICでありながら、検波回路が内蔵されてない事です。また、AGCのレンジが90dBと大きくなっています。これはSSBやCW用の受信機に使うには、ピッタリという事になります。

 図1に回路を示します。VFOはICに内蔵する発振回路をそのまま使った、LC発振です。データシートには中波のサンプルしか記載がありませんので、7MHzに換算してみました。少しだけアレンジした回路となっています。発振には25pFのバリコンを使っていますが、500kHz位をカバーしてしまいましたので、6枚あった可動側の羽根を3枚抜きました。結果的に13pF「位」と思います。これでちょうど200kHz+α程度を可変する事ができます。パラに入れている100pF+10pF+3pF+3pFはコイルとの組み合わせですので、調整する必要があります。バリコンもジャンクで同じようなものを探して下さい。 

 フィルターには480kHzのセラミック発振子を3個使った、SSB用の世羅多フィルターで、468kHz付近のフィルターになります。検波には外付けで、ダイオードを4本使ったリング復調回路としました。ICを使っても良かったのですが、特別な意味はありません。SN76514、SN16913、SA612等々のICでも良いかと思います。

 キャリア発振には前回紹介した方法で、455kHzのセラミック発振子を削っています。そして469kHzで発振させていますが、この周波数は世羅多フィルターの特性に合わせる必要があります。

 スピーカはTA7368Pで鳴らしています。LM386でも何でも良いのですが、手持ちのICを使いました。もっともLM386も手持ちにはありますので、理由にはなりませんが・・。

 後になって修正した部分ですが、SSBもCWもガンガンと受信できました。ところがアンテナを接続するとノイズレベルが上昇し、Sメータもかなり振れたままになってしまう事に気が付きました。試しに外付けでBPFを入れると相当に下がりますし、全体的に静かになりました。同調コイルが1個だけというのは、このICにとってはあまりに厳しいようです。そこで後からBPFを追加しました。IFの周波数が低いので、イメージをバッサリ切るためにトロイダルコアを使っています。簡単な受信機ですので、簡単なフィルターで済ませようと試しましたが、なかなか難しくNGのようです。

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図1. 全回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

3.作成

 作成の前に、キャリア用のセラミック発振子は周波数を合わせておく必要があります。この方法については前回の記事を参考にして下さい。

 また、455kHz用のコイルを使いますので、同調範囲からちょっと外れてしまいます。そこで内蔵のコンデンサをドライバーでつついて壊し、外付けの150pFで同調をとるようにします。

 簡単な受信機ですので、多少のQRHは止む無しとしていますが、やはり動かぬ事に越した事はありません。そこで大袈裟なコイルは使わず、としながらも図2のようにトロイダルコアに巻いてしまいました。高周波ニスを塗った方が良いのでしょうけど、マジックハンダでベタベタに固定してしまいました。写真2のようなべったりとした感じになっています。実験していて気が付きましたが、発振回路の100pFにセラミックコンデンサを使うと発振しませんでした。最初は悩みましたが、ディップドマイカを使うと簡単に発振しました。もう少しコイルのインダクタンスを増減させて、最適値を探った方が良かったのかもしれません。発振の状態を確認し周波数の調整後、最終的には写真3のようにホットボンドを使って基板上に固定しました。

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図2. T37-6に巻いたOSC用のコイルです。絵では描き切れませんが、巻数は11tと28tになります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真2. T37-6に巻いたOSC用のコイルで、図2を参照して下さい。

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写真3. 基板上にはホットボンドで固定しました。

 実装図を図3に示します。写真4のような高周波用のシールドの付いたジャノメ基板を使っています。写真5のようにハンダ面に銅のテープを貼って電源ライン等にしています。写真6は基板が完成し、バラックでの試験をしているところです。

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図3. 基板の実装図です。入力のBPFとATTは基板外になっています。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真4. このようなシールドの付いたジャノメ基板を使っています。

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写真5. ハンダ面には電源のラインを銅のテープで貼っています。

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写真6. バラックでテストする様子です。

 200kHzを可変しますので、直結では同調が大変かと思います。不可能という事ではありません。そこで、昔々の30年程前に入手した、ボールドライブメカを使用しました。これは遺憾ですが、入手不可能な絶滅危惧種的な部品です。もったいない精神をちょっとだけ出して使っていますが、それ以外の何者でもありません。

 キャリア用セラミック発振子の取り付けには、ソケットを使いました。調整のやり直しも十分に考えられるからです。他でちょっと借用・・というのもありそうです。このソケットは普通のICソケットを分解し、3ピン分だけを使っています。

 全体的には、ちょっと懐かしい雰囲気を出してみました。他にギアダイヤルや糸かけダイヤル等も使えるかと思いますので、この部分のメカ的な設計については入手できる部品で工夫をお願いします。何しろ古いメカを使っています。基板よりもメカが優先のような感じで、写真7のように2mm厚のアルミ板でサブシャーシを作り、基板とボールドライブメカを固定しています。サブシャーシを組んだところが写真8です。写真9のようにリードのPS-3の穴あけを行い、写真10のように先にケース内の配線を行います。その後で写真11のように収納しています。大きさ的にはピッタリのケースですが、使用するメカによって変えて下さい。裏側からは写真12のようになりました。単3×4本の電池ホルダーは、写真13のように取り付けました。

 後から追加したフィルターは写真14のようなコイルを作り、写真15のようにケースの奥に貼り付けました。

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写真7. サブシャーシを作成しました。

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写真8. 基板を乗せて具合をテストしています。

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写真9. リードのPS-3に穴あけをしたところです。

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写真10. スピーカ等の部品を取り付け、この部分のハンダ付けを先行して行います。

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写真11. その後で基板との配線を行います。

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写真12. 裏側から見たところです。

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写真13. 電池ホルダーはリアパネル側に取り付けました。

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写真14. 入力のBPFに使ったT37-6のコイルです。

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写真15. FCZ基板でBPFを組み上げています。

4.調整

 VFOは実装図のとおりなら発振する事と思います。まずは発振周波数の確認ですが、カウンタを接続する端子がありません。いろいろと試しましたが、簡単にカウンタを使うのは無理そうです。結局SGの信号を受信しながら発振周波数を調整しました。100pFとパラに入っているコンデンサの値を調整し、7.0〜7.2MHzが受信できるようにします。前述のように、バリコンの羽根を抜いて調整しました。その後でダイヤルの目盛を作成しました。残りのコイルは感度が最大となるように調整します。

 なお、ダイアル一回転が50kHzとかの調整は全く行っていません。直線性なども全く気にしていません。メイン目盛だけは作成しています。目盛の円盤には写真16のようなVR用の目盛板を流用しました。写真17のようにボールドライブの径が目盛板の穴とピッタリですので、専用板のようです。これでパソコンで目盛板を作成し、貼り付けて写真18のようなダイヤルにしました。

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写真16. 目盛板にはVR用の円盤を用いました。

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写真17. このように、加工なしでピッタリ収まりました。

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写真18. パソコンで目盛を作って貼り付けました。

5.使用感

 実はLC発振のVFOを作ったのは20年ぶりくらいです。アナログVFOのチューニング感覚が蘇って来ました。最近ではDDSで作成する事が多く、QRHの感覚が無くなっている事に気が付きました。時々調整しなおしながら、まったりとQRHと付き合うのも良いかと思います。

 周波数カウンタを内蔵する場合、少々ピックアップが面倒になりそうです。発振回路はICの回路を使わずに、外付けにする方が応用が効く事は確かでしょう。

 この受信機には苦労しました。トラブルが山のように発生し、記事が流れるかと思ったくらいです。まずコイルのトラブルで、断線とショートが一件ずつありました。TCA440が壊れるという想定外のトラブルもありました。そのため最初は基板に直付けでハンダしていましたが、ソケットを使うようにしました。そのため写真では写せないような修正の嵐となり、作り始めの頃の写真とは異なる部分も出てしまいました。TCA440のテストボードまで作っていたのですが、トラブルには対応できませんでした。時間のかかった受信機です。

 ICにしろフィルターやコイルにしても、簡単な回路です。ところが、とてもマニアックな部品を使った受信機になってしまいました。部品一つの入手や加工にも労力がかかるかもしれません。しかし、それでも楽しい受信機ができたと思います。フィルターはSSB用にしましたが、ちょうど良い感じです。