1.はじめに

 3つのダイレクトを使った、7MHzのSSB/CW用受信機です。今年のハムフェアの自作品コンテストに出品し第3席を頂いた写真1のような作品で、次のような特徴があります。

(1) ダイレクトコンバージョン

(2) ダイレクトデジタルシンセサイザー

(3) ダイレクトAGC

 最後のはちょっと強引ですが、一般的に使われるようなループを使ったAGCではなく、AFアンプの中でゲインをある程度一定レベルに押さえ込もうという試みです。つまり、ループではなくダイレクトなAGCという事です。というダイレクトが3つでダイレクト3つまり、ダイレクト キュービック レシーバーと名付けました。

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写真1. このような7MHzのダイレクトコンバージョン受信機です。

2.構成

 図1に構成を示します。DC受信機ですので、基本的は構造は一般的なもので、何ら変わったものではありません。VFOには周波数の安定度と表示を考えてDDSを用いています。LCのVFOでは動くし、VXOでは7.0〜7.2MHzは苦しいと思います。せっかく広がったバンドですので、200kHz幅で動けないと意味がありません。そこで秋月電子のDDSキットを用いる事にしました。DDSの制御はAVRのAT90S2313で行っています。

 アンテナから入力された7MHzは2SK241のRFアンプ後にダイオードのDBMでDDS出力とミックスしてAF出力を取り出します。LCのLPF後にTA2011Sを使ったAGCを通し、TA7368Pでスピーカを鳴らせます。

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図1. 本受信機の構成です。(※クリックすると画像が拡大します。)

4.回路

 図2に回路を示します。DDSの出力は約-5dBmですので、このままではDBMをドライブできません。そこで2SC1815のアンプを入れています。しかし、今度はゲインが過多になってしまいますので、入力にはアンプが飽和しないようにアッテネータを入れ、出力にはそれでも発生するスプリアスを抑えるためLPFを入れ、DBMとのマッチングのためのアッテネータを更に入れています。ゲインがあり過ぎるためアッテネータで調整するという、あまり面白くない作り方となっています。なお、LPFはチェビシェフ型で、測定結果1のような特性となりました。

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図2. 回路図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果1. ローカル出力に使うLPFの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)

 アンテナ入力にも20dBのアッテネータを入れています。過大入力の対策用ですが、私のpoorなアンテナではあまり使う事はありませんので、裏側にスイッチを付けています。前面の方が使いやすいのですが、同軸を引き回したくなかった事もあります。アッテネータとのバランスもありますが、RFアンプには2SK241とコイルには市販のFCZコイルを使っています。測定結果2のようにゲインは19dBになりました。

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測定結果2. RFアンプの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)

 検波には、IFポートがDCから使えるDBMを用いています。DBMの出力は50Ωですので、ここにインピーダンス変換に山水のトランスST-79Aを入れています。本来の使い方は良く解りませんが、40Ω:600Ωのトランスです。この出力を簡易的に測ってみたところ583Ωでしたので、ほぼピッタリで狙い通りです。そして写真2のような、600Ω用らしき3.4kHzのLPFを入れて高域をバッサリ落としています。OPアンプを使ったインピーダンス変換やLPFも考えて試しましたが、この方法が一番良好な結果でした。このLPFはLCのフィルターで、内部は図3のようになっていますので、簡単に作成できます。なお、特性は測定結果3のようになりました。入出力を600Ωとした測定です。

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写真2. ジャンクのLPFを使用しました。

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図3. LPFの回路です。

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測定結果3. AFのLPFの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)

 DC受信機ですので、両方のサイドバンドが聞こえてしまいます。フィルターをCW用に狭くしたりしましたが、どちら側を聞いているのか解りにくくなり、使い難さを感じました。そのためSSBに合いそうな3.4kHzのフィルターにしました。このような受信機は広い帯域で、まったりと使うのが合っているように思います。私の使い方が下手だけなのかもしれませんが・・

 AGCにはALC用のIC TA2011Sを用いています。これでAGCと共にAFアンプも兼ねています。このICはAFレンジで58dBもの入力を一定に出力するという、カラオケやマイクアンプ用のICです。入出力の特性を測ったところ、測定結果4のようになりました。表現は異なりますが、データシートとほぼ同じです。データシートの回路では一定条件の元で、アタックタイムが50msでリカバリタイムは2sとなっています。リカバリタイムを短くしようと、いろいろと試したところ、感覚的には半分以下になりました。AFでAGCをかけていますので、このICを用いた場合には限界かと思います。アンテナ入力に55dBμの信号を入れた付近から効き始め、110dBμでもほぼ同じ音を出す事ができます。それ以下の信号に対しては、単なるAFアンプとして動きます。強力な信号音で耳を傷めないためにも、このようなALCアンプはあった方が良いと思います。そして最終的にTA7368Pでスピーカを鳴らせるという回路になっています。

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測定結果4. AF AGCに使ったTA2011Sの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)

5.ノイズ対策

 アンテナ入力にはノイズ対策でバランを入れています。スーパー受信機の場合には選択度があるので良いのですが、ダイレクトコンバージョンの場合には、電源ノイズ等々がコモンモードのノイズとして回り込む事があるようです。その対策として入れたものです。写真3のようなジャンク品で、元々は小型機器のコモンモード用ノイズフィルターかと思います。このため、アンテナ端子には絶縁型のBNCコネクタを使いました。

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写真3. アンテナ入力に使用したコイルです。

 電源は9〜12Vですが、同様のノイズ対策で写真4のようなノイズフィルターを入れています。これもジャンク品ですが、電源ライン用のノイズフィルターと思われます。これらの対策で、DC受信機にありがちなハム音を相当に軽減させています。写真5のようなフィルターもあり、この方が効果はありましたが、あまりにゴツイので小型のコイルで十分としました。

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写真4. 電源に使ったコイルです。

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写真5. 電源には、このようなコイルの方が効果はあります。

 アンテナに入れたバランよりも、電源フィルターの方が効果があったようです。アンテナに入れたバランは無くても良いかもしれません。このハム音はアンテナによるようで、SGを接続しても全く発生しませんでした。100Vの高調波がアンテナやACラインに回り込む影響かと思います。スーパー受信機の場合にはIFフィルターで取り除かれるのですが、DC受信機ではRFアンプの同調回路しかありませんので、AFアンプまで通り抜けてしまうのでしょう。

6.作成

 DDSのソフト開発から始め、AFアンプまで順番に作成しました。写真6はAF部で悩んでいた頃の内部です。実験しながら作成しましたので、ジャノメ基板あり、FCZ基板あり、という全く一貫性のない作り方になってしまいました。3.4kHzのLPFからTA7368Pまでのジャノメ基板は、図4のような実装図を書いてから作成しています。

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写真6. 実験途中での内部の様子です。

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図4. このような実装図を作ってから作成しています。(※クリックすると画像が拡大します。)

 内部には生基板を一枚置き、その上にカラーをハンダ付けし基板を固定しています。アースの共通化と、ネジは底面とはいえなるべく外に出さない作り方です。生基板は両面テープで貼り付け、アースはケースと分離しています。外からのノイズを防ぐという考えです。LCDの固定ネジもパネル面に出したくないので、写真7のように生基板をLCDの表示部分の大きさに開けてパネル面に貼っています。これを写真8のようにスイッチやVRと共に固定しています。

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写真7. LCDはサブパネルにカラーをハンダ付けして固定しました。

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写真8. 場所決めをしているところで、この後カラーをハンダ付けしています。

 スピーカはボンドで固定しました。ケースにはリードのローボディ型ユニバーサルケースSK-180を用いました。実験しながら作ったため写真9のように雑な実装となっています。もっと緻密に検討すれば相当な小型化はできると思います。ただ、あまり小型化しても使いにくくなるだけでしょう。

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写真9. 完成した後の内部です。

7.ソフト

 以前に作ったAFオシレータ(BEACON No.47)を元に、変更を重ねて作りました。周波数の幅を7.0〜7.19999MHzとし、表示を少々変えています。

 ロータリーエンコーダは一回転50パルスです。それをソフトで4倍モードとして読んでいますので、一回転200パルスと同等になります。10Hzステップだと一回転2kHzとなり、7MHzの200kHz幅を端から端まで動くので100回転も回す事になります。これでは使い勝手が悪いので、スイッチで10Hz/100Hzを切り替えるようにしました。10回転で済めば楽です。微調整の時には10Hzにして合わせます。

 更に、後から変更した部分ですが、7.0MHzの下は7.1999MHzにジャンプするようにしました。7.19999MHzの上は7.0MHzです。つまりエンドレスのループとすることで、少しだけでも動かしやすいようにしました。

 なお、遊び心でLCDの上側には「7MHz DCRX」と自分のコールを表示しています。

8.調整

 DDSはソフトにミスが無ければ7.0〜7.19999MHzで発振しますので無調整です。まず、LO出力が最大となるように、2SC1815のアンプのコイルを調整します。LO出力は、ある程度以上になると感度は変化しません。それはDBMの特性ですが、調整ポイントとしては出力最大に合わせます。

 次に感度が一番良くなるように、RFアンプのコイル2個を調整します。後は受信をして状態を確認するだけです。この受信機の調整としてはそれだけです。

9.使用感

 アンテナと電源のフィルターによって、ノイズが激減しました。それは良いのですが、DDSのスプリアスが受信されるようになってしまいました。アンテナを接続するとノイズに埋もれるため実害はないのですが、聞こえるものは気になります。これは今後の課題かと思いますが、DDS自体から出すスプリアスは防ぎようがありません。逆に考えれば、それだけ感度が良いという事でしょうか。IC-703と比較しても、若干劣る程度と感じます。

 AGCはもう少し低いレベルから効いた方が良いのですが、途中にOPアンプを入れたところあまりフィーリングが芳しくありません。しかし、全体のレベル構成的にはAFアンプはもう一段あっても良いように思います。