エレクトロニクス工作室
No.68 ダイオード用カーブトレーサ
1.はじめに
ダイオードの特性というのは以外と難しく、時として良否を見誤る事があります。ダイオードは抵抗と違って、不思議なカーブを描くからでしょう。実際テスターだけでの判定では難しい時があります。
インターネットを探していると、思わぬところで面白いものを見つける事があります。このカーブトレーサは、写真1のようなダイオード専用の簡易型です。イーエレのHP(http://www.e-ele.net/)を参考に作ったもので、表示にはオシロスコープのXYモードを利用します。トランジスタは測れませんがダイオードが測れるだけで、なかなか面白いものです。流せる電流は僅かですので、これで見えるカーブだけでは本当の良否は判定できないかもしれません。しかし、これで不良に見えるものは間違いなく不良と考えて良いかと思います。ツェナーダイオードなど十分に見えないものもありますが、テスターだけの世界から脱する第一歩になるかと思います。
写真1. このようなダイオード専用のカーブトレーサです。
2.回路
前述のイーエレの回路を手持ちの部品に置き換え多少アレンジし、図1のような回路としました。
図1. イーエレのHPをベースにした回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
オペアンプはLM358に、レギュレータは100mAのタイプにしました。LT Spiceで発振回路のシミュレーションをしてみたところ、イーエレの記事のようにRが100kでは発振しませんでした。ここは68kを使っています。三角波を次段で増幅しダイオードに加えます。最大の電圧は2Vですが1kΩで電流を制限しているので、2mAまでしか流れません。うっかり端子をショートしてしまっても大事にはなりません。電源が006Pですので、そのうちに消費してしまいます。
図2がLT Spiceの結果です。三角の波形は100Ωと対地間の電圧で、オシロのY軸に接続されます。ダイオードを流れる電流波形となりますが、最初は5Ωではなく100Ωで試していました。下側の波形はダイオードに加わる電圧になり、オシロのX軸に接続されます。
図2. 動作をLT Spiceでシミュレーションしました。
イーエレの回路をアレンジした部分になりますが、オシロのグランドをゼロボルトにしないと何かの時にトラブルになりそうな気がしました。直列に入れる抵抗が大きいと電圧に影響を与えますし、小さいと取り出せる電圧が低くてオシロで測定できません。そこで電流はグランド側に10Ωを2本パラにした5Ωを入れて、ここから電圧をピックアップしてオペアンプで増幅しました。もちろん電圧はこの5Ωに加わった分も含めて表示しますので、多少の誤差にはなります。
被測定ダイオードを壊すのが一番困りますので2V程度としていますが、確かに絶対という事はないとしても、これで壊れる事は「ほぼ」無いと思います。ツェナーやLEDなどのカーブが見られないので、VRを回す事で2.5V程度までは上げられます。
電源のレギュレータには5Vのプラス用とマイナス用を使っています。このように、プラス側とマイナス側を直結する負荷の場合には、レギュレータの出力に逆電圧防止用のダイオードを入れます。ほとんどの場合は無くても大丈夫かと思いますが、定番ですので一応は入れてみました。イーエレのHPでは1Aのレギュレータでしたが、ここは100mAのLタイプを使いました。最近は負電源用のレギュレータが入手難になっているように感じます。特に100mAはあまり見かけなくなりました。もちろん、1Aでも0.5Aで問題ありません。基板上にスペースを取ってしまうという、実装上の問題はあるかもしれません。
なお、テスト用に270Ωを基板上に置いてみました。ダイオードの代わりにこれを接続すると、右肩上がりの直線を表示します。キャリブレート用のつもりですが、中途半端な値にあまり大きな意味はありません。オシロに表示した時に、なるべく45度になるような値にしただけです。当然オシロの設定でも変わって来ますので、適当な値で良いかと思います。もっとキリの良い値にして、電流表示を解りやすくする方法もあるでしょう。
3.作成
表示に使用するオシロは据え置きが普通ですが、付属して使う本機は持ち運びが便利なように作りました。つまりどこのオシロにも持って行けるように、という考えです。
基板はジャノメ基板上に写真2のように作成し、アルミ板に006Pと一緒に固定しました。
写真2. 作成した基板の様子です。後から気が付きましたが、この時点ではテスト用の270Ωは付いてないようです。
パソコンで図3のような配置図を予め描いてから作成しています。
図3. 実装図です。
このように配置を先に考えて作るのは手間がかかるようですが、トータル的には効率的に作業を進める事ができます。写真3がハンダ面の様子です。
写真3. ハンダ面の様子です。
出力としてのオシロスコープ用の端子は設けず、写真4のようにBNCコネクタのケーブルを2個直付けしてしまいました。
写真4. このようにケーブルは直付けにしています。
この方が使う時に面倒がありません。オシロからみればほとんど直流のようなものですし、10:1のプローブもあまり意味はありません。ダイオード用には赤と黒のクリップを設けました。これで簡単にセットアップする事ができます。
4.測定
まずはオシロをXYモードにし、X軸を0.2V/divに、Y軸を0.2V/div程度に設定します。次に中心に点が来るように位置を調整します。本機を接続し電源を入れ、画面を見ながら電圧を設定します。調整用の270Ωをクリップで接続します。すると測定結果1のような波形となります。
測定結果1. 270Ωを接続したときの傾きになります。
X軸の電圧はそのままVで読めますが、Y軸は0.1Vが0.2mAになりますので、この傾きが270Ωになります。カーブさえ描ければ、あまり何V/divで・・などと拘る必要はないとも思えるのですが、0.1Vを0.1mAにしなかったので、換算が大変に面倒・・です。
同じ設定のまま1588を測ってみますと、測定結果2のようになりました。
測定結果2. 定番の1588を測ってみました。
ゲルマのOA90が測定結果3ですので、その差が良く解ります。
測定結果3. ゲルマダイオードとしてOA90を測りました。1588との差が良く解ります。
次に前述のイーエレで購入した1N60Pが測定結果4になりました。
測定結果4. 1N60Pを測りましたが、ゲルマの代替として十分以上の特性に見えます。
これはショットキ・バリア・ダイオードで、本家のゲルマ以上の性能です。小型ですので実装にも不自由しませんし、安価というのが何よりです。1N60PというとUNIZONのゲルマもあるようで、どうも1N60関係の型番は良く解りません。私などはあまり気にもせず、検波用のゲルマは全て1N60と図面に書いています。NETで調べると、この1N60PはGALAXY ERECTRICAL社製のようです。
測定結果5が3Vのツェナーダイオードです。
測定結果5. ツェナーダイオードのRD3.0ECを測ってみましたが、もう少し電圧が高くないと十分には測定できません。当然もっと高い電圧のものは測れません。
これはX軸を0.5V/divに、Y軸を0.1V/divに設定しました。2.5Vまでなので当然の事でが、3Vのツェナーを測定するのはかなりキツイようです。
5.使用感
作り始めてフト思った事があります。簡易型のカーブトレーサですので、ダイオード用と割り切っているならば、マイナス側は無くても良いのでは・・と。同時に見えなくてもそれ程の不便はありませんし、ダイオードは簡単にリバースできます。それなら電池は1個で済みますし、更に簡略化ができるはずです。逆にツェナーダイオードが測定できないので、電圧の幅を拡大してみるのも面白いかと思います。そのような点は、目的によってアレンジしてみて下さい。
今まで見えなかったものが見えているのは楽しいです。何かおかしければチェック用の270Ωを接続して確認すればすぐに解ります。ほとんど「イタズラの薦め」のようですが、イタズラはイタズラでも技術的なイタズラは大変楽しいです。