1.はじめに

 今年のハムフェアの自作品コンテストで自由部門の最優秀賞を頂いた、写真1のような作品です。少々長いので、2回に分けて紹介します。

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写真1. このようなノスタルジックな雰囲気のトランシーバーです。

 SSBのオールバンドを自作するのは結構大変ですが、CW専用にすると案外と簡単な構成で作れます。そこでコイルをプラグイン方式とし、HF帯をカバーする、オールバンドのCWトランシーバーを作成しました。

2.特長

 一番の特長は、コイルをバンド毎のコイルパックとして作り、交換するようにした事です。そのため、コイルパックの交換が容易にできるように写真2のような構造にしました。写真3はコイルパックを装着したところです。結果的にノスタルジックな雰囲気となっています。

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写真2. 基板のソケットを用いたコイルパックです。

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写真3. このように装着します。

 なお、コイルにバンド情報を入れていますので、DDSの周波数は自動的に設定されます。DDSにはAD9851を用い、ソフトでCWバンドを外れる事を禁止しています。どのバンドについても、バンドエッジを越えてチューニングを回しても、周波数は変わりません。その時には「ピッ」という注意音を出しています。また、1.9MHzや3.5MHzのようにバンドが分割されている場合は、バンド外の周波数を「ピッ」という注意音を出すと同時にスキップします。

 RIT回路は、受信時の周波数だけ±10kHzの範囲で自由に動かす事ができます。内部の制御はほとんどCPUを介して行いますので、ソフトを使ってフルブレークインでの運用が可能となっています。

2.構成

 受信にはヨーロッパ発のICである、TCA440を用いたダブルスーパーとなっています。簡単な回路ですが、感度やAGCの具合も申し分なく、使いやすいものになっています。IFには世羅多フィルタのCW用で500Hzの選択度を得ています。

 当初は送信ファイナルに2SC1815×3を用いていましたが、スプリアスの問題があり2SC1970×1に変更しました。このトランジスタなら1W程度は出せるのですが、全体のバランスも考え、200mWのQRPにしています。それでも、バンドによって出力にかなりの差があります。アレンジ次第では多少のQROは簡単です。

 コイルパックは、1.9MHz〜28MHzまでを9バンドに分割しました。LPFのコイルにトロイダルコアを用いた場合は、数が多く高額になってしまいます。そこで10個で100円程度で購入できるチップインダクダンスを用いました。プラグインのコイルパックにするときに小型で便利です。また、数を沢山使いますのでコイルのQは低いかもしれませんが、コストのQも低く抑える事ができます。なお受信機のBPFは、10MHz以下にはトロイダルコアを用いたBPFを使っています。

 ロータリーエンコーダの読み取りには、専用にCPUを1チップ使用し、どんなに高速に回しても読みこぼしが少ないようにしました。また、それだけではなく、早く回している事を認識してステップを変える事で、周波数の移動が楽に行えるような工夫をしました。ステップの切り替えは3段階とし、速さに応じてステップが広くなるようにしています。

 サイドトーン用にも専用のCPUを1個用い、DIPスイッチで周波数を切り替えるようにしています。

3.回路

 図1に示すような回路としました。基本的な考えはNo.5253で紹介した、7MHzのCWトランシーバーと同じです。受信機の周波数はIF分をシフトして発振させますが、送信時にはシフトした周波数を戻します。

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図1. 全回路図になります。 (※クリックすると画像が拡大します。)

 RF ATTはRFアンプの電源をOFFにする手抜きの回路です。これで適当なアッテネータになります。周波数によって減衰量が違ってくる欠点がありますので、抵抗によるアッテネータを入れた方が良かったと思いました。

 受信用はBPF、送信用はLPFと完全に分離して使用する方が良いのでしょうけど、PINダイオードでアンテナを切り替えるので、ここで作られるスプリアスを抑えるためにLPFは送受共用にしました。LOの周波数は(受信周波数)+(第一IF)としています。従ってLPFがあればイメージ的には問題ないかと思いますが、そこは受信機ですのでローバンドにはBPFを入れています。

 10.6985MHzのフィルタはSSB用のクリスタルフィルタを用いています。ここは特に鋭い必要はなく、FM用程度の選択度でも十分かと思います。

 第二LOには33.5MHzのオーバートーン用クリスタルを基本波で発振させ、11.1658MHzを得ています。VXO化にした時のIFシフトを視野に入れてみました。10.6985MHzの第一IFを、TCA440のミキサーでこの11.1658MHzとミックスし、第二IFの467kHzを作ります。

 次に480kHzのセラミック発振子を使った、5素子の467kHzの世羅多フィルタに入ります。TCA440の出力はダイオードリングを使った検波回路と、455kHzのセラミック発振子を削って作った468kHzのキャリアで復調します。TCA440と世羅多フィルタは、JA9TTT加藤さんのHPを参考にしています。なお、周波数は大体の数値です。世羅多フィルタの周波数は、480kHzの発振子によって多少ズレてきますので、全く同一にはなりません。

 AFアンプはTA7368Pを用いています。この辺は今まで作った回路の組み合わせになります。送信時もサイドトーンを出すために電源は切りません。

 DDSはテクノラボ(HP:http://technolabo.hp.infoseek.co.jp/entrance.html)の基板を使ったAD9851のDDSです。基本的には基板どおりの回路ですが、多少のアレンジをして図2の回路になっています。その出力を広帯域アンプで増幅し、ハイブリッドで2分配します。片方はコイルパックのLPFを通って受信機のDBMに入ります。もう一方は2SC1970×1のアンプで約200mWに増幅されます。その後コイルパックのLPFを通ってアンテナに出ます。フルブレークインですので、ダイオードスイッチを使ってアンテナの切替を行っています。当初は2SC1815×3を使っていましたが、高い周波数と低い周波数での出力差が大きい事と、スプリアスの問題があり手持ちの2SC1970に変更しました。

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図2. DDS基板に作った回路です。 (※クリックすると画像が拡大します。)

 CPUはメインのCPUにATmega164Pを用いています。他にロータリーエンコーダの読み取り専用のAT90S1200を用いています。これは高速でTUNEのツマミを回した時に発生する読みこぼしを無くすため、読むだけの専用CPUを設けました。読んだ結果は6ビットのパラレル(つまり最大63ステップ)でメインのCPUに送ります。メインのCPUは読むと数値のリセット指令を出し、読み取り専用CPUはゼロに戻します。この方法で、読みこぼしはほぼゼロになっています。

 更にサイドトーン用の発振器のもAT90S1200を使用し、ソフトで周波数を作っています。DIPスイッチで500〜700Hzのサイドトーンを約20Hz間隔で調整できるようにしています。

4.部品

 なるべく入手できるものを使っています。しかし、特殊なものが一部にあります。DDSはAD9851を使っています。これはイーエレの通販で購入しました。DDSの基板は前述のようにテクノラボのDDS ONEを使っています。

 世羅多フィルタは480kHzのセラミック発振子ですが、キャリア発振には455kHzのセラミック発振子を削って周波数を上げて約468kHzに調整しています。写真4が内部を開けたところで、発振子の様子です。これを削って周波数を上げています。この方法についてはNo.58の記事を参考にして下さい。

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写真4. 455kHzのセラミック発振子を削って周波数を上げています。

 受信機のTCA440はオランダの販売店からWEBを使って個人輸入したものです。ネットで検索すると、日本でも入手は可能です。実は20個ほど入手し13個手元に残っていたのですが、今回の作成に伴い一番良いものを選別しようとしたところ、3個ほど全く動かないものがありました。また、個々の感度に差があり、出力レベル差が15dBくらいあるように見えました。日本製のICにはありえないと思います。写真5がICをチェックし、仕分けしたところです。

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写真5. TCA440を仕分けてみました。

 アマチュア的としては入手し難い部品がロータリーエンコーダです。ここでは千石電商で入手した、岩通アイセックの100P/Rの光学式EC202A100Aを使用しています。

5.コイルパック

 コイルは送信時のLPFをはじめ、バンド毎に切り替える必要があります。プリント基板のソケットを用いていますので、アース部分で共通のインピーダンスがどうしても出来てしまいます。従って、フィルタの特性としてはモノバンドで作るよりも悪化してしまい、特性的にはハンデになります。特に周波数が高くなると通り抜けがしやすくなりますので、アンテナ端子には写真6のような30MHzのLPFを別に設けました。

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写真6. アンテナ端子に入れたLPFです。

 DDS出力はスプリアスが多く含まれています。LPFだけでは低域のスプリアスが目に付いてしまいます。ところが、このようなプラグインでフィルタを作ると、本格的なBPFを作るスペースがありません。また、アースの一部が入出力共通になってしまい、なかなか良い特性が出せません。そこで、10MHz以下の受信側には無調整で2ポールのBPFを作ってみました。多少のロスは気にせず作りましたが、さすがに送信側ではできませんでした。バンドによっては状況が異なりますので、図3〜11のように値はもちろん回路も違っています。LPFはチェビシェフ型を使っています。写真7のように3.5〜10MHz用と、14〜28MHz用では作り方を変えています。

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図3. 1.9MHzのコイルパックです。 (※クリックすると画像が拡大します。)

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図4. 3.5MHzのコイルパックです。 (※クリックすると画像が拡大します。)

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図5. 7MHzのコイルパックです。 (※クリックすると画像が拡大します。)

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図6. 10MHzのコイルパックです。 (※クリックすると画像が拡大します。)

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図7. 14MHzのコイルパックです。 (※クリックすると画像が拡大します。)

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図8. 18MHzのコイルパックです。 (※クリックすると画像が拡大します。)

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図9. 21MHzのコイルパックです。 (※クリックすると画像が拡大します。)

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図10. 24MHzのコイルパックです。 (※クリックすると画像が拡大します。)

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図11. 28MHzのコイルパックです。 (※クリックすると画像が拡大します。)

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写真7. 作成した9バンドのコイルパックです。

 使用したプリント基板はサンハヤトのUK-18P-69で、ソケットが付いているタイプです。写真8,9がコイルパックの内部の様子です。

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写真8. Lバンドのコイルパックです。

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写真9. Hバンドのコイルパックです。

6.おわりに

 今回はここまでとします。部品の入手や加工等を考えると、このままでは再現性が十分とは言えません。同じ回路で作るのではなく、アイデアを参考にして頂ければと思います。