『これが10W+10Wステレオアンプ、しかもD級だよ』 秋月電子通商の「USBオーディオアンプモジュール」を友人から見せられ、言われるままにパソコン付属の小型スピーカー(内蔵アンプなし)をデジタルアンプにつないでPCのiTunesライブラリを試聴すると、高い解像力と豊富な音色、一切のノイズがないPCオーディオの魅力にとりつかれてしまいました。2例の廉価な「USB DAC付デジタルパワーアンプ」を使ってみましたので、製品の紹介を兼ねてその顛末をまとめました。

D級アンプモジュール

秋月電子通商の10W+10WステレオD級アンプモジュールを700円で購入しました。

http://akizukidenshi.com/catalog/g/gM-02404/

モジュールはトライパス(Tripath)社のデジタルステレオアンプTA1011B、USBオーディオDACにUAC3552Aが実装されたUSB接続タイプ・デジタルオーディオアンプモジュールです。ドライバ不要でパソコンからステレオ出力が可能です。基板の刻印からPower MacG4cubeのUSB接続外部スピーカーに採用されていたユニットのようです。

※DAC: Digital to analog converterの略でデジタル・アナログ変換回路を指す。

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写真1. 10W+10WステレオD級アンプモジュール

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写真2. 10W+10WステレオD級アンプモジュール(裏面)

品質が良いのにあまり知られていないのは、スピーカーを鳴らすための改造が必要で、80mm×38mmの基板に載ったチップ部品の取り外しと2か所のジャンパー線の配線がやや難しいかもしれません。さすがに有名ブランドの製品で申し分のない質の高さでスピーカーを鳴らしてくれます。特に映画(DVD)の再生では街の雑踏やざわめきなど、騒音に紛れる細部の音が聴こえて、24ビット48kHzの解像度の高さを実感しました。

※D級アンプ: 増幅素子のバイアスによる区分ではなく、デジタルアンプによる方式を指す。デジタルアンプはパルス変調やパルス密度変調を応用し、スイッチング回路で電力増幅を行い90%以上の高効率増幅を実現する。A級、B級、C級などは増幅素子のバイアス電圧、電流の相違など増幅の動作原理そのものが質的に異なる。

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写真3. D級アンプモジュールの改造

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写真4. D級アンプモジュールの改造(クローズアップ)

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写真5. D級アンプモジュールをケースに収容

PCに接続する

秋月電子通商のデジタルアンプをUSBケーブルでパソコンに接続します。Windows XP以降のOS(基本ソフト)はそのまま自動認識します。低域、高域のバランス調整やAGC回路が設けられていてマニアも満足できるアンプです。また、PCと接続した場合の調整機能はWindows Vista、Windows7(32 bit、64 bit)の場合、音量、バランス、低音(-12dB〜+12dB)、コーナー周波数120Hz、高音(-12dB〜+12dB)コーナー周波数6kHz、AGC、低音ブースト(3〜24dB)50〜600Hzの範囲を1Hz単位で設定可能、仮想サラウンド、ラウドネス イコライゼーションが調整できます。ただしWindows XPには細かい調整機能がありません。

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写真6. D級アンプモジュールの前面。RCAレセプタクルはスピーカー用、USBレセプタクル。

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写真7. D級アンプモジュールの背面。電源アダプタ端子(左)とイヤホンジャック(右)

写真はモジュールをケースに入れて完成した状態です。モジュール(700円)の他にケース(890円)、USBケーブルとレセプタクル(500円)、5V/3A電源アダプタ(600円)、RCAレセプタクル(60円×2個)と電源コネクタ(60円)の計2,870円でした。しばらくはiTunes ライブラリを音源にPC付属の超小型スピーカーで音楽を聴いていましたが次第に飽き足らなくなり、スピーカーをDENON SC-MG33に変えてみました。結果は透明感のある音質で低域もしっかり出てPC用のスピーカーと段違いの良さを示してくれました。

SC-MG33 の仕様は、硬質なMDF材を使用したオールウッド構成。フロントバスレフ型、防磁設計にウーハー(14cm グラスファイバー製コーン型)、ツィ―ター (2.5cm ドーム型ダイレクトドライブ)、入力インピーダンス 6Ω、入力 50W、W 160×H 270×D 231(mm)、質量: 2.9kg。

※MDF材: Medium Density Fiberboardの略で、木材から抽出した木材繊維に良質な接着剤を添加して成型熱圧した木質素材。

DigiFi特別付録

別冊ステレオサウンド『DigiFi No.7(2012/8月号)』に特別付録「USB DAC付デジタルパワーアンプ」が付いていることを知りました。定価は2,980円、雑誌が千円ならアンプが1,980円と値踏みして同社販売部に注文しました。

※USB DAC(Digital to Analog Converter)とアンプを一体化したもの。

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写真8. 特別付録「USB DAC付デジタルパワーアンプ」

デジタルパワーアンプの仕様

ほどなくして届いた付録のデジタルパワーアンプの仕様は次の通りでした。

最大出力:10W+10W(8Ω)、周波数特性:20Hz〜20,000Hz(0〜3dB)、電源電圧:5V(USB BUSパワー)、寸法/質量:W64×H38×D93mm / 57g。

専用アクリルカバー

DigiFiのChapter 5(p.36)に「DigiFiオリジナルアクリルカバー」の紹介がありましたので、ステレオサウンド・ストアにて2,000円で購入しました。2枚の薄い青色の透明アクリルカバーで挟む簡単な構造のため、10分ほどで組み立てを終えました。プリント基板と電子部品が透けて見えるデザインが気に入りました。

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写真9. 「USB DAC付デジタルパワーアンプ」にDigiFi特製アクリルカバーを装着

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写真10. 「USB DAC付デジタルパワーアンプ」を試聴している様子

パソコンの設定

「USB DAC付デジタルパワーアンプ」の電源はPCのUSB端子から供給されます。USBケーブル(パワーアンプ側Type B、PC側Type A)を用意します。赤(+)と黒(-)のスピーカー端子にDENON SC-MG33スピーカーを左右のチャンネルを間違えないように接続します。このデジタルアンプが再生できるデジタル音声信号はPCMの16ビット/48kHzでハイレゾ(48kHz/24ビット)音源には対応していません。

※PCM: パルス符号変調pulse code modulation)。音声などのアナログ信号をパルス列に変換するパルス変調の一つ。

※ハイレゾ: 高解像度(High Resolution)の略。

USBケーブルをPCにつなぐと自動的にデバイスドライバーがインストールされ音が出るように設定されます。「コントロールパネル」の「サウンド」の再生が「スピーカー(USB Audio DAC)動作中」と表示されるので、「プロパティ」をクリック、「スピーカーのプロパティ」を開きます。レベル、音の明瞭化、詳細などの各パートを設定します。プロパティはPCのOSによって少しずつ違うので要注意です。

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写真11. スピーカーのプロパティ

プレーヤーソフト

音楽ファイルの再生にWindows media PlayerとiTunesの二つのソフトを使ってみました。付録のアンプは、標準的な再生ソフトとして、アップルから無償でダウンロードできるiTunesを推奨しています。とりあえず音楽を聴いてみたい方にお勧めなのがiTunesの「ラジオ」です。クラシック、JAZZ、カントリーなどなんでもあります。

CDとPCオーディオの聴き比べ

PCオーディオの音の良さは折り紙つきです。始めて聞いた時の衝撃は忘れられません。少し落ち着いたところでCDとの音の違いを実証するために、PCオーディオ(PC+USB DACデジタルパワーアンプ)とDENONオーディオシステムD-MG33をGRACEのAMP SELECTOR (MODEL AMP-44S)で切換えて試聴しました。

どちらも音楽CDを音源としているのに、顕著に違いが出るのはなぜでしょうか。CDプレーヤーはディスクを回転してデジタル音楽信号を取り出すCDトランスポートに対し、PCオーディオはデジタル音楽信号をアナログ信号に変換するD/Aコンバーターとデジタルパワーアンプが良い音を出す決め手と理解していますが、詳しくは「これ一冊で完全理解 PCオーディオ」1,219円 日経BP社などを参考にされてください。

特別付録の高品位音源

季刊「ネットオーディオ」Vol.07(2012年秋号)(株)音元出版の特別付録ディスク「高品位音源」を手に入れました。定価1,300円。WAVとDSDのスタジオマスターデータ(ジャズピアノ・ライブ)が収録されています。192kHz/24bit、96kHz/24bit、44.1kHz/16bitWAVなど。ここに紹介した二つのデジタルアンプの再生可能域は24ビット48kHzなので高品位音源に対応していませんが試聴してみました。先ごろ発売のSONY USBオーディオ対応ポータブルヘッドホンアンプPHA-1(96kHz/24bit)なら「高品位音源」の良さがわかるはずです。

※WAVまたはWAVE: マイクロソフトとIBMにより開発された音声データ記述のためのフォーマット。

※DSD: ダイレクトストリームデジタル (Direct Stream Digital) は、スーパーオーディオCDがアナログ音声をデジタル信号化する際の方式。

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写真12. 特別付録「高品位音源」DVD (株)音元出版

あとがき

1965年頃、GT管6V6プッシュプル10Wアンプを作った思い出が蘇りました。大きな出力トランスとチョーク、電源トランス、大型の電解コンデンサーを並べた大掛かりな装置を組み立てて得意になっていましたが、組み立て技術の未熟からスピーカーから僅かに聴こえるノイズが不満でした。あれから47年、再びオーディオアンプを組み立てる(触る)機会が巡ってくるとは思いもしませんでした。USB DAC付デジタルパワーアンプの手作り感に喜びを感じ、音楽を聴く時間が増えたことを報告しておきます。

なお、改正著作権法では個人的に利用する目的であっても、DVDや一部のCDに付けられている「コピーガード」(複製を防ぐ機能)を解除して、動画や楽曲のデジタルデータを自分のパソコンなどに取り込む行為は、新たに違法となりましたのでご注意ください。