Onlineとーきんぐ
No.150 「初めてのデュアルディスプレイLCRメーター」
アマチュアがよく使う測定器と言えば「ポケット・デジタルマルチメーター」「アンテナアナライザー」「SWRメーター」などが挙げられます。一昔前なら「テスター」と「ディップメーター」で決まりですが、今なら「デジタルオシロスコープ」や「ベクトル・ネットワーク・アナライザー」などが加わります。
ポケット型デジタルマルチメーターの測定の範囲は交流と直流の電圧、電流、抵抗、キャパシタンス(40nF〜40μF)、周波数(10Hz〜10MHz)など幅広い測定ができるところから人気があります。しかしながらキャパシタンスの測定範囲が狭い上に、インダクタンスを測る機能がないため、専用のLCRメーターが欲しくなります。
LCRメーターとの出会い
ある日、友人が小型の測定器を持ち込んできました。『どう、この測定器でコンデンサの容量抜けがわかるよ。それにコイルのインダクタンスだって測れるのだ。』と自慢げに見せられました。手に取ってみるとLCRメーターでした。上部に6cm×4cmの液晶表示があり、POWERボタンに続いてLCRAUTO、FREQ、SORTINGなど見慣れないボタンが12個並んでいます。テストリードにピンセットのような形状のチッププローブがつながっています。
秋葉原の計測器ショップでアジレント・テクノロジーのLCRメーター(5万円前後)を見ていたので、『空いている時に使わせてもらおう』と考えていると、こちらの気持ちを見透かすように『4,700円だよ、プローブが950円だから合計5,650円』『秋月電子の店頭に山積みになっているのですぐにわかるはず。』またもやあの店だ!
写真1. 店頭に山積みのLCRメーターDE-5000
ジャンク(とは言えないが)は一期一会、見つけた時に買っておかなければ再びお目にかかれないという教訓を念頭に秋葉原へ直行して、首尾よくLCRメーター(DE-5000)とチッププローブを手に入れました。秋月電子のHPによると「DE-5000 LCRメーターは台湾のDER-EE社と秋月電子が共同で開発した」とのこと。
http://akizukidenshi.com/catalog/g/gM-06264/
写真2. DE-5000と チッププローブTL22と手前はテストリードTL-21
DE-5000の主な仕様
・LCR各パラメーターを自動選択し最適レンジで測定できる
・LCD:主表示部19999(4+1/2桁)、副表示部9999(4桁)、百分率バーグラフなど
・測定レンジ(主表示部)
L:20.000μH(最小分解能 0.001μH)〜2000H
C:200.00 pF(最小分解能 0.01pF)〜20.00mF
R:20.000Ω(最小分解能 0.001Ω)〜200.0 MΩ
・交流試験周波数:100Hz/120Hz/1kHz/10kHz/100kHz(/DC)
・測定レート:1.2回/秒
・寸法と質量:H18.8cm×W9.5cm×D5.3cm 350g
・電源:9V(006P乾電池) オートパワーオフ(約5分)機能付き
・オプション:チッププローブ(TL-22SMD)、テストリード(TL-21)
較正用のコンデンサ
DE-5000、LCRメーターの較正用に許容差1%のコンデンサを探して測定器の店へ寄ってみました。案の定というか10,000pF ±1%のコンデンサはありません。だめもとでマルツパーツ館に入り、店員に声をかけると『332Gならある』。因みに、3.3は0.0033μF、Gは±2%。1個63円でした。332GをDE-5000で計測すると3.298nF(0.003298μF)となり±2%に収まっていました。
さらに友人から朗報!10000pF±1%と1500pF±1%をそれぞれ2個ずつ借りることができました。DE-5000による計測値は次の通りでした。
10000pF→9997pF、9945pF 1500pF →1481.9pF、1490.4pF
写真3. DE-5000にテストリードTL-21を装着して10000pF±1%を計測
写真4. コンデンサ10000pF±1%
真空可変容量型コンデンサ
バキューム・バリアブル・キャパシター(Vacuum Variable Capacitor)と呼ばれ、アマチュア的にはマグネチック・ループアンテナに使われています。デイトンハムベンションのフレアマーケット(のみの市)で米国製、ロシア製の中古品を見かけます。日本では唯一、明電真空コンデンサが製造しています。
真空可変容量型コンデンサの構造は、電荷を蓄積する電極部分をガラスまたはセラミックスの真空容器内に配置して、小形で高耐電圧・大電流通電を実現しています。コンデンサの誘電体が真空であり、絶縁性が高く損失の少ない電極材料を使用して損失係数が小さい。真空容器に設置された対向電極の片方を上下に移動して、対向面積を変えて静電容量を変化する構造になっています。
写真5. バキューム・バリアブル・キャパシターの容量を計測する
ドイツの友人(DF2CW/JA7HM)から「バキューム・バリアブル・キャパシター」をお土産にいただきました。ロシア製でКП1-8 5kB 4-100пФの印字から4〜100pFと推測しました。これをマグネチック・ループアンテナ(14MHz〜28MHz)に使うため容量を調べておく必要があり、LCRメーターを用いて1回転毎の容量を計測しました。写真のようにテストリード(780円)のワニ口クリップを両極につないで、回転軸に小型のドライバーを差して手動で回転させて測ってみました。
最小容量:4.6pF、最大容量:115.3pF。1〜8回転までは1回転毎に5pF程度増し、9〜21回転は1回転毎に10pFずつ直線的に増えました。容量の変化を図に示します。
真空可変容量型コンデンサの1回転辺り容量変化(※クリックすると画像が拡大します。)
インダクタンスの測定
OnlineとーきんぐNo.125「ドイツ製トラップ・ダイポールから手作りのヒント」でドイツKelemen社のマルチバンド・トラップ・ダイポール(DP-201510)を取り上げました。このアンテナの特徴はテフロン製の同軸ケーブル(例・RG178D/U)を数回巻いたトラップを採用していること。トラップの仕様として1.5D2V同軸ケーブルを直径3.5cmで3回巻き、インダクタンスが2.3μHと表示することで、いっそう再現性が良くなると思われます。
[トラップ]:Trap、罠。マルチバンド・ダイポールアンテナに挿入した並列共振回路のこと。
写真6. マルチバンド・トラップ・ダイポール(製作・JA1KJW)
次に試作したマルチバンド・ダイポールのトラップを実測しました。
14MHz(5回巻き):5μH、21MHz(4回巻き):3μH、28MHz(3回巻き):2.3μH。
テフロン製の同軸ケーブルRG178D/U(1600円/m)を使用して200Wまで耐えるが、1.5D2V(60円/m)は50W位が限界と思われます。トラップの共振周波数はディップメーター(TRIO DM-800)で確認すると共に、アンテナを架設してHF/VHF SWRアナライザー(MFJ-259B)で各バンドの同調点とSWRをチェックしました。
写真7. 28MHz帯トラップ
写真8. 21MHz帯トラップ
写真9. ディップメーターで共振周波数を確認する
トラップのインダクタンス(μH)と共振周波数(MHz)から並列共振回路の容量(pF)を調べてみました。
http://www15.plala.or.jp/gundog/homepage/densi/keisan/lc/lc.html
インダクタンス | 容量 | 共振周波数 |
---|---|---|
2.3μH | 13.5pF | 28.562MHz |
3.0μH | 18.8pF | 21.192MHz |
5.0μH | 25.3pF | 14.150MHz |
(インダクタンスはLメーターによる実測値)
まとめ
LCRメーターにより、コンデンサの容量とコイルのインダクタンスが測れるようになり、アマチュアライフがいっそう豊かになりました。Cメーターはいわゆるコンデンサの容量抜けを知ることができるため無線機、オーディオ装置等の修理に威力を発揮しそうですし、Lメーターはマルチバンド・ダイポールアンテナのトラップやモービルアンテナの短縮コイルなどの製作に役立ち、再現性を高めてくれますので、自作派にはこたえられない測定器の一つと紹介しておきます。