MFJエンタープライズ社のMFJ-259Bを「デイトンハムベンション」特価で購入して持ち帰った測定器です。「MFJ HF/VHF SWR ANALYZER MODEL MFJ-259B」は1.8MHz〜170MHzをカバーするSWR アナライザーで、発売元のMFJ ENTERPRISES社は「QST」に1頁の広告を掲載し、289.95ドル(約26,000円)の求めやすい価格設定と「World’s most popular Antenna Analyzer is super easy-to-use!」(世界の最もポピュラーなアンテナ・アナライザーは非常に使いやすい!)のキャッチコピー通り、アマチュアの間では価格性能比が抜群の測定器として人気があります。

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写真1. MFJ-259B TUNEの軸が大幅に傾いている

実用的な仕様

「素人の手作り感なのに性能がしっかり」とは大方の評価です。ケースは15ミリ厚のアルミ板を折り紙細工のように加工し、黒色に塗装、文字を白色でプリントしたデザインが、好感の持てる測定器としてまとまりを感じます。縦長の上部に周波数表示やSWR、インピーダンス、電圧表示などのディスプレイがあり、中央にSWRとIMPEDANCEの2個のメーター、下部にTUNE(バリコン)とFREQUENCY MHzのバンドスイッチを配置しています。

アンテナ調整

MFJ-259Bの使い方として主に、固定する局のトライバンド (14・21・28MHz) Mini-Mutti HB9CVとCushcraft R5(10/14/18/21/24/28MHz)の二つのアンテナを組み立てた後、各バンドの同調周波数とSWR2.0以下のバンド幅を確認し、高所に設置して細かく調整することなくそのまま使っています。

モービルアンテナの調整

HF帯のモービル運用が好きでHV4(DIAMOND) 1本のアンテナで7,14,18,21,24,28,50MHzの7バンドを運用しています。バンドごとの共振周波数とSWRの調整、給電部のインピーダンスの確認に使います。また、移動用のアンテナW3FFアンテナ(BUDDIPOLE)を小電力機(MFJ cub)と組み合わせる時はMFJ-259Bで共振周波数とSWRを確認してから運用するため、いつもアンテナと一緒に携帯しています。

電源スイッチ対策

電源は内蔵電池(10 Ni-MH×10個)とACアダプターの2本立て。内蔵電池を使用時に赤色の押しボタンが、何かの拍子で押されてONになり、気付かないまま放電して、いざという時に使えない状況を経験しました。そのため2段階の防止策を考えつきました。一つは押しボタンにゴム製のキャップをかぶせて、不用意に押しボタンスイッチがONにならないようにする方法、もうひとつは上部パネルの外部電源端子に空のプラグを差しておくと、押しボタンスイッチがONになっても電源は入らないという方法です。さらに念には念を入れて電池を一本抜いておくので電源スイッチの切り忘れがあっても大丈夫という仕掛けです。この三つの方法で不用意な放電事故は無くなりました。MFJ-259Bは布製のバッグをホームセンターで購入して、本体の他、ACアダプター、小型のブラスドライバー並びにMFJ-66(ディップメーター2コイル)を一緒に収納しました。プラスドライバーは電池カバーの2か所のネジを回して内蔵電池のパネルを外すためです。

予期しない災難!

2.5D2V同軸ケーブルを2〜5回巻いてマルチバンド・ダイポールアンテナのトラップを作っていた時のことです。LCRメーター(DE-5000)でインダクタンスと容量を計測して、TRIOのディップメーター(DM-800)で周波数を実測しますが、このディップメーターの周波数表示は円盤に印字された数字(周波数)を読むのでおおよその数値になります。そこでMFJ-259Bにディップメーターの機能があるのを思い出して、周波数をより正確に確認したいと思い倉庫から出してきました。

バッグからMFJ-259Bを取り出して異変に気付く。TUNEのツマミが破損してバリコンの軸が異常に傾いています。当然、ツマミを回すことはできません。ツマミにつながるバリコンの軸が中心から大幅に傾き、軸受けが大きくずれています。何か大きな力でTUNEツマミを叩いたか、あるいは強い衝撃が誤って加わったと推測しました。「さて、どうする!」「アマチュアなら直すでしょう」自問自答して修復に挑戦することにしました。

解体する

ケースのネジ類全てを外して内部を見えるようにしました。バリコンを装着した基板に傷がない事を確認し、次にバリコンの軸受けが大きくずれてローターがステーターからはみ出していますが、軸受けのボールベアリングに損傷がないように見えます。果たして修復ができるでしょうか、自信は持てませんが、しばらく時間を置いて修理の手順を考えました。

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写真2. ケースから取り出した本体基板と電池ホルダー

まずバリコンを基板に留めてある2本のビスを外し、ステーター側の線を切り離して基板から外しました。軸受けを太めのドライバーで叩いて元の位置に戻してみましたが、ステーターもローターも曲がったままなので回転できません。そこで、ピンセットと精密ドライバーで修正に挑戦するが、実際にはあちらを立てるとこちらが立たず、両極にテスターをつないでローターを回すとどこかで導通する箇所があります。

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写真3. バリコン(7〜200pF)の軸受けを元に戻したところ

この状況でバリコンの修復をあきらめて、ネット検索でバリコンを探してみました。MFJ-259Bの回路図から7pF〜200pFの単連バリコン、それも。簡易な減速機能がある点に留意しました。

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写真4. バリコンを斜めから見る

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写真5. バリコンの軸受けを修正したところ

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写真6. バリコンの側面

ネットで見つける

東京・秋葉原のマイクロ・パワー研究所に「サンエス2連バリコン」がありました。7pF〜207pFと6pF〜36pFの2連バリコンですが、値段は3千円と予想より高い。「背に腹は代えられない」ので半ば買う気になりましたが、翌日には壊れたバリコンの修復に取り組み「ステーターとローターの隙間を保つ方法」をひたすら考えました。「何か方法があるに違いない。」バリコンの組み立て現場では特殊な冶具で「簡単に組み立てているに違いない。」そのようことを考えながら性懲りもなく両極の隙間を平均化することに夢中になっていると、ローターから軸からぽろっと外れてしまいました。

「厄を転じて福となす」

「バラバラになりお手上げか?」ここで閃きました。「羽根を平らにしよう」ラジオペンチで挟んで丁寧に歪みを修正して軸に戻しました。両極を重ねた状態(200pF)にして、バリコンの底面からローターがステーターと二つの面の間に段差が無くなるようにラジオペンチの先で強く押しつけてみました。これでステーターは軸の溝にしっかり挟まったので、軸を回転させるとスムーズでひっかかりがなく短絡の箇所も僅かになりました。後は精密ドライバーの先で微調整を繰り返して修復を終えました。しかしながら、ケースインすると僅かに短絡箇所が出てきます。さらに微調整を繰り返して使える状態になりましたが信頼性に難点が残りました。

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写真7. バリコンのローターとステーターの間隙をレンズの下で微調整中

「捨てる神あれば拾う神あり」

この頃、窮状を見かねた酒田市のSさんから「以前使っていたMFJ-259が故障し修理不能になっている物があります。バリコンだけで良いのでしたら外して送ります。」という、神さまからのお申し出あり、ありがたくお譲りいただくこととしました。しばらくしてバリコンにオリジナルのツマミが付いて郵送されてきました。さっそく修理したバリコンを基板から外してお譲りいただいたバリコンに取り替えて修理を完了しました。

解体と修復の難しさ

アルミ板を折り紙細工のように曲げて作ったケースに基板と二つのメーターを装着した設計は、アマチュアの工作名人が作ったような印象があり、内部の部品の取り出しについてもパズルを解くような難しさが伴いました。取り外すネジの数も多く、大小、長短のネジを区別しなくてはならず、元の位置に正確に納められるように記録するか、記憶しておかなければなりません。デジタルカメラで撮影しながら解体するのも一つの方法と思いますが、作業に夢中になり、元に戻したつもりでネジが余るという失敗もあります。

専用冶具で急場をしのぐ

ネジにスプリングワッシャーを嵌めてナットを回す、これは手の届く所なら何の問題もありませんが、このMFJ-259Bは至るところでピンセットが届かない箇所があるため、専用の冶具を作り急場をしのぎました。1.M型レセプタクルを止めるネジにナットが届かない。2.メイン基板の4隅を止めるネジにワッシャーの挿入ができない。そのため、精密ドライバーの先にワニ口クリップを付けて押しこむことにしました。

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写真8. 精密ドライバーにワニ口クリップを付けた専用冶具

あとがき

測定器を大切に扱う限り、ここに紹介した解体と修復の機会はまずないと思われますが、こうした場面に遭遇した時はアマチュア精神を発揮して修復に挑戦する価値は十分にあると思われます。そして技術情報やパーツの融通を含めて友達ネットワークを生かすのも有効な方法です。ただし、基板上の集積回路が壊れた場合は、そこまでの技術を持ち合わせていないため、修復に限界があると感じました。