D-STARゲートウェイサーバの製作

いよいよ、インターネットへの接続です。D-STARゲートウェイサーバはID-RP4000V等のD-STARレピータがD-STARトランシーバからの電波(デジタル信号)を受信し、それをID-RP2を経由してインターネット回線に流すための中継装置のことです。市販のパソコン(以下、PCと略)にLinuxというオペレーティングシステム(OS)をインストールして使います。JARLの管理サーバとも通信を行い、インターネットからの信号をレピータ装置に引き渡す働きもあります。

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D-STARレピータの構成図(※クリックすると画像が拡大します。)

用意する機材は、

1. MS-Windows7等が快適に動作する環境と同等の性能を有するパソコン1台

2. ネットワークカードは内蔵+追加1枚で二口のLAN環境が必要

3. インターネット回線はADSLの常時接続タイプを用意する

4. ルーターはクラスAが設定できるタイプを用意する

ゲートウェイコントロールソフトは非常に軽いアプリケーションなので、PCのスペックはあまり高性能でなくてもかまいませんが、いろいろな設定を行う時にキャラクターベースではLinuxに慣れていないと面食らいますので、Windowで操作できるグラフィックインターフェースを使いたいと思います。そのため、Linuxのデスクトップ上でWindowが快適に動作する仕様のPCを用意しました。具体的にはCore2Duo CPUに2GBのメモリ、80GBのHDD、DVDドライブ搭載のPCにLANカードを1枚追加しました。

(注):ここで言うWindowはMS(マイクロソフト)社のWindowsと異なり、Linuxのグラフィカルなデスクトップで視覚的にいろいろな操作ができることを指します。MS-Windowsはインストールしません。

ID-RP2とインターネットのルーターを接続するため2個のLAN接続端子が必要になります。内蔵または外部のネットワークカード(LANカード)によっては、Linuxでは動作しないものもありますので、そのあたりは「CENTOS6.4で動作するLANカード」をキーワードに、購入時に問い合わせておきます。OSはインターネットから無料でダウンロードできるCENTOS(セントオーエス)6.4を使用しました。ゲートウェイサーバとは別に、インターネットに接続したPCから、インストールのディスクイメージをダウンロードして、そのファイルをDVD-Rに焼きます。

Linux OSのインストール

CENTOSのダウンロードは次のサイトから行います。

http://www.centos.org/

Download: i386 | x86_64 のところからi386を選んでクリックし、ダウンロードサイトに移ります。i386が32ビット版、x86_64が64ビット版の登録サイトです。D-STARゲートウェイサーバでは32/64ビットのどちらでも動作しますが、特別な理由がない場合は32ビット版をお勧めします。

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CentOSのWebサイト(※クリックすると画像が拡大します。)

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CentOS Webサイト(※クリックすると画像が拡大します。)

ダウンロードしたファイルはディスクイメージのiso形式ですから、それをimgburm等のライティングソフトでDVD-Rに書き込んで使用します。isoファイルをそのままDVD-Rに書き込んでも使用できませんから注意してください。imgburmのサイトは以下の通りです。

http://www.imgburn.com/

製作したCENTOS インストールディスクは、D-STARゲートウェイサーバ用として用意したPCにCD-ROMから起動するようにBIOSを調整して、インストール作業を終わらせます。ほかにダウンロードしたisoファイルをUSBメモリにコピーしてインストールする方法もありますが、さらに上級者レベルですので、ここでの解説は省略します。

OSのインストールを経験された方なら容易な操作です。BIOSの起動オプションの項目でDVDドライブを最優先デバイスに設定して保存します。CENTOSのDVD-RをDVDドライブのトレイに入れて再起動しますと、自動的にインストール作業が始まります。CENTOSのインストールで気を付ける点はDesktopが使えるように環境を整えておきます。インストール作業中にいくつか設問がありますので、サーバ用途の設定は選ばないでください。DesktopでWindowが操作できるように設定するのがコツです。

LANカードの設定

ネットワークの設定では、デバイスの名前、IPアドレスは後述する「dsgwd.conf」ファイルの記述と合致させなくてはいけませんので、変更が可能ならばeth0、eth1の名称を使い、eth0の設定はルーターと通信できるIPアドレス(10.2.0.1)でネットマスクは24ビット(255.0.0.0)を、eth1の設定は172.16.0.1のID-RP2と通信できるIPアドレス(172.16.0.2)でネットマスクを8ビットで切っておきます(255.255.255.0)。重要なポイントですので表にしておきます。

eth010.2.0.1/255.0.0.0
eth1172.16.0.2/255.255.255.0

デフォルトゲートウェイはルーターのLAN側IPアドレス(10.0.1.21)を指定します。このIPアドレス(10.0.1.21)に特別な意味はありませんので、わかりやすいアドレスを指定すればOKです。ネットワーク全体の取り決めは、「dsgwd.conf」ファイルの記述と合致していれば動作します。ここまでの設定ができたら、ゲートウェイコントロールソフトをインストールする前に、インターネットに接続できることを確認します。

モデムの設定

ADSL回線を契約するとモデムとその設定内容を記載した重要な書類が届きます。説明書に従ってモデムを設定し、次にルーターを設定します。これらの設定にはノートパソコンを使用しました。NTT NV3モデムの設定と、I/OデータETG-Rの設定は画像で紹介します。

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インターネット・プロトコル

NTT NV3モデム設定の勘所 その1〜その4 (PDF)

それぞれの機器が接続され、ETG-RのLANポートとCENTOS サーバのeth0を結ぶと、CENTOSのDesktopからインターネットが閲覧できるようになりますので、そこまで作業を進めます。インターネットに接続できない場合は、その問題を解決しておきます。

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設置前実験中(※クリックすると画像が拡大します。)

ETG-Rルーター設定の勘所 その1〜その2 (PDF)

今回使用したI/OデータETG-Rルーターは生産が終了していますので、これから入手する場合は、「クラスAが設定できる」ルーターを指定して購入します。クラスAというのは、10.XXX.XXX.XXX(XXXは0から255までの数字)のIPアドレスを取り扱えることを意味します。IPアドレスひとつずつが機器の数を示しますから256の3乗の数になります。一般的にはルーターの下位にはたくさんの機器を接続しないので、通常24ビットのネットマスク、すなわち255.255.255.0を指定しますが、255.0.0.0のネットマスクが指定できるというのが条件になります。

ゲートウェイコントロールソフトのインストール

ネット接続環境が整ったら、本題のゲートウェイコントロールソフトをインストールします。一つだけ確認しておきたいのは、CENTOSマシンからID-RP2までPingが通ることを確認しておきます。モニター画面を開いて、コマンドプロンプトからping 172.16.0.1 とタイプしてエンターキーを押します。反応があればOKです。もし反応が無い場合は、ゲートウェイサーバとID-RP2間で通信できていないので、これを解決しておきます。

ここまでの作業で、ゲートウェイサーバのDesktop画面からインターネットサイトが閲覧できるようになります。もし閲覧できない時は、D-STARサーバとして動作しないことになります。ゲートウェイコントロールソフトはRS-RP2C APPLICATION DISK CD-284901-004と書かれたCD-Rで提供されます。このCD-RをCENTOSサーバのDVDドライブのトレイに装着してしばらくすると、新しく画面が開きます。その中にファイルを展開すると、/dstarディレクトリが作成され、/dstar/confに先ほど書いた「dsgwd.conf」ファイルができているので、それを/etcにコピーします。

/etc/dsgwd.confを開き、パラメータを現状のD-STARレピータの設定に合わせます。書き換える項目はZR_CALLSIGN=RPT1000 はZR_CALLSIGN=JR1VM のように直します。これが上手く行きgsdwdを起動すると、ゲートウェイコントロールソフトが起動します。psコマンドで動作確認ができたら、山掛けQSOに使ったID-31から相手先を「ならやまレピータ」に設定変更して、ゲートウェイが働くことを確認します。これでD-STARレピータのインターネット接続が完成したことになります。動作が確認できてから、マニュアルに記載されている通り、不要なアプリケーションを削除します。また停電時に電源が復旧したらD-STARゲートウェイも自動で立ち上がるような設定に直して本格運用に移行します。

あとがき

8月24日(土)、25日(日)の2日間、東京ビッグサイト西2ホールで開催された「ハムフェア2013」のアイコム・ブースにて、D-STARの新しい試みをデモンストレーションしていましたので、ここに紹介しておきます。それはID-51にBluetoothを介してAndroid端末を接続して、撮影した写真をDVモードで通話しながらIC-7100に転送するというものでした。

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アイコム・ブースにてデモンストレーション

デモの概要は次のようなものでした。

1.スマートフォンで写真を撮影 2.写真をBluetoothでID-51に転送 3.DVモードで写真を転送 4.IC-7100で写真を受信 5.パソコンに写真を表示

Android端末対応のD-STARアプリは地図上にレピータを表示することができ、表示された局をタップして相手局に設定することができる機能は、D-STARの魅力を一層引き立てる直感的な使いやすさを感じました。これらは参考出品ということでしたが、Android OSまたはiOSのスマートデバイス専用ソフトウェアの公開とBluetooth端末の商品化を期待したいと思います。