2月2日、アイコム東京事業所(東京中央区日本橋浜町3-42-3 住友不動産浜町ビル)で開催された「アイコム アマチュア無線フェスティバルin 東京」(以下、ハムフェスと略)に参加しましたので、その印象をレポートしたいと思います。同所の6階にある「東京ショールーム」への道順に不安はありません。都営地下鉄新宿線の浜町駅で下車、A2番出口から新大橋通りを約5分歩いて住友不動産浜町ビルに到着しました。玄関に入ってエスカレータで2階へ行くと、制服姿の女性社員に迎えられてエレベーター乗り場に誘導されました。

7階の会場へ到着したのは午前11時頃、受付で抽選番号入りのアンケート用紙を受け取り入場しました。入場は無料、予約も事前の申し込みも不要というおおらかさに、大勢が押しかけたらどうなるのだろう?余計なことを考えながら会場に入ると、すでに談笑の輪ができていました。会場を見渡すとかなり広く(約130平方メートル)、200人〜300人が入りそうな感じでした。会場の奥が講演会場で手前が展示スペースになっていました。

新型機のID-5100

1月30日、アイコムの「メールニュースBEACON」Vol.183で新製品「ID-5100」が発表されました。そして2月2日、ハムフェス会場で「ID-5100」が見られる幸運に恵まれました。壁際に沿ってテーブルを並べただけの簡素な展示コーナーにiUSE HFサポートコーナー、D-STARなんでも相談コーナー、そして144/430MHzデュアルバンド デジタルトランシーバーID-5100の実働展示に人だかりができていました。

photo

新製品のID-5100

昨年の「ハムフェア2013」では、IC-7100に試作品のDATA端末(Bluetooth)をつないでスマートホン(以下スマホ)からのコントロールに注目が集まりました。同様にID-51とDATA端末(Bluetooth)をつないでスマホで撮影した写真をDVモードで通話しながら転送して、IC-7100で受信する実演が大いに注目されました。当時の操作を思い出してみると、次のようなものでした。

1.スマートフォンで写真を撮影→ 2.写真をBluetoothでID-51に転送→ 3.DVモードで写真を転送→ 4.IC-7100で写真を受信→ 5.パソコンに写真を表示

試作品のBluetoothユニットが、今回は製品版UT-133(Android)としてデビューしました。スタッフにお願いして ID-5100をスマホで操作していただきました。

レピータを地図上に表示し、タップすることでレピータを設定することができます。アナログレピータの最寄りのレピータ検索機能など、タッチパネルの多様化された操作性が魅力的です。DVモードで通話しながらスマホのカメラで撮った写真やテキスト(20字以内)を伝送できるほか、DV(デジタルボイス)-DVの2波同時待ち受け受信、表示が見やすい大型液晶ディスプレイ、大容量のデータ保存に対応するSDカードスロットなど、革新的な機能を満載した新しいトランシーバーの登場です。

photo

BluetoothでID-5100に接続したスマートフォン

待ちきれないファンがスタッフに矢継ぎ早に質問を浴びせていました。

「スマホのソフトウエアはどこからダウンロードしますか?」

「Google Playからダウンロードして頂けます。」

「価格はいくらですか?」

「ソフトウエアは無料です。」

「BluetoothユニットのUT-133の値段はいくらですか。」

「未定です」

スマホによるコントロールに関心が高いと見受けました。

ほかに実戦力を高めた新機能追加モデルの高級HFトランシーバーIC-7800、D-STARなんでも相談コーナーにIC-9100を展示しており人気を集めていました。

photo

実戦力を高めた高級HFトランシーバーIC-7700新機能追加モデル

アイボールQSO

講演会場を覗くと、下野氏(スーパーテクノ)による「ならやま研究所のビッグタワー」が始まっていて、すでに後半に差し掛かっていました。海外での納入先と実績をスライドで紹介し「60mのビッグタワーを企画中です。どなたか注文してください。」と笑いを誘い11時40分に終了しました。ここから次の講演までが休憩時間です。顔見知りの編集者K氏から「今年のデイトンハムベンションに行きますか?」と声を掛けられました。通算で5、6回は出かけているので「さぁ、どうしましょうね、今年はたぶん行かないでしょう。」それではそっけないので「去年はCN8のモロッコを旅しました」と返し雑談を交わしました。ほかにJA1HGY、JE1CKA、JE1JKL、JH1CZY、JE1UCI、JA3FA、JS3CTQ、JF1TEU、JA1CVF、JF1GUQの方々と挨拶を交わしました。

「トップコンテスターが語るSO2Rの実際」

椅子席は満席、立ち見を入れた聴衆は200人くらい。12時直前に会場の前列に着席して講演が始まるのを待ちました。午後一番は稲葉浩之氏(JS3CTQ)の講演です。内外のDXコンテストの紹介から始まりました。CQ WPXコンテスト、ジャパンインターナショナルDXコンテスト、オールアジアDXコンテスト、CQワールドワイドDXコンテストなど。そして、シングルオペレーター部門、マルチバンド部門に的を絞って効率よく得点を挙げる方法について講演が進みました。

CQ送出中はスタンバイまで待っている⇒CQ送出中の時間を他のバンドの受信に使う⇒1人で2台の無線機を同時に使う(SO2R)※、またハード面の充実(無線機器、周辺機器、アンテナ)、ソフト面の充実(パソコン、ロギングソフト、インターネット)、運用技術の充実(交信技術、各種判断、時間の有効活用)が求められる。SO2Rの実例として、HF機(IC-7600)+V/UHF機(IC-911)あるいはHF機+HF機の構成を挙げていました。

※SO2RはSingle Operator 2 Radioの略称。

photo

稲葉浩之氏(JS3CTQ)

photo

SO2Rの例 IC-7000S+ID-880

photo

SO2Rの例 IC-7600+IC-7600

SO2Rの効果について、CQWWCW2013のログでSO2Rの効果を試算すると、

2013年CQWWDX-CWコンテスト(JS3CTQ)

合計3,628 QSO(Dupe含む)

・メイン機(1.9〜28MHz)で3,499 QSO(96.4%)

・サブ機(1.9MHz〜28MHz)で129 QSO(3.6%)

スコアの面から

・メイン機(1.9〜28MHz)+サブ機(1.9〜28MHz)

3,628 QSO(Dupe含む)

9,741pts×(529c+194z)=7,042,743pts

・メイン機(1.9〜28MHz)のみ

3,628 QSO(Dupe含む)

9,428pts×(456c+171z)=5,911,356pts

サブ機の使用でスコアが19.1%向上した。

7,042,743ptsは日本で誰も出したことのない得点であり、SO2Rの成果と考える。

クレームドスコア※での暫定順位(Single operator All band High power Assisted)

・7,042,743ptsなら世界22位(1074局中)

・5,911,356ptsだと世界32位(1074局中)

※クレームドスコア(Claimed Score):「申請済得点」(筆者和訳)

この後、SO2Rの構成例、マイク、キー、ヘッドホン切替器、マルチバンドBPFがあればベター。SO3Rとして3台目にワイドバンドレシーバー(SDR)を使う等々、興味深い講演が続き、12時40分に終了しました。

photo

稲葉浩之氏(JS3CTQ)のシャック(スライドから)

トークショー「アイコム50年」

14時から井上徳造氏(JA3FA)と桜井紀佳氏(JA3FMP)によるトークショーが始まりました。スライドを映しながら桜井氏「最初のアマチュア無線機としてFDAM-1を送り出したが、さらに元祖の無線機がありまして完成品の他にキットも売りました。」「このほかにGD-2ディップメーターを売りました。」と口火を切りました。

井上氏「アイコムは創業から50年経ちましたが、桜井君は始めから一緒に苦労して頂きました。」「始めは無線機の製造を考えていませんでした。」「ところが、キットを組み立てたがうまく働かないと、修理の依頼がありましたので、これを作れば売れるのではないか思いました。」

photo

「アイコムの50年」から

桜井氏「次に作ったのが50メガのFMのトランシーバーFDFM-1とFM-10とFM-100というブースターを発売しました。」

井上氏「その頃のFMは51MHzでJMHCが全国的に広がりを見せていました。タクシー無線機のジャンクを51MHzに改造して使い始めましたが、水晶制御ですから1chか2chで始まりました。そのうちに2メーターバンドが144.48MHzで始まりましたが、これも初めは1chか2chでした。しかし、FMの運用者がだんだん増えてきて、そこから苦難の連続になりました。」「当時はチャンネルごとに送信と受信の2個の水晶振動子が必要でしたから地域毎に異なるch分を用意しなければならない、販売店が悲鳴を上げて、なんとかしなくてはいけないということでシンセサイザーを開発するようになりました。」

photo

左から桜井紀佳氏(JA3FMP) 、井上徳造氏(JA3FA)

photo

アイコムの第一号FDAM-1

桜井氏「車載専用機のFDFM-25(A,B,C,D)を譲ってください。実はこのキカイだけはアイコムにないのです。新しい機種と交換します。AとBが50MHz帯、CとDが144MHz帯です。」「これが幻のHF機TRS-80です。これは販売していません。これと似たマスクのTRA-60という50MHzの無線機は販売しました。」

井上氏「この頃は社員が20人くらいになりました。営業や部品の買い付けもありましたから開発は4〜5人でした。そうするとチームは一つしかできませんから50メガと2メーターの無線機に取り掛かっているとHFバンドまで手が回らないのです。みなやっていると共倒れになってしまいます。しばらくお蔵に入れる、そのうちに再開するので辛抱してくれと言ったら担当者は涙を流していました。結局2年ほどお蔵入りしました。」

photo

FDAM-1とそのキット並びにディップメーターGD-2

photo

車載専用機FDFM-25(A,B,C,D)

photo

幻のHF機TRS-80

桜井氏「その後に作ったのがIC-700R/TとリニアアンプのIC2Kでした。この時、初めて受信機のトップにFETを使った思い出があります。」

井上氏「1970年の万博に合わせて開発したIC-70は、東芝がIC-70というラジオを発売したため、急遽、型番を1番繰り上げてIC-71に変更した。」というエピソードが紹介されました。この後、最初のシンセサイザー機のIC-200、IC-21+DV21、そして最大の販売を記録したIC-2N、IC-3Nハンディ機の誕生話が披露され、14時40分に講演を終えました。

昭和39年(1964)株式会社井上電機製作所を設立、このほど50周年を迎えました。創業者の井上徳造氏(83歳)は代表取締役会長、桜井氏は同社特別顧問です。

photo

アイコム創業者 井上徳造氏(JA3FA)

あとがき

どの講演も興味深く濃密なひと時を過ごしました。中でも井上徳造氏と桜井氏のお二方によるトークショーは秀逸で、めったに聞く機会のない開発余話に聴き入りました。また、本文では触れませんでしたが、東京ショールームの公開、車両展示(Hammer×HF/Lotus×ASF351)、コメット(株)、スーパーテクノ(株)、第一電波工業(株) の展示コーナーがありました。講演会場では、15時からID-31などが当たる「お楽しみ抽選会」が始まり熱気に包まれ15時30分に終了、参加者全員にお土産の4GBフラッシュメモリが渡されて16時に閉会しました。

参考資料:「トップコンテスターが語るSO2Rの実際」稲葉浩之氏(JS3CTQ)の講演、並びにトークショー「アイコム50年」桜井紀佳氏(JA3FMP) 、井上徳造氏(JA3FA)