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No.165 「コモンモードフィルタの試作」
海外在住の友人とコモンモードフィルタについてメールで次のようなやり取りをしました。
『山中湖のキロワット局※にお伺いしたときに拝見したのですが、キロワット用のコモンモードフィルタをお使いでしたね。どこの会社のなんと言う製品でしょうかお教えください。一個求めようと思っています。』
※山梨県南都留郡山中湖村の山荘に開設した無線設備共用1kW局(個人7局とJA1ZNG)。
『使っているのはRFインクワイアリー社のCF5KVXです。それとは別に手作りのコモンモードフィルタを用意しますので使ってみませんか。』
『インターネットでDIAMOND ANTENNAのCMF2000やRF Inquiry社のCF5KVXを見つけました。いずれかを大阪のハムショップで調達しようと思います。』
『添付の写真は試作したコモンモードフィルタです。フェライトコア#43材とT-20-06を使ってコモンモードフィルタの試作を始めました。極細の両端SMAコネクタ付きRG-316同軸ケーブルをコアに巻いてみました。ケーブルの絶縁体はテフロン材なので1kWの電力に耐えられると考えられます。特性を測った上で手渡したいと思います。』
試作したコモンモードフィルタ T-20-06(左)とFT-240#43
部品集め
秋葉原でコモンモードフィルタの部品を調達しました。始めに東京ラジオデパートの「斉藤電気商会」に寄りましたがあいにく定休日でシャッターが閉まっていました。次に「秋月電子通商」へ回り両端SMAケーブルRG-316(1.5m)を700円で買いました。コネクタ付同軸ケーブルSMA(P)⇔SMA(P)、RG-316/Uの規格は 絶縁体:テフロン(PTFE)、長さ:約1.5m、インピーダンス50Ω、電線径:約2.5mmです。
両端SMAケーブルRG-316(1.5m)と変換コネクタSMA-P⇔J、SMA-J⇔M-P
極細のケーブルはトロイダルコアに巻きやすく、1kW程度の電力に耐えてくれそうです。極端に定在波が立たない限り問題が起こらないと考えます。RG-316/U同軸ケーブルは10m以上で1mあたり648円です。ついでに変換コネクタSMA-P⇔J(300円)、SMA-J⇔M-P(300円)を追加購入しました。
続いて「マルツパーツ館」でトロイダルコアT-20-02(1,165円)とT-20-06(2,250円)を購入しました。T-20-02(アミドン)は外形寸法:50.8mm・内径寸法:31.8mm・高さ寸法:14mm・周波数範囲:500kHz〜10MHz・識別色:赤です。T-20-06(アミドン)の外形寸法:50.8mm・内径寸法:31.8mm、高さ寸法:14mm・周波数範囲:10MHz〜30MHz・識別色:黄。
次いで「富士無線電機」にて外径:約61mm・周波数範囲:10MHz〜200MHzのFT-240#43(1,700円)を購入しました。そしてN型コネクタ N-Jメス パネル用 4穴(200円) 2個、TOYOスチール製トランク型工具箱(1,240円)をamazonから購入しました。
上段の左から2個は仕様不明コア、その隣はFT-240#43、下段左からT-20-06、T-20-02
部品集めとスペアナによる測定
コモンモードフィルタの特性を測るためにスペクトラムアナライザー(Takeda Riken TR4133A)と自作スイーパー(0〜100MHz)を友人から拝借しました。始めにトロイダルコアFT-240#43(黒)に同軸ケーブルRG-316/Uを5ターン、T-20-06(黄)に5ターン巻いた時の特性を示します。5MHz〜20MHz/-25dBの減衰が観測されますが、30MHz辺りにピーク(-16dB)が出て改善が必要です。
そこで同軸ケーブルの巻き数を増やしてみました。1.5m長のケーブルを全部巻き込むと巻数がそれぞれ12ターンになりました。この時の特性を写真に示します。3.5MHz/-30dB、7MHz/-33dB、10MHz/-35dB、14.2MHz・21.3MHz・28.4MHz/-35dB〜-33dBに収まっています。因みに50MHzは-20dBでした。
T-20-06(左)とFT-240#43にRG-316(1.5m)を12回ずつ巻いた
RADIO WORKS社のLINE ISOLATOR T4Gの特性-40dBに近づけたいところですが、今回は試作ということもあり、この辺りの性能で満足することにしました。インターネット上には先達によるコモンモードフィルタの製作と各種の分析データが多数公開されているので参考になります。次に友人が作った分割リングコア(パッチンコア)を同軸ケーブルに30個挿入した時の特性を示します。パッチンコアは100個500円位で買ったジャンクにつき仕様は不明です。
Takeda RikenのTR4133Aと自作スイーパー(左)
T-20-06とFT-240#43にRG-316(1.5m)を5回ずつ巻いた時の特性
T-20-06とFT-240#43にRG-316(1.5m)を12回ずつ巻いた時の特性
分割リングコア(パッチンコア)30個を同軸ケーブルに挿入した時の特性
あると便利なもの
2分割のフェライトコアをワンターンループのRFクランプに利用して、RF成分を測定できる「RFカーレントプローブ」があると有効です。フェライトコアの持つ「磁束が漏れにくい特性」を生かして外部の影響を受けない純粋なデータを得られます。コモンモードフィルタに取り付ける前と取り付けた後の数値の違いが定量的に効果を見ることができます。また、電波暗室に見立てた測定箱(工具箱)の中に入れて測定してみましたが、漏洩磁束が無いのがトロイダルコアの特徴ですから、シールドが不要ではないかと思うようになりました。
測定治具として用意したスチール製の工具箱
ここで米国Radio Works社のラインアイソレーター(コモンモードフィルター)の透視写真を紹介しておきます。内部をX線で透視した珍しい写真です。
T4GのX線透視画像と周波数特性。1目盛が10dB、-40dB弱の減衰を誇る。
おわりに
試作したコモンモードフィルタを無線設備共用局(JA1ZNG)に持ち込み、1kWの電力に耐えるかどうかを試してみました。ここの設備は通常IC-7600-リニアアンプ(1kW)-コモンモードフィルタ(CF5KVX)-ローパスフィルタ(LP3K)-同軸ケーブル-アンテナの構成で使います。テストではCF5KVXを外して、試作コモンモードフィルタに差し替えてCWモードで10分ほど運用しました。試作のコモンモードフィルタが1kW(CW)の電力に耐えてくれたのを確認してテストを終了しました。
試作コモンモードフィルタに1kW(CW)の電力を通しているところ。
コモンモードフィルタを被覆する幅広のヒシチューブが手に入り難いので、友人に相談すると、物干し竿を被覆するチューブが代用品になると教えてくれました。ドライヤーの熱風を当てると縮むので二つのフェライトコアが固定出来て見た目もよくなります。
参考資料:
QST(1999年2月号p.34)「An RF Current Probe for Amateur Use」N5SV Steve L. Sparks
「電波障害の完全対策」「RFカーレントプローブの作り方」(JF1GUQ) www.qtc-japan.net
「コモンモードフィルタ」TDK テクノマガジン http://www.tdk.co.jp/techmag/emc/200412/