友人たちとの雑談の中で「富士山を仰ぐ高原のリゾート地、山中湖にD-STARレピータがあると良いな」というアイデアが開設の発端となりました。山中湖村の立地から世界文化遺産の富士山登山道をカバーすることが見込めたこと、レピータの開設場所(山荘)が用意できたこと、インターネットの常時接続環境が整っていたこと、JR1VM D-STARレピータの運用経験が活かせることなどから、10ヵ月後の2014年4月26日、JP1YLH管理団体が山梨県南都留郡山中湖村(標高1,000m)の山荘にD-STARレピータ局「山中湖430」、周波数434.10MHz(uplink/downlink逆転)の開設にこぎ着けました。

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山中湖から富士山を望む

D-STARレピータ「山中湖430」の開設に伴い、山梨県側から登頂する内外のアマチュア局によるアクセスが広がるものと期待されています。軽くて小さなID-31をバックパックに忍ばせて登山することにより、日本一高い富士山から無線交信が可能となります。次に山中湖周辺と富士山のアクセス可能な範囲を地図上に示しましたので参考にしてください。富士山は2013年6月22日、関連する文化財群とともに「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の名でユネスコの世界文化遺産に登録されたのはご存じのとおりです。

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「山中湖430」レピータのカバー範囲を示す地図 (※クリックすると画像が拡大します。)

D-STARゲートウェイサーバの製作

4月25日夜、山梨県南都留郡山中湖村の山荘に集まったJP1YLH管理団体のメンバー5人は、東京・日本橋からD-STARレピータ装置を運びこんだ後、複雑な設定に当たり翌日の開通に備えました。これらについてはOnlineとーきんぐ No.155 「D-STARレピータ建設、顛末記」その1、同 No.157 「D-STARレピータサーバ建設、顛末記」その2 で詳しく述べました。 JP1YLH D-STARレピータの構成図を示します。

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「山中湖430」レピータの構成図 (※クリックすると画像が拡大します。)

翌26日、早朝からレピータの430MHz帯グラウンドプレーンアンテナを2階屋根の軒先に取り付ける作業から始め、別班は同軸ケーブル(8D-FB)10mを室内に引き込むために、外壁の穴開け工事に取り掛かりました。外壁と内壁の位置合わせを慎重に進めました。ここをいい加減にすると穴開けの位置がずれて大変なことになります。穴が貫通すると同径の塩化ビニル管を通して接着剤で固定した上で、同軸8D-FBを通して防水処理を行いました。

次に部屋の一隅にある物置(小部屋)の整理に取り掛かりました。普段は使わない椅子や照明器具、消耗品などを収納してありますが、独立した小部屋になっているところから、ここにレピータ装置一式を収容することにしました。併せて電気工事士の資格を持つメンバーにより、AC電源コンセントの増設が進められました。ここにはICOM D-STARレピータ装置、直流安定化電源装置、中古のパソコンとディスプレイ、LANルーターなどを設置しました。

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「山中湖430」レピータのグラウンドプレーンアンテナ

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「山中湖430」レピータのHPパソコンCentOS6.4/32ビット

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「山中湖430」のレピータ装置と免許状

中でもLANカードの設定、モデムの設定は午後も続き、ようやく夕刻からID-31、ID-92を使って山掛通信、ゲートウェイ通信の試験通信に取り掛かりました。この時、試験通話のつもりが「山中湖430」の声を聴きつけた関西方面の多くの局からコールをいただきました。JP1YLH管理団体のメンバーが手分けして交信に当たり、呼び出しが途切れることなくうれしい悲鳴を上げました。コールくださった方々にお礼を申し上げます。因みに「山中湖430」は山梨県では甲府市伊勢のJP1YKVに次ぐ2番目の開局となりました。

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2台のノートPCを使いLANカードとモデムの設定を行いました。

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山中湖の湖畔でID-31で「山中湖430」にアクセス(JF1GUQ)

周波数434.10MHz

「山中湖430」は「日本橋小網町430」と同じ周波数を使用しています。管理団体は代表者(JA1FUY)、緊急時の連絡者(JH1VVW)、遠隔操作局(JF1GUQ)、構成員名簿も同一です。そして東京都中央区日本橋小網町と山梨県南都留郡山中湖村の二つのレピータの周波数が同じです。これも構成員のアイデアから出たもので、周波数有効活用の趣旨に基づいて同じ周波数をJARLに要望しました。ダブルアクセスに伴うトラブル回避は異なる管理団体の間では解決が困難と承っています。笑い話としてはJP1YLH開局時にD-STARトランシーバに新しいコールサインを登録しないで、JR1VMのまま運用しようとして苦労してしまいました。これはID-31の中継局のコールサインを書き換えることで解決しました。

「山中湖430」のカバー範囲

開設から1か月が経過した5月24日、アクセス範囲の調査を兼ねて管理団体の構成員数人がスカイライン250GTに同乗して富士スバルラインをドライブしました。残念ながら7月10日(木)17時〜8月31日(日)17時まで連続53日間、マイカー規制が始まりますのでご注意ください。マイカー規制の対象とならない車両はバス(乗車定員11人以上のマイクロバスを含む)、ハイヤー、タクシー、軽車両(原動機付きは規制の対象)、指定車、許可車、身体障害者乗車車両(身障者手帳又は療育手帳を所持。)です。山中湖村を出発して、国道138号線富士急ハイランド辺りで左折、富士山有料道路料金所で往復2,160円を払い富士スバルラインに入りました。行き先はもちろん5合目の駐車場です。本格的なシーズンを前にして交通量が少ない感じです。それでも観光バスが何台も走行しており、さらに自転車で登頂するサイクリストが目につきました。

ID-31によるアクセスを試みながらの走行です。富士スバルラインのほとんどは山中湖方向に対しては富士山の陰を走行するため5合目の駐車場手前まではほぼアクセスできません。10Wのモービル局で場所を選ぶとアクセスできる箇所を見つけられるかもしれませんが、今回はそこまでの調査はしておりません、5合目の駐車場に到着したので場所を変えてID-31のPTTを押してみるとアクセスが可能でした。

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富士スバルラインをドライブしながら助手席からアクセス調査

駐車場は5合目から少し下った辺りの窪地にあり、山中湖方面に土手が邪魔している感じですが、運用場所を変えることでアクセスが可能でした。そこから富士山五合目簡易郵便局がある高い場所に移動すると、全く問題なく「山中湖430」にアクセスできました。近くの937(承平7)年の創建の「小御岳神社」(標高2,340m)の展望台に上ってみました。眼下にクジラの形をした山中湖が俯瞰できるロケーションにあり、当然、見通し距離にありますから「山中湖430」はフルスケールで受信できました。いろいろな意味で登山がいっそう楽しくなる小型軽量のID-31の携帯を強くお勧めします。

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富士山五合目の広場で「ならやまARC(自動)」にアクセスしたID-31 (※クリックすると画像が拡大します。)

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「小御岳神社」(標高2340m)の展望台から山中湖を望む

あとがき

観光リゾートの「山中湖」にD-STARレピータの開設を思い立ってから約10ヵ月が経過しました。関係各方面のご理解をいただいて雪どけと共にJP1YLHの開局にこぎ着けることができました。開設場所を提供くださった山荘のオーナーに感謝すると共に、世界文化遺産登録に湧く富士山登頂を目指す多くのアマチュアに利用されることを管理団体一同願っております。