最近、CDの3倍超の情報量がある新規格「ハイレゾリューション(ハイレゾ)音源」の登場が話題になっています。「Onlineとーきんぐ」No.146 「USB DAC付デジタルパワーアンプ入門」でもハイレゾ・オーディオブームの先駆けとして、さわりを紹介しました。古くから一部の"耳の良い"オーディオ愛好家がレコードからCDになって「音が悪くなった」という考えを表明していましたが、少数意見のため大きな声にならずにそのままになっていたところに、近年のパソコン(PC)の発達で手軽にCDを超える規格の音源が作成できるようになり、「やっぱりCDは音が悪かったではないか」、「もっと原音に近い音源が欲しい」と、「ハイレゾ・オーディオ」を求める機運が高まりました。

ハイレゾ・オーディオとは?

「ハイレゾ・オーディオ」の仕様は様々で、CDの規格であるサンプリング周波数と量子化bit数が44.1kHz/16bitを超えたものを指しますが、どちらか一方でも仕様を超えないものはハイレゾ・オーディオとはみなされない決まりになっています。

電子情報技術産業協会(JEITA)の規定(2014年6月26日)によると、

48kHz/24bit →(CD スペック同等/CD スペック超)→ ハイレゾ・オーディオ

96kHz/16bit →(CD スペック超/CD スペック同等)→ ハイレゾ・オーディオ

96kHz/24bit →(CD スペック超/CD スペック超) → ハイレゾ・オーディオ

48kHz/16bit →(CD スペック同等/CD スペック同等)→ 非該当

96kHz/12bit →(CD スペック超/CD スペック未満)→ 非該当

32kHz/24bit →(CD スペック未満/CD スペック超)→ 非該当

また、米国家電協会(CEA)やデジタル・エンターテイメント・グループ(DEG)、The Recording Academy、Sony Music EntertainmentやUniversal Music、Warner Musicは、「CD以上の音質で録音されたマスターから作成するロスレス・オーディオ」をハイレゾ・オーディオと規定しています。JEITAの規格と少し異なりますが、同程度の高音質規格で最上級の「MQ-P」は48kHz/20bit以上(96kHz/24bitなど)のPCMマスターをソースとするという規定です。

※データの欠損を伴わない圧縮のこと。

デジタル・オーディオの記録媒体はCDからDVDになり、Blu-Rayへと発展してきました。DVDの時代にもDVDオーディオという規格がありましたが、一般化しませんでしたので、ここで言う分類ではハイレゾ・オーディオに該当しないようです。

ハイレゾ対応機器

ハイレゾ・オーディオ対応機器については、日本オーディオ協会が定義を発表しています。

【アナログ系】

(1)録音マイクの高域周波数性能:40kHz以上が可能であること。

(2)アンプ高域再生性能:40kHz以上が可能であること。

(3)スピーカー・ヘッドフォン高域再生性能:40kHz以上が可能であること。

【デジタル系】

(1)録音フォーマット:FLAC か WAVの96kHz/24bit以上が可能であること。

(2)入出力インターフェイス:96kHz/24bit以上が可能であること。

(3)ファイル再生:FLAC/WAVの96kHz/24bitに対応可能であること。

(自己録再機はFLAC、またはWAVのどちらかのみで可とする)

(4)信号処理は96kHz/24bit以上の信号処理性能が可能であること。

(5)デジタル・アナログ変換は96kHz/24bit以上が可能であること。

(6)生産もしくは販売責任において聴感評価が確実に行なわれていること。各社の評価基準に基づき、聴感評価を行ないハイレゾに相応しい商品と最終判断されていること

日本オーディオ協会は高域周波数性能の40kHz以上に固執していて、厳しい規格になっています。これらに合致したもののみが「ハイレゾ・オーディオ」と認められロゴの使用が認められていますので、「ハイレゾ・オーディオ」を簡単に見分けるには、ロゴの有無を確認すればよいことになります。

サンプリング周波数:その周波数の約半分の周波数が高域再生性能の上限となるため、40kHzを再生するには80kHz以上のサンプリング周波数が必要になります。JEITAが定めるハイレゾ・オーディオの内、48kHz/24bitでは高域再生性能が24kHzとなり、日本オーディオ協会の「ハイレゾ・オーディオ」の規格を満足していません。

耳の感度を確認する

量子化bit数の多さはきめの細かさを指しますから老化による耳の性能劣化よりも感性の鋭さが優劣を分けるでしょう。サンプリング周波数は日本オーディオ協会の定義にもあるように高域再生性能の40kHz以上に絡んでくる規格ですから、自分の耳がその周波数を感じることができることが必要になります。次にスマホのアプリに「高周波発生機 Pro」というソフト見つけました。androidアプリストアから購入できます。

高周波と書かれていますが、オーディオ・ジェネレータです。これで健康診断の検査のように、どの音域まで聞こえるかを調べることができます。5Hzから52kHzまで発生させることができますからハイレゾ・オーディオの40kHzを再生させてみて耳の感度を知ることができます。また、スマホのオーディオ出力を音源として、スピーカーやアンプの再生能力を試すマーカーとしても利用できます。カタログでは24kHzまでしか再生能力がないとされていたヘッドフォンが、40kHzまで聞こえたこともありました。

ジャンクを活用

TOPPING社の デジタルアンプ + DAC + ヘッドホン・アンプD2が運よく半額で手に入りましたので、これを中心にハイレゾ・オーディオ(もどき)をまとめてみました。TOPPING D2は最大サンプリング周波数、96 kHz/16bit 24bitですからこの部分についてはハイレゾ・オーディオの規格をクリアしています。ただし、周波数特性が最高20kHzなので、残念ながら日本オーディオ協会の「ハイレゾ・オーディオ」とは認められません。

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PCオーディオ 左からスピーカー、DelノートPC、オーディオアンプ(下)とUSB DAC(上)

これから機器を購入してハイレゾ・オーディオ環境を作り上げますが、まずは簡単に手持ちの装置+ジャンクで構成してみることにしました。

USB-DAC=TOPPING D2(7,000円)

PC=Dell Vostro 1520(3,000円)

オーディオアンプ=KENWOOD R-SE7(1,000円)

ワイヤレス・ヘッドフォン= Panasonic RP-WH7000T(1,680円)

スピーカー=SONYミニオーディオの付属SP(手持ち)

それなりのシステム

この構成ではハイレゾ・オーディオを再生することができませんが、PCオーディオ※の入門用としては1万円でそれなりのシステムを作ることができました。装置の購入について少し事情を明かしますと、TOPPING D2 USB-DACはリサイクルショップで見つけ、このシステムを作る切っ掛けになりました。また、同型機が通販サイトから約16,000円で購入できることも確認してあります。

※PC(パソコン)を記録媒体としたデジタル・オーディオの一種。

PCはネットがつながりWindows7が動けば適当なものでかまいませんが、後述するBlu-Ray Audioまで再現するのならば、Blu-Rayドライブの搭載が必要になります。オーディオアンプはリサイクルショップの訳あり品(動作確認していない)のコーナーで入手しました。埃を払って通電すると、そのままで動作しました。

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ワイヤレス・ヘッドフォン

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充電電池の外皮を少しカット

さらにワイヤレス・ヘッドフォンは充電不可のジャンク扱いでしたが、100円均一ショップで購入した充電電池の外皮を少しカットして充電電池検出用接点に接触させると、みごとに復活しました。カタログでは再生周波数が24kHzということで、ハイレゾ・オーディオの規格からは外れているのが残念です。

ハイレゾ音源を購入

日本オーディオ協会の「40kHzの再生」はクリアしていませんが、この構成でハイレゾ音源をインターネットからダウンロードして試聴してみました。比較のため同じ音源のMP3版も購入しました。ハイレゾ版のFLACが1曲500円に対し、MP3版は130円でした。

人により感想は異なると思いますが、MP3に比べてFLACはなにか大人しい感じがします。MP3では少し派手になるように手を加えているようです。そのほうが「音が良い」と感じるからだと思われます。

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ジャンクを活用したPCオーディオ装置

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ワイヤレス・ヘッドフォンの側面

年を重ねると高音域の感度が低下していますので、(構成した機器の定格上聞こえないとされている)40kHzの再生についてはさほど効果が感じられませんでした。それでもコンサートの音源で比較すると音場が広がるように感じます。音を文字で表現するのは難しく、この程度の設備でもハイレゾ化の効果が体感できます。費用をあまりかけずに簡単に作り上げることができますから、一度試してみる価値があると思います。最近の傾向ではオーディオ機器がリサイクルショップで格安で手に入りますのでお勧めです。

PCオーディオの構築例

デジタルアナログコンバーター(DAC)アンプとスピーカー、PCがあるとハイレゾ音源の再生環境が整います。まず、高音質で再生するデジタルアナログコンバーター(DAC)アンプに、TEAC A-H01 USB DAC/ステレオプリメインアンプ(ブラック)を用意しました。最大出力40W + 40Wのパワーアンプ(4Ω、1kHz、0.1%)、D/Aコンバーター内蔵で様々なデジタル音源に対応、パソコンからUSBケーブル1本でフルデジタル・オーディオ入力ができます。データサンプリング周波数:32/44.1/48/88.2/96/176.4/192kHzに対応し、データビット長:16/24bit、外形寸法:W215×H61×D258(mm)、質量:1.6kg。約3万円(amazon)。

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『DigiFi No.7(2012/8月号)』特別付録「USB DAC付デジタルパワーアンプ」(上段)、アンプセレクタ(中段)、TEAC A-H01(下段)、最下段はパーソナルオーディオDENON D-MG33。右側のディスプレイにTEAC HR Audio Playerが見える。

スピーカーは手持ちのDENON SC-E727R 2WAY(2台一組)を流用しました。ランバーコア材を採用した天然木のキャビネット製。バスレフ形、14.5cmコーン形ウーハー×2、2.5cmソフトドーム形ツイーター×2、入力インピーダンス6Ω、最大入力100W、再生周波数 33Hz〜44kHz、寸法W194×H326×D318(mm)、質量 8.1kg (1台)です。

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スピーカーはDENON SC-E727R 2WAY(2台一組)を使用。

パソコンとアプリ

とりあえずデスクトップPC(OS:Windows 7)を使いました。ノートPC (OS:Windows7)も使いやすいでしょう。これらのPCにハイレゾ音源対応の高音質プレーヤーソフトウェアTEAC HR Audio PlayerをTEACのWEBサイトからダウンロードしました。PCにUSB DACを接続してソフトウェアを起動します。メイン画面のConfigure画面で接続したデバイス(TEAC USB HS ASYNC AUDIO DECICE)を選択します。後はドラックアンドドロップで聴きたいファイルをプレーヤーに並べるとハイレゾ・ファイルの高音質再生ができるようになります。

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TEAC HR Audio Playerの操作画面

ハイレゾ音源

e-onkyo musicの「ハイレゾ配信」からWAV 96kHz/24bit、flac 96kHz/24bitのアルバムをダウンロードします。価格はアルバム1枚3千円前後、1曲540円です。試聴ができますのでさわりを聴いて気に入ると購入する仕組みです。また、音楽ダウンロードサイトのMedia Go(メディアゴー)からハイレゾ音源を有料でダウンロードできます。

SONYのWEBサイトから無料でダウンロードできるMedia Go 2.7は、音楽ファイルをPCや携帯機器で再生できるよう最適化するソフトです。Media GoへCDをインポートするときにMP3、AAC、FLACのフォーマット(拡張子flac)を選択できます。通常は音質の劣化のない可逆圧縮形式※のFLACを選びます。ただし、Media Goはデジタル著作権管理(DRM)で保護されている音楽ファイルは、Media Goへ取り込み・再生することはできません。※圧縮前のデータと圧縮・展開の処理を経たデータが完全に等しくなるデータ圧縮方法のこと。

ハイレゾ化は止められない

好きなアーティストにCSNYというグループがあります。http://www.csny.com/

クロスビー、スティルス、ナッシュ&ヤングの頭文字を取ってCSNYまたはCSN&Yと表記します。このアーティストの新譜(と言っても1974年のライブですが)が発売されました。CD3枚+DVD特典映像のセットに加え、Blu-Ray Audio1枚+DVD特典映像のセットがありましたので、後者を購入しました。

CDの44.1kHz/16bitに比べBlu-Ray Audioは192kHz/24bitの高音質で記録されています。CDは22kHzの上限周波数に対し、数値的には96kHzまで再生できることになります。その音域は聞こえませんからあくまでも机上の理論値ですが、ハイレゾ・オーディオ規格の40kHzはクリアしています。聞き比べると空気感といいますか、雰囲気が違って聞こえてくることに気が付きました。価格はCD版よりも若干安いので、同じような形で市販されるレーベルが増えてくることでしょう。

あとがき

Blu-Ray Audioを聴くために、Blu-Rayビデオが再生できる装置を用意します。そのオーディオ出力にハイレゾ・オーディオが再生できる機器がつながっていると、最高音質の音楽を楽しむことができます。「CSNY 1974」では、静止画が画面に表示され、曲の番号が並んでいる、見ていて楽しくない動作画面でしたが、音は抜群に良かったので、40曲を連続して聴いてしまいました。音が良いことと、長時間再生が可能なのがBlu-Ray Audioの利点です。

音楽を聴く形がレコード(電蓄)からテープ(レコーダ)になり、そしてウォークマンに代表される持ち出せる機器が流行しました。その流れはしばらく止まっているように思われましたがCD、MP3と続き、今また新たな一歩が始まるところに差し掛かりました。ハイレゾ音源の入手は主にネットからのダウンロード販売が中心ですが、CSNYのように、Blu-Rayディスクでの供給も始まり、流れは「ハイレゾ」に傾きつつあります。いきなり高価な機器を揃えなくても、まずはPCオーディオから初めて、徐々にグレードを上げていくのが良いと思います。