2015年2月、ソニーからFM補完放送対応のクロックラジオ「ICF-C1」が発売されました。このラジオはスピーカーがモノラルで出力100mW、FM 76MHz~108MHz、AM 531kHz~1620kHzの2バンド、家庭用電源に対応します。ほぼ10センチ角のキューブ形で約480g、災害時のニュース収集ラジオとして有効な一台と思われます。一方、関東広域圏のAM局3局(TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送)ほか全国のFM補完放送局が「FMラジオでも聴けるようになります!」とPRに余念がありません。今秋にも放送が始まる(一部では放送が始まっています)ということで、いま話題のFM補完放送について調べてみました。

FM補完放送とは

FM補完放送(中継)とはAM(中波)放送局の放送区域において、難聴対策や災害対策のためにFM(超短波)の周波数を用いて補完的にAMの番組を放送すること指します。

「補完中継局」の使用周波数帯域:

1.災害対策:90.1MHz~94.9MHzまで(ただし、当該周波数を割り当てることができず、災害対策のために真に必要な場合に限り76.1MHz~90.0MHzまで)

2.都市型難聴対策:90.1MHz~94.9MHzまで

3.外国波混信対策:76.1MHz~94.9MHzまで

4.地理的・地形的難聴対策:76.1MHz~94.9MHzまで

災害対策と都市型難聴対策に90.1MHz~94.9MHzが割り当てられているため、90MHzまでしか受信できないFMラジオでは補完局を聴取できません。数年前に発売されたFMラジオ(チューナー)でも90MHz~108MHzの仕様もありますので調べておかれると良いでしょう。最近の製品には「FM補完放送対応機種」のステッカーが貼ってありますので、それを目安に購入すると良いでしょう。また、アナログテレビの1ch~3chの音声が受信できたラジオがFM補完放送の受信機として再利用が可能になります。

補完中継局の開設

関東広域圏ではTBS(90.5MHz)、文化放送(91.6MHz)、ニッポン放送(93.0MHz)の3局で、いずれも東京スカイツリー(東京都墨田区押上)の共同アンテナを使用して出力7kWで送信するとのことです。放送開始は今秋から冬の時期と発表されています。また、近畿広域圏では広域圏民放3社に90.6MHz、91.9MHz、93.3MHzが割り当てられる計画です。2015年1月1日時点では、KNBラジオ(北日本放送、90.2MHz)と南海放送ラジオ(愛媛県91.7MHz)、MBCラジオ(南日本放送~鹿児島県、92.8MHz)などが本放送を開始しています。全国的な使用計画はウィキペディア「FM補完中継局」をご覧ください。

FMチューナーの上限周波数

家中のFMラジオ(チューナー)の上限周波数を調べてみました。ミニステレオコンポ(DENON D-MG33)は108MHzまで受信できました。また、携帯音楽端末のイヤホンとして使っているSony Ericsson ワイヤレスステレオヘッドセット 『MW600』のFMチューナーは76MHz~90MHz、スカイラインのFMチューナーも関東広域圏のFM補完中継局を受信できません。

FMラジオキット

FMラジオキットFM-3(900円)を「ラジオ少年」に注文しました。このキットの受信周波数は76MHz~108MHzなのでFM補完放送に対応しています。FM-3は写真でご覧のように部品がバラバラの状態から組み立てるので、それなりの組み立て技術と根気が必要と思われます。半田付けはともかく抵抗のカラーコード、コンデンサの表記(読み取り)をほぼ忘れていますので、ネットから「早見表」をダウンロードすることから始めました。

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FMラジオキットFM-3の全パーツ(※クリックすると画像が拡大します。)

キットの概要

「ラジオ少年」のホームページには次のような説明がありました。

「高周波段のICと低周波段のICの2個のICでまとめています。高周波増幅回路を付けていますので高感度です。ケースは付いていません。部品点数が多いので中学生以上が対象です。

単三電池2本が必要ですが、付属していません。」

※http://www.radioboy.org/

このキットは中国製なので説明書に簡体字が使われています。たとえば「棕」の字、何のことかわかりませんので、「基礎中国語辞典」(講談社刊)を引くと"褐色" つまり茶色とわかりました。カラーコードに精通している方なら辞典を持ち出すまでもなく"茶"と推測されるでしょうが、電子工作が久しぶりの方は戸惑うかもしれません。いまやラジオキットの製造国はタイ王国や大韓民国、中華人民共和国と伺いましたので、キット作りにはそれなりの知識と準備が必要かもしれません。

パーツの分類

抵抗とコンデンサが分類されないままビニル袋に入っていましたので、写真のようにパーツの分別から始めました。特に抵抗のカラーコードを正しく読み取り、抵抗値を記載するためにA4判のコピー用紙に貼り付けてみました。幸いキットに部品表が添付されていましたので、部品番号と抵抗値などを書き込み、基板への誤り挿入を防ぐと同時に、半田吸取器の厄介にならないためでもあります。

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抵抗、コンデンサを分類しました(※クリックすると画像が拡大します。)

パーツを基板に装着

基板装着図に部品名と番号の記載を見ながら始めはポリバリコン、IC1、IC2、Q1、Q2などを基板に挿しました。次に電解コンデンサ、抵抗、コンデンサの順に挿入しましたが、順番はさしたる理由はありません。事前にパーツの分別をしっかりやってありますが、慎重に組み立てました。パーツを全部挿入したところで、基板装着図と見比べながら半田付け前の最後のチェックに取り組みました。

この辺りの作業をいい加減にすると電源スイッチONで動作しません。正しく装着できたと確信が得られてから半田付けに取り掛かります。抵抗、コンデンサが6個余りました。説明書きに余ると書いてありました。もともとLCDによる周波数を表示するディスプレイが付属する設計のようですが、このキットから除かれていました。900円と安い理由もこのあたりにあります。

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部品名が一目でわかる基板図(ラジオ少年)

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基板に各パーツを装着したところ。

組み立てを終えて

単三乾電池2本を電池ケースに装着して配線を完了、電源スイッチをONで動作が始まりました。ポリバリコンを回すと無調整でも放送が受信できました。念のためMFJ-259Bを発振器にして受信周波数が76MHz~108MHzに収まっていることを確認しました。やはり事前に行ったパーツの分別が功を奏した結果、組み立ての誤りを防いでくれました。受信感度は申し分なく、50cmのビニル線でもローカル局が十分に受信できました。

ケースに収納

FM-3を収容するケースはキットに付属していません。FMラジオを動作させて終わりではどうかと考えてケース探しに取り掛かりました。百円ショップの「ダイソー」で小物入れのケースを見つけましたが、基板に合わせると大きすぎて気に入りません。部品庫を探して見つけました。部品入れに使っていたW120×D80×H27(mm) のケースがぴったりの寸法でした。プラスチック製なので工作がかんたんで電気ドリルとカッター、ヤスリで加工しました。スピーカーを取り付けてからふたを閉めるとバリコンのツマミが当たるため、スピーカーの位置をずらして取り付けるハプニングがありました。

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ケースに楕円型のスピーカーを取り付ける

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基板をケースに入れると、このように

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ボリウムとイヤホンジャックの穴開けを済ませたところ

もう一つの失敗は、電池ホルダーを収容する場所に困り、上蓋に穴をあけて電池ホルダーを露出させて解決しました。本来は単三電池を直列にして収納すると見た目にきれいになるのはわかっていましたが、キットに手を加えない方針から新たなパーツの購入を見送りました。

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完成したFMラジオの上部

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完成したFMラジオの側面

ケースからはみ出した赤色のビニル線がアンテナです。これでナックファイブ(79.5MHz)他が強力に受信できました。さらに40センチのクリップつきビニル線をつなぐとJWAVE、FM東京、NHKなどを受信できました。受信周波数は周波数アナライザーMFJ-259Bを周波数カウンターにして76MHz~108MHzの範囲に入っていることを確認しました。

おわりに

クロックラジオ「ICF-C1」が欲しくなりましたが、あえて手作り感の味わえるラジオキットに取り掛かりました。このキットは特に「FM補完放送対応」と謳っていませんが、ICF-C1にあやかり冠を付けてみました。FM-3はケースに工夫すると自分だけの一台になりますが、ダイヤルツマミとボリウムが左右についているため、その寸法に合わせる必要からケース選びに制約がありました。なお、マイカーにはFM補完放送が受信できるハンディ機ID-92を装備して災害対策として持ち込んでいます。