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No.81 団塊世代に進めたい1アマへの挑戦
“団塊の世代”(1947年~1949年)が、定年を迎えるときがきました。中には定年を延長してあるいは職を変えて働き続ける人もおられるかもしれないが、仕事優先の生活に区切りをつけて、ゆとりを取り戻し自由な時間を趣味にまわしたいと考えておられるでしょう。 いよいよ本格的にカムバックを果たす時がやって来ました。長年、第2級アマチュア無線技士(以下2アマ)に不自由を感じないままハムライフを楽しんでこられましたが、この機会に第1級アマチュア無線技士(以下1アマ)への挑戦を勧めたいと思います。
受験本の定番「第1級ハム国家試験問題集」
無線工学の克服に必読の書「解説・無線工学」
なぜ1アマなのか?
1アマと2アマの差は出力電力にありますが、住宅地で500ワット~1,000ワットの出力は電波障害が怖くて出せないため2アマで十分とお考えの方が多いようです。その上オールバンド、オールモード、最大出力200ワットの2アマの居心地は決して悪くありません。開局以来20年も30年も、あるいは50年近くも2アマで過ごしたベテランハムが、定年を迎えて「アマチュア無線を存分に楽しみたい」と考えて、アンテナ系統を整備して無線機も一新しようと構想を練っておられるでしょう。
この機会にライセンスのグレードアップを計り、1アマの資格で再スタートを切るというのはいかがでしょうか。時間はたくさんありますから再教育のつもりで、難しいといわれる「無線工学」に取り組むことをお勧めします。ここで最上級の資格を取っておくのも、アマチュア無線を全うする意味でも意義のあることと思われます。友人たちに自慢するための1アマ取得などでなく、自らの知識の点検と技量アップを目指すのがベテランハムのあるべき姿と思われます。もしあなたが65歳未満なら養成課程講習会の講師として、後進の指導に当たることもできるのです。
試験のチャンスは年3回
財団法人日本無線協会が行う国家試験、第1級アマチュア無線技士の試験に合格しなければなりません。毎年、4月、8月、12月の3回、11の試験地(東京・札幌・仙台・長野・金沢・名古屋・大阪・広島・松山・熊本・沖縄)で開かれます。すでに4月期は終わっていますので、8月期(試験日:8月19日、申請書の受付期間:6月1日~20日)と12月期(試験日:12月8日、申請書の受付期間:10月1日~22日)を受験できます。
日本無線協会本部の試験場入り口
試験を受けるには日本無線協会が定める様式の試験申請書を提出します。簡便なのはインターネットからの申請がお勧めです。日本無線のWebサイトを開いて「無線従事者国家試験、申請システムへ」→「申請される方はこちら」、第1級アマチュア無線技士を選び、「試験申請書作成」画面で所定の書き込みを行います。2アマあるいは3アマの従事者番号を記入すると通信術」が免除になります。この後「整理番号、申請日」が発行されるので、番号を付して試験手数料の8,950円を郵便局で払い込みます。その後、「無線従事者国家試験受験票」が送られてきますので、写真(6ヶ月以内に撮影した縦3センチ、横2.4センチ)の裏面に氏名、生年月日を記入、受験票に貼り付けます。
試験科目と内容
「電気通信術」(電信)1分間25字の速度の欧文普通語による約2分間の音響受信
2アマ、3アマの所持者は試験を免除される。
「法規」は、
1.電波法及びこれに基づく命令の概要
2.国際電気通信連合条約及び国際電気通信連合憲章に規定する無線通信規則の概要
- A問題(4肢または5肢択一式)20問、
B問題(正誤式・補完式)5問の計25問、
各5点で満点125点、合格点87点 試験時間2時間
「無線工学」は、
1.無線設備の理論、構造及び機能の概要
2.空中線系等の理論、構造及び機能の概要
3.無線設備及び空中線系等のための測定機器の理論、構造及び機能の概要
4.無線設備及び空中線系等のための測定機器の保守及び運用の概要
- A問題(4肢または5肢択一式)25問、
B問題(正誤式・補完式)5問の計30問、
各5点で満点150点、合格点105点 試験時間2時間30分
参考書
「第1級ハム国家試験問題集」06/07年版 A4判 319頁 野口幸雄 著 CQ出版社 2,520円 過去に出題された問題と解答を収録した本。30問中6割くらい既出問題が出るので、問題集により正しく答えられるまで繰り返し読み返えします。
「解説・無線工学」05/06年版 A4判 459頁 野口幸雄 著 CQ出版社 2,940円
計算問題で、しばしば数値を変えて出されるため、数学的な計算ができるように、いろいろな公式を使った計算を理解するために必要な一冊です。
著者の野口幸雄さん(JA1MKS)は、「電波科学」編集部を経てJARLの会員部長などを歴任されました。著書に「現代アマチュア無線入門」「解説つき第1級 第2級ハム問題集」などがあり、アマチュアの受験本では定評があります。
試験場のボードに試験科目、開始時刻などの記載がある。
19年4月期の「法規」と「無線工学」の問題用紙
丸暗記は有効か
試験勉強の仕方には、それぞれ個人にあった方法がありますので一概に言えません。どちらかというと「法規」が難しく感じる人、「無線工学」のキルヒホッフの法則が分からない、ベクトルと複素数、論理回路が覚えられない等々、苦手意識がそれぞれにあるようです。団塊の世代は中学・高校の数学の解法を忘れているため、お子さんの教科書を借りて基礎を学ぶことが必要かもしれません。
丸暗記は有効ですが、高齢者にはなかなか厄介な問題です。というのも、いったん理解しても2、3日もたつと忘れてしまうことがしばしばですから、回り道でも問題と解答をノートに筆記して、問題の本質を理解し、確実に覚えるのが良いとされています。もし、暗記ができると既出問題の6割~7割は確実に解答できますので、それだけで合格圏に到達します。ただし、応用力を身につけなければ新問題への対応が難しいかもしれません。
まれには小学校低学年の子どもを1アマの試験場で見かけることがあります。年齢制限がないので記憶力の旺盛な年頃?の受験もありということで、もしかすると合格して新聞の地方版を飾るのでしょうか。問題と解答を100%記憶して合格できる事例でしょうか。凡人の学習法としては、前出の「第1級ハム国家試験問題集」319ページを3巡~5巡くらい、ひたすら読み返すことに尽きるようです。
こんな勉強のやり方でいいのか、不安に襲われることもあります。このようなときはブラウザの検索窓に「1アマ受験」「1アマ問題と解答」などをタイプして検索してみると、受験の体験談や学習法、問題の傾向などを知ることができます。メーリングリストに参加して先輩からアドバイスを受けることもできます。中には1アマ受験を思い立ってから1ヶ月の勉強で合格したという自慢話に出会うこともありますが、これは特別な例として参考にしないほうがよいでしょう。合格の道のりには、それなりの努力が隠されているもので、「苦労した」と言わず、「かんたん」と表に出さない人もおられるのです。
最近の合格率は40%強
通信術試験の緩和後、全国の1アマ受験者は、平成17年12月期1393人、合格551人(39.4%)、同18年4月期887人、合格340人(38.3%)、同8月期749人、合格324人(43.3%)のデータがあります。通信術の緩和以前の合格率20%台と比較すると合格率が格段に向上していることがわかります。「法規」は誤りが7問でも90点で合格、「無線工学」は誤り9問でも105点で合格ですから、ほぼ70%の得点でよいことが分かります。国家試験は合格圏内の得点なら等しく「資格」を授けてくれるのです。
無線従事者国家試験結果通知書 「合格」の記載がある。
結果通知
試験を終えると問題用紙を持ち帰ることができます。JM4SMRの解答速報による自己採点で、即座に合否が分かります。さらに3、4日後には日本無線協会のホームページに問題と解答が掲載されますので再確認ができます。採点を正確にするために、試験の際に問題用紙に解答を正確に記しておくことをお勧めします。これにより「結果通知書」を待たずに判定ができます。平成19年4月期の場合、試験日が4月7日、同26日通知書の発送、27日通知書を受け取る・・・という日程でした。3枚折のはがきを開くと、結果欄に「合格」とあり、右側には『“合格”おめでとうございます。無線従事者免許申請の手続きを早めに実施して下さい。財団法人日本無線協会』とうれしい文言が記されています。
まとめ
何十年も2アマのライセンスでこられ、定年を迎えられた団塊世代に、ご自分の知識・技術を再教育する意味でも第1級アマチュア無線技士に挑戦することをお勧めしたいと思い、本稿をまとめてみました。試験を受けようと決意して学習を始めたら身近な方に受験を知らせて、背水の陣を敷くことです。くじけそうになる気持ちを奮い立たせるのに役に立ちますのでお試しください。たとえ初回の試験に失敗しても、2回目で合格できれば大したもの、プロの資格ではないので、何回でも気楽に取り組むことです。幸運を祈ります。