Onlineとーきんぐ
No.73 英国のモービルハンドブック“The Amateur Mobile Handbook”
デイトンハムベンションの屋内展示にRSGB(Radio Society of Great Britain)が出展して、ブースの壁にユニオン・ジャック(英国の国旗)を掲げ、その前で書籍類を並べて即売していましたので、その中からモービルハンドブック「The Amateur Mobile Handbook」Peter Dodd、G3LDO著 を見つけてUS 21ドルで購入しました。
アメリカ「CQ Amateur Radio」の広告
「CQ Amateur Radio」のWEBサイト
グレートブリテンを調べると「グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国の正式名称」とありました。通称はイギリスあるいは英国、他に連合王国やUK(United Kingdom)とも呼ばれています。つまりRSGBは「グレートブリテンのラジオ協会」となります。JARL(日本アマチュア無線連盟)、ARRL(アメリカ無線中継連盟)とは趣の異なる名称に日本放送協会を連想してしまいました。国語辞典によると「連盟」は同じ目的で行動することを誓った団体、「協会」は会員が協力して組織運営する会とありました。
RSGBは1913年の創設、1934年、第1号のアマチュア局に免許が与えられた古い歴史を有するラジオ協会ということになります。JARLの設立が1926年6月、そして同年JLYB有坂磐雄氏に正式免許が降りていますので、双方の歴史的な古さに遜色がないことがわかります。日本から海外を眺めるとARRLの機関紙「QST」を通じてアマチュア無線制度や真空管、通信機材の記事を通じて米国の事情に通じていましたが、極東から見た英国は遠く、同国の事情に疎かったのもまた事実かと思われます。
RSGBの「モービルハンドブック」
OnlineとーきんぐNo.71でARRLのモービルハンドブック「Amateur Radio on the Move」を紹介しましたが、今回はRSGBの「The Amateur Radio Mobile Handbook」を紹介したいと思います。初版が2001年で5年前の刊行物となりますが、古さを感じさせません。本をぱらぱらとめくった印象では、車に搭載のトランシーバーが当時のもので仕方がないが、機材の搭載技術やアンテナの車体への取り付けやマッチングについては、今でも十分に役に立つ内容に仕上がっているので手元において損をすることはありません。
「The Amateur Mobile Handbook」モービルハンドブック RSGB刊
本書の購入はRSGBと販売提携の米国CQあるいはRSGBのWebサイトから注文できます。B5判より一回り小さい判型(241×173 mm)で本文115頁、1色刷り、第1章~第10章のほかに、巻末に国内の6m、2m、70cm、23cmのFMリピーター・リストとマップを掲載してコールサイン、周波数、CTCSS、地名などがわかる資料が収録されています。
第1章Going mobile
モービル局が1.8MHz~1.3GHzのバンドでAM、SSB、FM、そしてCWのモードで運用を楽しんでいると紹介。Mobileの定義について英国内を移動する乗り物は、川、湖を移動するボートを含めてコールサインの後に”/M”を付ける。マリタイム・モービル(Maritime Mobile)は海上で”/MM”、一時的な場所での運用は”/P”を付し、30分ごとに5kmの精度で移動地を伝える。
航空機については、「免許人は、航空機または他の空中車両でステーションを設立しない、使わない」と書いてあり、本文中にエア・モービルの記述がありません。また、「ログはMobileとMaritimeのモービル操作の上で必要ない」という箇所に注目しました。また、第2次大戦後に英国のモービル運用が本格的に始まったという歴史にも興味をそそられるが、「操作上の安全」と「バッテリー」にも大きなスペースを割いている。
英国国旗が目印のRSGB(英国ラジオ協会)のブース(ハムベンション2006で)
第2章 Mobile operating
「車に乗っている時間が長いのならDX交信を勧める」という書き出しで、G4NXGがモービル運用でWorked327カントリー(現在はエンティティ)を達成しているが、ARRLでは移動運用地からのDXCCを認識しないので、この達成は「個人的な満足」のカテゴリに入いると紹介。走行中の車両から操作することについては、HFバンドでモービル局の走行中のオペレーションは、前方の道路から目を離してはいけない、トランシーバーの操作はもちろんのこと、ログを書くことも危険なのでやるべきでない。
ログを書かない代わり小型のカセットレコーダーを用意して交信を録音するようにしている。しかし、機材が多くなる欠点があるため、結局、ステアリングの中央にはがき大のプラスチックの板を取り付けてポストカードを重ねて、交信のたびにコールサイン、時間、周波数などを書くことにした。移動運用の利点やVHF/UHFバンドのオペレート、リピーター、APRS(Automatic Packet Position Reporting System)についての解説もある。
第3章 Installing radio equipment in vehicle
新しい車に無線機を取り付けるには、車載に適したトランシーバーを選びから始めて、どのあたりにトランシーバーを取り付けるか、モービルシャックの写真を掲げてセンターコンソールや助手席グローブボックス、助手席に固定する方法などさまざまだが、究極は運転者の目の前、ダッシュボードの上にIC-706トランシーバーの前面パネルを置くのがすぐれていると紹介。12VDCはQRPリグならシガーライターソケットも良いが、それ以外はヒューズを入れてバッテリーから直接に引くことを勧めている。ほかにDC供給ケーブルの経路選択について、受信障害の対策、自動車用電子機器から発生するノイズ対策、そしてDCケーブル用EMCフィルタICOM OPC-639の紹介もある。
IC-706をハンドルに装着した自転車HFモービル(Mobile Handbook p.65)
第4章 Mobile antenna
自作のための各種HFバンド・ローディング・コイル入りホイップアンテナの作り方とデータを紹介。あわせてオールバンドで運用するためのさまざまな工夫とアンテナチューナーの併用、アンテナの取り付け方についても図解入りで詳しく解説。
第5章 アンテナを車両に取り付ける
第6章 凧と気球アンテナのサポート
第7章 自転車HFモービル
第8章 マリタイム・モービル オペレーション
第9章 移動実験的な活動
第10章 Walkabout Mobile
Walkabout Mobileを「歩き回るモービル」と訳しましたが、ウォーキング・モービル(Walking mobile、歩行モービル)と同意語と考えられます。HFバンドで大陸と交信するウォークアバウト・モービルを紹介しているが、海を越えた遠距離交信のおもしろさはまた格別なのでしょう。軍用ナップサックにIC-706本体を入れて背負い、前面パネルを操作するウォーキング・モービルの写真が雰囲気をよく表している。ほかにG0CBMのオールバンドに対応した手づくりアンテナとポータブル機の組み合わせが素晴らしい。
IC-706の前面パネルを見るウォーク・モービル(Mobile Handbook p.92)
あとがき
英国の「ウォークアバウト・モービル」に対して、米国の「バックパック・モービル」あるいは「バックパッカー」、日本では「ウォーキング・モービル」ですから、ところ変われば呼び方も変わるということでしょうか。技術的には日本と同じレベルにあることがわかったが、凧や気球の利用、自転車HFモービル、歩き回るモービルに英国らしさを感じました。「ハムフェア2006」では、風力発電機を背負ったウォーキング・モービルにであい、日本にも好奇心が旺盛な方がおられると感心しました。なお、紙面の関係で第5章~第9章の要約を省略しました。
ハムフェア2006で見かけた風力発電のウォーキング・モービル