友人がステーションワゴンの後部から1メートルくらいの筒を取り出して「これがオールバンドのポータブルアンテナだよ」と見せられたのが3年前のこと、W3FFアンテナBuddipole(バドダイポール)との出合いでした。翌年、JASTAの野外ミーティングで友人が展開したW3FFアンテナのコンパクトな造りと性能の良さを目の当たりにして、「ポータブル運用に利便性が高い」と気に入りました。

Haraアリーナの場外で見かけたポータブル運用のN8ARO

ハムベンション場外でポータブル運用

2005年5月デイトンハムベンションの会場、Haraアリーナの入り口付近に椅子とテーブルを出し、ポータブル運用をアピールするN8AROを見つけました。アンテナはV型に立てたBuddipole、21MHz帯に設定されSSBモードを運用していました。リグはHFモービルトランシーバーに小型のバッテリーをつないで出力5ワット位、V型に組んだBuddipoleの給電点は約4メートル、傍らにアンテナアナライザーがありました。この方もW3FFアンテナがお好きなんだと思いながらしばらくオペレーションを見守りました。

ハムベンション2005でW3FF(左)と息子のW6HFP(右)

Haraアリーナの正面入り口から入ってすぐのNo.43 Buddipole社のブースで開発者のW3FF Buddさんにお目にかかり、丁寧な説明と人柄にも魅了されて迷うことなくデラックスパッケージを購入。399ドル+TAX29.93ドル、合計428.93ドル(日本円で5万円位)をクレジットカードで支払いました。重さ4キログラムのW3FFアンテナをデイトン空港でユナイテッド便に乗せて、成田空港へ無事に持ち帰りました。
W3FFアンテナの開発者、Buddさん

バドさんことW3FF Budd L DrummondさんがW3FFアンテナの開発者です。BUDDIPOLEは、BuddとDipoleを組み合わせたもので(会社はBuddipole Inc.)と容易に推測がつきました。うまい命名と思いながらコールサインの検索サイトQRZ.COMにW3FFを入力すると、名前と住所のほかに160mバンド自転車モービルの写真が載っていました。ハンドル中央に立てたダイポールと後部荷台から突き出た大きなコイルにつながる長いアース棒に仰天しました。
W3FFアンテナ(Buddipole)の構造

Buddipoleの構造をマニュアルから抜粋しました。コイルのタップと6段に伸縮するホイップの長さを変えて7MHz帯、10MHz帯、14MHz帯、18MHz帯、21MHz帯、24MHz帯、28MHz帯、50MHz帯、144MHz帯の9バンドに対応します。ただし50MHzと144MHz帯はコイルとアームを使わずにホイップのみで各バンドにあわせます。

このアンテナは「ローディングコイル入りのオールバンド・ダイポール」と理解すればよく、むき出しのコイルはポータブル運用が目的なら防水対策を必要とせず、真ちゅう製のホイップの強度に心配でも手荒く扱わない限りこれで十分でしょう。ほかに軍用規格のホイップアンテナ(39ドル)もオプションで用意されています。幅600×横170×高さ80(mm)の専用バッグにすべてが納まり、重量4キログラムと軽量なところから持ち運びに優れています。デラックスパッケージに含まれるものは以下の通り。

ナイロン製の携帯ケース

バッグから取り出したデラックスパッケージ一式

  1. 1.三脚
  2. 2.マスト
  3. 3.回転アームキット
  4. 4.伸縮タイプのホイップ2本
  5. 5.二つのコイルとクリップ
  6. 6.RG58/U 10m
  7. 7.給電部ユニット
  8. 8.ナイロン製の携帯ケース
  9. 9.ステー用ナイロンロープなど。

    Buddipoleの構造図(マニュアルから)

アルミ材の多用とCPVCと呼ばれる塩素化塩ビ樹脂の使用でいずれのパーツも軽い仕上がりになっています。また給電部に付ける2個の回転アームはエレメントの角度を垂直、水平、L型、斜め型、V型にセットするアクセサリで、電波の打ち上げ角度を変えて近距離、遠距離、遠近両用の交信に使い分けるよう推奨しています。
蔵王の御釜で組み立てと調整

室内でBuddipoleの組み立て手順を体験して、去る6月中旬、山形県上山市のJMHC(日本モービルハムクラブ)全国大会に参加の際、Buddipoleを車に載せて出かけました。大会終了後、蔵王エコーラインをドライブして適当な場所でBuddipoleを展開、美しい景色を背景にアンテナを撮影したいと考えました。

蔵王エコーライン 御釜付近にて

折よく蔵王苅田山頂の前に差し掛かり、バス停苅田駐車場から馬の背までリフトで上がることができました。このとき携行品を整理してBuddipoleとアンテナアナライザーMFJ-259B、デジカメEOS 10D、同DSC-P7、撮影用の三脚を抱えてリフトに乗り込みました。ピコ10の愛称で親しまれるMX-28Sを持って行くつもりでしたが、交信をやめてアンテナの組み立てと共振周波数の検証並びに撮影に絞りました。

リフトから降り立つと辺りは御釜(おかま)見物の観光客でいっぱい。人気の少ない場所を選んでBuddipoleの組み立てを始めると好奇心旺盛な子どもたちが遠くからこちらを窺っていて気恥ずかしい感じ。三脚にマストを挿して、先端に給電部を取り付ける。次に回転アームキット、コイル、伸縮タイプのホイップを順につなぎ、給電部に同軸ケーブルを取り付けて組み立てを完了しました。

細めの同軸ケーブルRG58/Uの端にBNCコネクタとBNC-M型変換コネクタがはじめからついているので、アンテナアナライザーのアンテナ端子に接続して7MHz帯と14MHz帯、21MHz帯の共振周波数の確認とSWRを測定しました。頻繁に撮影を行うために結構な時間がかかってしまいました。ダイポールの調整はコイルのタップとホイップの伸縮で決まるので、マニュアルのBASIC DIPOLE TUNINGの表(抜粋)を見ながらコイルのタップとホイップの長さを決めます。

  赤サイド(左側) 黒サイド(右側)
バンド コイル ホイップ タップ コイル ホイップ タップ
7MHz帯 YES 5.5-6 NO YES 5-5.5 NO
14MHz帯 YES 4.5 緑10 YES 6 青15
21MHz帯 YES 6 赤4 YES 6 黒6

ホイップは169センチ(6段)ですから「5.5-6」なら6段一杯に伸ばすか、先端の一段を半分に縮めることを示しています。赤サイドは左側のコイルを指し、黒サイドは右側のコイルになり、バンドによって左右のタップの位置とホイップの長さが違うことに注目。

アンテナアナライザーを使って上記の3バンドを調べるとほぼマニュアルどおりに再現できました。デラックスパッケージに含まれるマスト(2.5m)+三脚の高さではSWRが十分に下がらないこともあり、適当なところで妥協するか、さらに長い(4m以上)マストを用意して給電点を地面から話したほうがいいでしょう。車での移動なら長いマストを用意してタイヤで踏みつけるベースと組み合わせるのもお勧めです。

三脚にマストを取り付ける

給電部にアームとコイルを取り付けたところ

回転アームで垂直・水平・V型・L型にできる

ふじあざみライン2合目で交信

8月の第一金曜日の夜、山梨県南都留郡山中湖村の山荘に友人たちと集いました。翌朝、国道138号線から富士山の須走口に向かい「ふじあざみライン」の五合目(1980m)を目指しました。フィールドデー直前ですから移動局がたくさん居ると予想して登って行くと、アンテナを見かけないまま渋滞の後ろについてしまい、ついに対向車線が駐車帯になるという最悪の事態になりました。ようやく五合目の駐車場にたどり着いて記念撮影を済ませて立ち去ることに。あきらめの悪い一行は、かりやす・旧2合目付近(1,700~1,800m)に空き地を見つけて移動運用を始めました。

日ごろの組み立て練習の成果で手際の良い展開ができたと思います。アンテナアナライザーMFJ-289Bで周波数帯とSWRを確認した上で、車に装置したモービルトランシーバーIC-706MKⅡGM+AT-180(アンテナカプラー)につないで受信しました。14MHz帯、21MHz帯の順にSSTVの周波数を受信してノートパソコンで画像を見ることができました。

次に50MHz帯に移ることにして、左右のコイルとアームを外し、ホイップを4.5段にしてチューニング完了。50.26MHz付近で神奈川県横須賀市のJA1RPK川名さんの信号をキャッチ、ファイナルを送るところだったので少し待ってコール。よく知る人なのに初めての交信で話が盛り上がり、同行のJF1GUQもゲストオペによりマイクを握り楽しい交信に終始しました。ほかに千葉県のラグチュー好きの局とも交信して二合目の運用を終えました。

40m~10mバンドに対応のコイル

アンテナの調整に欠かせないアンテナアナライザーMFJ-259B

まとめ

デイトンハムベンション2005(5月)でW3FFアンテナ(Buddipole)を購入してから5ヶ月、アンテナの組み立てと7MHz~144MHzの9バンドのチューニングに習熟することができました。しかしながら、十分な運用実績を上げるには程遠い感じもあり、携帯の利便性に優れたこのアンテナを使いこなすにはもう少し時間が必要かもしれません。

値段が高いか安いかは使う人の目的により分かれるところですが、実績に裏づけされたアイデア商品だけに再現性の高さとあいまって合理的な価格と評価しておきます。さすがポータブル運用が好きなBuddさんだけに、各所に工夫を盛り込み完成度を高める姿勢に感心するばかり。青空の下でアンテナを展開し、ニューモデルのIC-7000から流れる信号に静かに耳を傾ける、これが実現できるなら正にポータブル運用の醍醐味と言えるでしょう。