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No.52 8J1AGE/2伊豆スカイライン一人移動運用
早朝、東京・瀬田から東名高速に乗り、厚木を経由して小田原からターンパイクの急坂を登りました。熱海峠に至る道はあたり一面に霧が立ち込め、降りしきる小雨と合わせて視界がまったく利きません。お昼だと言うのにあたりは薄暗く行き交う車も少なく、カーナビに頼りながら伊豆スカイラインの入口"熱海峠"に到着しました。
このあたりまで登ってくると下界のモービル局の電波がよく聞こえるようになり、目的地がいよいよ近くなってきた感じがします。伊豆スカイラインは、富士・箱根・伊豆国立公園地帯を走るドライブウェイで、熱海峠~玄岳~韮山峠~山伏峠~亀石峠~冷川を経て天城高原(終点)まで伊豆半島の尾根を縦走する延長40.6kmのよく知られた観光道路です。
カラーSSTVが普及を始めた頃、通称「玄岳付近のパーキングエリア」からJASTA(日本アマチュアSSTV協会)の「ニューフェースコンテスト」(現在はアクティビティコンテストに統合)に参加したことがあり、V・UHF帯でアンテナを関東方面に向けてワンボックスカーに閉じこもりSSTVを運用した経験があります。
移動運用風景 車はスカイライン250GT
伊豆スカイラインの駐車場 静岡県田方郡函南町
雨と風の中でアンテナ組み立て
8J1AGEを運用するために静岡県田方郡函南町(かんなみ)へやってきました。ここは標高649m、関東方向へ見通しがよく移動運用好きのアマチュアが利用する場所として知られています。本コラムNo.50「8J1AGEとNA1SS 13の質問とこたえ」で述べ たように、国際宇宙ステーションとの交信に大成功を収めた8J1AGE(青山学院初等部アマチュア無線クラブ)が、免許の有効利用から有効期間の12月19日まで運用を楽しみたいと言うことで、社団局の構成員(OB)にもオペレートのチャンスが巡ってきました。
運用するバンドとモードはは50MHz帯SSBと430MHz帯FMとSSBを選びました。HF帯はCWの遣い手が山梨県山中湖村に集結しており、ローバンドはそちらにお任せして玄岳方面は50MHzと430MHzを運用することにしました。到着現場は小雨が降り続きコンディションは最悪でした。せっかくやって来たのだから明日の移動運用に備えて演習のつもりで430MHz帯の八木アンテナ(マスプロ 435WH15)を組み立てることにしました。
430MHz 16エレメント八木アンテナ
アンテナを収納袋から取り出してエレメントをブームと直角に並べ、蝶ネジを締めて固定するだけで組み上がります。次に車のタイヤで踏みつけてアンテナマストの基台にする"オリべぇ~"(商品名)を据付ました。これに32φ、2m×3段の伸縮アルミパイプを立てて、430MHzのアンテナを取り付けました。防水ジャンバーを着込んでいても強い風が吹く中の孤独な作業はあまり楽しくありません。そこへ突如、現れた野良犬が人恋しそうにふらふらと寄ってくるではありませんか、ここでなつかれても困るので知らぬ顔でやり過ごしました。
タイヤで踏みつけるアンテナ基部
高い山は聞こえすぎて困る
433.00MHz FMモードを受信しました。どの周波数にまわしてもメリット5(RS59)の強い信号ばかり、トラック・ドライバーの皆さんが手馴れた様子で交信していて空いている周波数を見つけられません。10分ぐらい注意深く聴取して「この周波数はお使いですか」と送信すると、例外なく「使っているよ」と、すぐに返事が返ってきます。明らかに交信していなくても待機中なので使うなという意思の表れなのでしょうか。「失礼しました」と引き下がるしかありません。
標高の高い山なら電波の飛びも抜群と思い込んだ誤りに気づいて冷水をかけられた思いがしました。地上では同一周波数でも混信を受けない範囲で複数以上の交信が成立していても、山の上からではサテライトと似た特性から各地の電波がなにもかも聞こえてきますので、トラブルの基にならないよう注意深く運用しなくてはなりません。この時、なぜか呼び出しの「CQ」を聞くこともなく、普通の交信はきっかけがつかめないまま時間を無駄に費やしてしまいました。明日の土曜日に期待してアンテナの撤収に取り掛かりました。
この後、「東京オールド一泊ミーティング」に参加するために会場の箱根・強羅のリゾートホテルに車を走らせました。「東京オールド」の前身は「JMHC東京」といい、現在はJMHCの冠を外して対外交流を取りやめメンバー間の親睦を中心に、年に一度のミーティングを箱根で開くのが恒例になっています。
今回の参加は、JA1AT、JA1HM、JA1ID、JA1JL、JA1AOR、JA1AOU、JA1AQA、JA1BKG、JA1BZF、JA1DOU、JA1EQI、JA1ESV、JA1FUY、JA1UVQの14局でした。
折から週刊BEACONの「VUの開拓からモービルへ」の記事が話題になり、No.1~28までのプリントが参加者の間で回覧されました。モービルハムの創世記に活躍されたOMたちだけに当時を懐かしく振り返り、多くのエピソードが語られました。
一人移動運用の始まり
翌日、朝食を済ませて一人ホテルから抜け出して再び玄岳に向かいました。カーナビに行き先を"伊豆スカイライン玄岳"と入力してガイドの通りに車を走らせると、迷わずに熱海峠を経由して伊豆スカイラインの入口に到着しました。この日は晴天に恵まれて無線日和のよい一日になりそうです。閉鎖中の玄岳ドライブインを過ぎると目的地のパーキングエリアがもうすぐ。到着するとアマチュア無線の先客がいないことを確かめて一安心。昨日と同じ場所に車を停めてアンテナの設営を始めました。
「オリべぇ~」のクローズアップ
"オリべぇ~"とアルミパイプ、430MHz帯16エレメント八木(マスプロ 435WH15)、50MHz帯HB9CV(COMET CA-52HB4)、同軸ケーブルなどを車のトランクから取り出して組み立て作業の開始です。目の前には富士山が眺望でき、気温が15度くらいまで上昇して移動運用には絶好の日和になりました。
50MHz帯4エレメントHB9CV エレメント先端が目の高さにあり危険なので手袋を被せた!
土曜日の430MHz帯FMはどんな状況なのか、期待しながら受信を始めました。433.00MHzからダイヤルを回してみると、どの周波数も混んでいてCQを出せる状況にないのは昨日と同じ。ダイヤルを回してはため息をつくばかり、気の弱い性格に山の上は向いていないな、と苦笑するばかりです。と、呼び出し周波数で埼玉県の記念局が「CQ」を出して「432.9××で受信します」をキャッチ、すぐにコールすると8J1AGE/2に応答があり、初めて交信が成立しました。
この後、静岡市のサテライト好きのJA2×××と交信して話が弾みました。8J1AGEは臨時のアマチュア無線局であること、社団局の名称、宇宙ステーションとの交信について話しところ、テレビのニュースを見て知っておられるとのこと、個人のコールサインからMHのこと、QTC-Japanを見ている等々、思いがけない反応が返ってきました。FMモードの交信はここまで。この後、SSBモードで3局と交信して午前の運用を終えました。
50MHz帯SSBは運用しやすい!
COMET のCA-52HB4はHB9CVの原型に導波器を2本つけた4エレメントのアンテナです。エレメント長2.97m、ブーム長3.2m、重量2.1kg、ゲイン10.4dBiの移動運用に適した扱い易いアンテナとして愛用しています。はじめ430MHzアンテナの真下に取り付けるつもりでしたが、写真で見るように、地上わずか2mの高さに建てました。標高649mは高さを稼ぐ必要がないため、このような建て方でも十分と言うわけです。
8J1AGE/2のコールサインの効果はどんなものか、50.305MHz付近でCQを出すと、すぐにコールがありました。50MHzの愛好家はよくワッチされていますね、静岡県田方郡函南町の地元の局を始め、東京・千葉・埼玉・神奈川・茨城・群馬・栃木の1都6県の30局とパイアップもどきの交信を90分ほど楽しみました。DXサービスでもありませんので、「ファイブナインQSL」のような交信スタイルは避けて丁寧な交信を心がけました。
お昼過ぎに二人の友人(JH1VVW、JF1GUQ)が山梨県山中湖村から駆けつけてきて合流。手際よく430MHzと1200MHzのアンテナを建てて運用をはじめました。やはり移動運用は一人より3人のほうがにぎやかで心丈夫、差し入れなどがあって楽しさも倍増する感じがしました。1200MHz FMは交信相手がさほど見つからなくて二桁に届かず、430MHzFMは30局と交信したと聞いてびっくり。運用テクニックの差としか考えられません。
IC-706MKIIGMで50MHzと430MHzを運用した
カメラ用三脚に取り付けた1200MHzループアンテナ
あとがき
1965年~1975年にかけて51MHz FMのモービルハムに夢中になって以来の50MHz帯へのカムバックですから懐かしさでいっぱいになりました。自作の7MHz帯受信機にクリスタルコンバーターをつないで50MHz帯に入門していましたから、昔取った杵柄と言えるかもしれません。8J1AGE/2の一人移動運用は2日間を予定して、1日は悪天候の中のアンテナ組み立て予行演習に終わり、2日目にようやく計画通りに移動運用を楽しむことができました。標高の高い山から430MHz帯の運用の難しさを思い知らされ、同時に50MHz帯愛好者の昔も今も変わらないアマチュア気質に安心してQSOができたのは大きな収穫でした。