ふとしたきっかけから「IT講習会」に参加してメイン講師を務めた体験を2度にわたりOnlineとーきんぐ(No.11、No.15)に披露しました。今回はその延長線上ともいえる新しいシリーズ「広報誌づくり教室」の講師を経験しましたので、その様子をご紹介したいと思います。広報誌と言えば冊子の編集と出版ですからいわば私の専門分野となりますので、Y公民館のN館長から「講師を引き受けてくれないか」の打診に快諾しました。

某日、生涯学習センターのロビーでN館長の面談がありました。「広報誌づくり教室」の講師を任すに当たり、さりげなく人物審査を行っているとわかりました。「新入社員の教育経験は?」などと、しっかり探りを入れてきました。雑誌と書籍の出版に携わって30年余、月刊誌の編集長をつとめた等々をPRしておきました。ボランティア活動なので報酬をもらいたいわけでもなく、PTAや自治会の広報誌を担当する方に出版のコツを伝えたいと言う気持ちが先行して、お役に立つなら一汗かいてみようという心境でした。

「広報誌づくり教室」が開かれたY公民館

N館長の新しい構想とは

昨年まで続いた「広報誌づくり教室」を今風に改革したいというのがN館長の構想でした。今風とは編集講座にパソコンを導入したいということで、昨年までは上手な文章作成に重点が置かれたありきたりの編集講座であったらしく、いままでのテキストを手に入れて目次を眺めてみたところ、いわゆるエディター・スクールが行う短期集中講座のようなスタイルで、パソコンに関する記述はどこを探しても見当たりませんでした。

「だからと言ってパソコン講座にはしたくないのです」
「ごもっとも」
「IT講習会とは一線を画したい・・・・」
「パソコンによる文章作成とレイアウトくらいは触れておきましょう」
「2、3時間の講座を2回くらいでお願いしたい」

このようなやり取りから「広報誌づくり教室」を引き受けることにしました。さて、どのような講座に仕上げようか、カリキュラム(教科課程)の構想に取り掛かりました。

パソコンをどこまで取り入れる?

高齢者が多いと予想して、受講者が耐えられる時間を考えて日曜日の午前2時間、昼食をはさんで午後2時間としました。時間が長ければ良いと言うわけでもありませんし、編集・整理・レイアウト・校正・印刷など出版に関する編集知識は膨大になり、さわりだけを教えて欲しいと言われても数時間で教えられるものではありません。

「広報誌づくり教室」の講義風景

どのようなカリキュラムが受講者に喜んでもらえるか考えてみました。まず、N館長の構想に添って「文書作成」と「パソコン編集」の二つの項目に大きく分けるところから始めて「文書作成」を編集の基礎と位置付けて冊子の企画から原稿依頼・取材・割付・見出し・写真撮影とトリミング・校正・印刷・製本などを網羅しました。

ここでN館長の要望に添ってパソコンのワープロ機能を使った編集会議や原稿依頼、レイアウト(割付)を加えてみました。パソコンを使う効用として、製作コストの低減・美しいレイアウトの実現・製作時間の短縮に貢献すると紹介しました。

パソコンに取り組む受講者

応用例として、デジタルカメラによる写真撮影とパソコンへの取り込み、トリミングについても触れました。編集会議にML(メーリングリスト)や掲示板を使うと会議にわざわざ出かけなくても、いながらにして打ち合わせができると説明しました。さらにWebサイトの運営は即時性に優れているため、将来的に活用の道を探ってはみてはどうかと提案しました。

表現の自由と発行人・編集人の役割

当初から広報誌の発行人・編集人の役割について時間を割いて話しておきたいと考えました。自治体、自治会、PTA、クラブなどいずれの広報誌でも、発行人と編集人が存在すること。編集者は発行人と編集人の意向に反して記事を作成できないこと、それゆえに編集会議できちんと方針を確認してから取材に取り掛かることが大切と説きました。

というのも新聞を注意深く見ていますと、例えば「PTA広報 見栄えより表現の自由を」(大木 薫 朝日 7月27日 朝刊)という記事が目にとまりました。筆者はPTA広報の講習会で講師を務めて十数年という方で、「最近、気になるのは個人情報の保護を盾に学校側が広報の表現に口をはさむ事例が増えている」と疑問を投げかけていました。

それによると「思うように作れない」「原稿を必ず教頭に見せなければならない」という主旨で、アンケートの各項目まで細かくチェックされたとか、校長から生徒の顔がわからない写真を選ぶように言われて開いた口がふさがらなかったと言います。

この講座のために作った新テキスト

"依頼原稿のボツ"をめぐる相違点

最近、地方自治体の広報紙にイギリス人女性が書いたコラムの原稿が「意見や主張を載せる欄ではない」としてボツになったと報じられ大きな話題になりました。この場合も「広報誌といえども表現の自由を担う一翼だから、意見や主張も含めて多様でバラエティあふれる紙面が望ましい」と、朝日の声欄(朝日9月23日)に載りました。

息子さんが通う高校のPTA広報紙の責任者を務めているという筆者は、「広報は発行する側の一方通行になりやすく、都合の悪い内容は削られがちだ」と苦い経験を披瀝しています。広報紙の責任者を務めているという筆者が発行人なのか編集人なのか、あるいは発行人兼編集人なのかが判然としませんが、PTAの広報紙である限り、学校側の理解なしに広報誌づくりが勝手に進まないことを示唆していて、複雑な内情を垣間見た思いがしました。

まとめ

N公民館からの依頼で「広報誌づくり教室」を引き受けてみて自治体やPTA広報誌が抱える悩みに関心を払うようになりました。どのような媒体であれ発行人・編集人の責務は重く、関係者とのバランスを無視しては広報誌を発行することは覚束なく、どれほどの正義があったとしても一方的な主張は対立を生むばかりで生産的とはいえないし、バランス感覚に優れた紙(誌)面構成がほめられると結論を導いて4時間にわたる講義を終えました。「広報誌づくり教室」の体験をアマチュア無線のクラブ報や会報などに読み替えていただけるとお役に立てるのではないかと思います。