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No.35 最新、中国のアマチュア無線事情
新型肺炎SARSの感染が中国の南部広東省から広まり始めた3月、上海ラジオスポーツ協会の招きで経済発展の著しい商都・上海を一年ぶりに訪れました。ノースウエストのジャンボ機から降り立った巨大な国際空港・上海浦東空港(プートン)に、近代的な装いと大陸らしさを感じさせる巨大な空港施設のたたずまいに圧倒されました。聞くところによると2010年万博の誘致に成功して新滑走路の建設を急いでいるようです。
外灘(ワイタン)から見た浦東新区の景色
浦東空港から迎えの車に乗って高速道路を経由して市街地の上海オリンピックホテルまで約1時間、人口1千3百万人の国際都市に環状線や中央線などの高速道路が整備されて交通渋滞が解消されたように見えます。今秋から本格的な営業を始めるドイツ製のリニアモーターカーを利用すると新都心の浦東新区まで20分、ここで地下鉄に乗り換えて市街地へ行くことができます。
BY4BJAがアマチュアテレビに挑戦
今回の訪中の目的がBY4BJAのATV(アマチュアテレビ)送受信テストに立ち会うことにありました。ATVの実験が中国でもBY4BJAが初めてと思われ、はじめから実験にこめる意気込みが違いました。BY4BJAは上海随一の繁華街"南京路"に近く「静安区青少年活動センター」の5階にありました。かつてここの大教室で "国際SSTVコンベンション" (1999年10月)が開かれたこともあり、日本と中国のSSTV愛好家が多数集まり、技術交流を図った思い出の多い場所でもあります。BY4BJAは上海でも有数のアクティブな局としてサテライト通信やEME通信に成功するなど意欲的な取り組みで知られています。
左からBY4AA、BY4BJA、BA1HAM、BA4AA(BY4BJAにて)
近くの小学校に向けて音声と共に映像を送りたいという意欲的な室内テストになりました。たまたま北京のBA1HAM陳平(チェン・ピン)さんが立ち寄られていて、ATVの送受信テストを興味深げに見守っておられました。陳平さんはかつてCRSA(中国ラジオスポーツ協会)の秘書長として活躍された方で、その後ARDF部門に移られましたが、最近では北京で初の"アマチュア無線フェスティバル"(5月5日ごろ)を開く予定で奔走しておられました。その後、SRAS騒ぎで中止に追い込まれたようです。
首尾よくATVの室内実験に成功したBY4BJAは、RTTY、PSK31、SSTV、パケット通信、サテライト通信、EME通信などの運用経験を通して技術を蓄積、後進の指導に重要な役割を果たすに違いないと確信しました。ATVの実験の合間にシャックを訪れたところ、ICOMのHFトランシーバー IC-756PROⅡがデスクの中央に大切そうに据え付けられていました。香港から最新型のトランシーバーが自由に買えるようになったということで、経済力の向上と共に自力で歩み始めた中国のアマチュア無線の姿を目の当たりにしました。
アマチュアTVの送信と受信のテスト風景
中国版アマチュア無線ハンドブック
手もとに中国版の "アマチュア無線ハンドブック"ともいうべき「無線電通信」があります。童效勇(BA1AA)さんと陳方(BA4RC)さんの編著、A4判233頁、(北京)人民郵電出版社から出版されており、1995年の初版から版を重ねて4版(2000年5月)16,000冊を発行したと記されています。内容はアマチュア無線全般の解説や資料を網羅していて全アマチュア必携の一冊となっています。この本の中で注目したのは、クラブ局の一覧に開局した日付が入っていること、無線従事者の資格と資格別コールサインの制度などが詳しく解説されていて、外国人には大変に貴重な資料に映りました。
中国のアマチュア無線ハンドブック「業余無線電通信」BA1AA、BA4RC編著 人民郵電出版社
アマチュア無線の再開はBY1PKから
- BA1CY、BA4ABらオールドタイマーが革命前に活躍されたのが1940年代。その後、新しい国づくりの過程でアマチュア無線の禁止が続きました。BY1PK(北京)の開局が1958年11月、5年後にBY1BJ(1963年10月)の開局が続いたと記されているものの、実際に解禁というにはほど遠い状況にありました。内外に解禁の印象を与えたのは上海のBY4AA(1983年10月)と福州のBY5RA(1984年8月)の開局でした。
BY1PKにはJARLが無線設備の援助を行い、BY4AAはJARLと横浜市役所グループが、またBY5RAはJA1UTグループが無線設備を寄贈して開局にこぎつけました。かたわらBY4AOM(1985年9月)やBY4ALC(1987年5月)のように香港やカナダの華人の援助により開局した例もあります。無線設備を海外の友人たちに頼るのは内外の経済的な格差を考えると一番よい方法だったと思われます。上海に代表される沿海地域の驚異的な経済の発展のもとに、個人局の育成や制度の充実、社会貢献など成熟したアマチュア無線社会を目指して、これからが正念場という気持ちを強くしました。
従事者資格は4つ、通信術の速度が速い
かつてはクラブ局において管理者のもとで運用が許されましたが、現在は中国無線電運動協会が実施する試験に合格して従事者免許の取得が必要になります。1988年に制定された無線従事者のクラス別資格試験の概略を挙げておきます。
- 1級オペレータ:
1.国際法規・国内法規
2.送信機と受信機の基本原理と操作、アンテナ、電波伝播
3.通信術90字/分~70字/分 日常英会話ができる者80字/分~60字/分
2級オペレータ:
1.国際法規・国内法規
2.送信機と受信機の基本原理と操作、アンテナ、電波伝播
3.通信術80字/分~60字/分 日常英会話ができる者70字/分~50字/分
3級オペレータ:
1.国際法規・国内法規
2.送信機と受信機の基本原理と操作、アンテナ、電波伝播
3.通信術70字/分~50字/分 交信英会話
4級オペレータ:
1.国際法規・国内法規
2.受信機の簡単原理と操作
3.通信術50字/分 交信英会話
- 1~3級は通信術を除いて日本の1~3級とほぼ同じと考えるとわかりやすいと思います。1級(500W)と2級(100W)はオールバンド、30MHz以上は1級(50W)、2級(25W)、3級は(10W)、30MHz以上(3W)、4級がSWLとなっています。日常英会話ができると通信術の上限が10字/分引き下げられます。
中国の資格別コールサイン
1級はBAが使われます。たとえばBA1CY、BA1SS、BA4AB、BA4ADのコールサインなら1級局とわかります。サフィックスは二文字のほか、BA1AYL、BA1HAMのように3文字も珍しくありません。2級はBDが使われます。BD4AA、BD4ADのようにサフィックスが2文字のほかに3文字もあります。3級はBGが使われます。BG1AC、BG3TC、BG4AAHのように。
これからが楽しみな中国のアマチュア無線
全国にくまなく設置されたクラブ局と自宅に開設する個人局は、バブル期の日本の事情に似て右肩上がりの状況で増え続けています。ただ、一方では休止するクラブ局も出てきましたし、小中学校のアマチュア無線熱に陰りが見えてきたことなどマイナス材料が無視できなくなりました。コンテストに入賞すると進学の際に加点される特典が人気を呼びましたが、いまやその特典が廃止されてあの熱気もどこかへ吹き飛んでしまいました。アマチュア無線が好きで堪らないという若者による個人局の開設傾向が強く、経済的な裏づけと共に真の愛好家が育って行く状況を好ましく思います。1940年代に活躍されたオールドタイマーを頂点に、1級局の若い世代が続く形が頼もしく、従事者の資格制度の定着と先進的な資格別コールサインとあいまって近代中国のアマチュア無線が成長期から成熟期に入ったことを大いに喜ぶものです。