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No.30 100円ラジオ改造50MHz帯AM受信機を作る
ハムフェアの会場でJH1FCZ、大久保さん(FCZ研究所)から「クリコンを作ってみませんか、おもしろいですよ」と言いながら “100円ラジオ改造用50MHz受信用クリコン”(キット)を手渡されました。小さなビニール袋の内部には基板とクリスタル(水晶振動子)、トランジスタ、抵抗、コンデンサ、線材などが透けて見え、眺めているうちに久しぶりに半田ごてを握ってみたくなりました。
“100円ラジオ”はダイソーが発売するイヤホンで聞くタイプのスーパーヘテロダイン方式の中波ラジオです。 化粧箱の表に“AMポケットラジオ”と印刷されていて電源はDC3V(単4電池2本)、ケースを開けると内部はバリコンとIFT(中間周波トランス)、バーアンテナ、トランジスタ3石、抵抗・コンデンサなどが基板に付いていました。メイドインチャイナは昔のトランジスタ・ラジオの製造法を採用しているために後から手を入れやすく、改造可能と判断されて製作好きのアマチュアから“100円ラジオ”がもてはやされるようになりました。
AMポケットラジオの外観
AMポケットラジオの内部とクリコン(半田付け前)
AMポケットラジオを改造して50MHz帯AM受信機に!
100円ラジオの回路は公開されていませんが、FCZの忍者シリーズキット246(2,300円)の組み立て解説書に基板のパターンと回路※1がみごとに再現されています。回路はシンプルでも受信感度はなかなかで、電源スイッチ兼ボリュームつまみをオンにしてバリコンに直結の選局つまみを回すと首都圏の放送局は問題なく受信できますし選択度も十分です。これなら非常時の情報聴取用のラジオとして予備の電池とともに非常持ち出し袋に入れておくと役立ちそうです。
この中波帯ラジオ(540~1,600kHz)を“手作り大好きハム”が放っておくはずがありません。このラジオを親機にして50MHz帯のクリコン(クリスタル・コンバータ)を付けて50MHz帯のAM受信機にしようと着目したのが独創的な活動で知られる大久保さんでした。単4乾電池2本分のホルダーとバーアンテナを取り除いて、そのスペースにクリコンを挿入すると100円ラジオが「50MHz帯AM受信機」に変身するのですからいじり壊しても惜しげがありません。
クリコン回路図(FCZ研究所 忍者シリーズキット246)
50MHz帯クリコンの組み立て
50.4~50.990MHzを受信できるように「100円ラジオ改造用50MHz受信用クリコン」を作ります。クリコンの組み立て前にキットに添付の説明書に目を通しました。アマチュアはとかく説明・解説の類を飛ばして行動に移り勝ちですが、<中級>と表示のあるこのキットは、ウデに覚えがある方もよく読んでから組み立てにかかるとよいでしょう。
100円ラジオ改造用50MHz受信用クリコンの全パーツ
親機の受信周波数が540~1,600kHzですからクリコンの局部発振の周波数が49.860MHzとするとクリコン装着後の受信周波数は50.400MHz~50.990MHzになります。クリコンの基板にクリスタルやコイル、トランジスタ、抵抗、コンデンサなどを間違わないように挿しました。なんども部品配置を見比べてチェックを繰り返します。作業中に勘違いがないとはいえませんので、一休みしてチェックするくらいの気持ちが大事のようです。
プリント基板にパーツを挿したクリコン
半田付けは隣のランドを巻き込まないように注意し、組み立ては親機とクリコン間を最短距離で配線するのがコツのようです。親機が剥き出しのためにBC波(中波の放送局)の混信から逃れるのがなかなかに難しい課題になります。“BC波の混信”についてはFCZのホームページ上で実際に組み立てた方と大久保さん(JH1FCZ)が混信対策ついて参考になる書き込みがありますので、そちらをご覧ください。
IC-706MKⅡGMは素晴らしい測定器!
親機にクリコンを配線して電源スイッチをオンでイヤホンから「サー」または「ザー」というノイズを確認したら最終的な調整を残してほぼ完成したことになります。実際は50MHz帯の電波を受信してみなくてははっきりしたことはわかりません。ここで愛用のIC-706MKⅡGMの登場です。オールバンド、オールモードのIC-706MKⅡGMは50MHz帯を含むAMモードに対応していますから組み立てたばかりのクリコンの調整にはもってこいのトラーシーバーであり、高級な測定器として使うことができます。
クリコンのアンテナ端子に10cm程度のビニール線をつけておき、50MHz帯AMモードの電波を発射します。このときIC-706MKⅡGMのアンテナ出力端子にはダミーロードを接続し、出力電力を最小の1ワットに押さえておきます。50.99MHz付近で送信しながらAMポケットラジオの選局つまみを回すと強力な信号が飛び込んできました。マイクに向かって音声を入れるときれいな変調で自分の声がイヤホンから聞こえてきました。水晶発振子も正常に発振しているようです。
AMポケットラジオに組み込んだクリコン(右)
ここで発振コイルのコアを半回転ほど回すと感度が最高になりました。さらにアンテナコイル、出力コイルのコアを回して感度が上がるように調整します。次に受信可能な周波数を確認します。IC-706MKⅡのメインダイヤルを回してディスプレイ部の周波数を50.99~50.400MHzを100kHz間隔で送信して、受信周波数を確認しました。AMポケットラジオの選局つまみに100kHzごとに印をつけてダイヤル目盛りの完成です。
オールバンド・オールモードトランシーバーのIC-706MKⅡGMが手元にあるのに、なぜ100円ラジオ+手作りクリコンを作るか? と問われれば、それは久しく忘れていた“作る面白さ”を思い出したからにほかなりません。半田付けを済ませてクリコンに魂を入れたのは、日頃モービル運用に使っているIC-706MKⅡGMトランシーバーでした。正確な周波数の直読とAM送信出力の1~20W(GMの場合)連続可変、送信出力メーター(Po)などの高い性能がクリコンの調整に大きな役割を果たしてくれました。もしもIC-706MKIIGMが手元になかったとしたら簡単にはクリコンの完成に至らなかったと振り返っているところです。今回の製作に気をよくして次はAM送信機に取り組んでみたいと考えています。
※1 100円ラジオの回路図(JG6DFK/1が書き起こした)