「新しいメールを開いて書式をクリック、テキスト形式を選んでください。ここまでよろしいですか?」アウトルック・エクスプレスのHTML形式からテキストメールの変更についての説明です。続いて「ツール→オプション→送信→テキスト形式を選びます」二つのやり方を同時に教えたのはまずかったかもしれないと反応を窺っていますと、遠慮がちに「あの、よくわかりません、もう一度やってくれませんか?」と声が掛かりました。にこやかに質問を受け取り、分かりやすく丁寧に説明を繰り返します。

20名の受講者にメイン講師と4名のサポーター

IT講習第3期の募集に約4千人の応募があり、抽選で2,600人が決まりました。平均年齢は60歳くらい。30代から80余歳まで年齢の幅が広く、女性と男性の割合は7対3で女性がだんぜん優勢です。時には「この講習が終わったらノートパソコンを買います。何がいいでしょうか」と、思いつめた表情で受講者から話し掛けられることがあります。講師はブランドや機種を特定して推薦できないことになっていますので、パソコンショップでお尋ねくださいとしかいえません。この答えに満足できない方には「予算で決めてください」と言いますとたいてい引き下がってくれます。中古か新品かのお尋ねには「初心者は中古を避けたほうがいい」と答えるようにしています。

IT講習は午前と午後、夜間のコースを設けています。ほかに障害者のためのコース、高齢者のための出前コース、外国人向けのコースなども用意されています。市民講師に160人が登録していて、15人一組でメイン講師3名とサポーター12名が10~12講座を担当します。メイン講師には自己申告で就任でき特別な審査はありません。メイン講師は講義を統括しテキストに添って3時間/日×4日間、計12時間、サポーター4名と共に講義を進めます。また、IT講習ではローマ字入力を推奨しています。アルファベット26文字と数字の1から0は、ひらがな50音+アルファベットと数字より覚える数が少なくていいなどと説明しますが、URLやメールアドレスに英数字が頻繁に使われると話しますと、受講者はローマ字入力に納得して取り組んでくれます。

パソコンの操作技術や利用方法を教えるほか、質問に対して明確な答えを返し、パソコンの操作に「難しそう」「壊してはいけない」などの苦手意識を払い、身近に感じてもらえるよう努めます。パソコンとインターネットを使って様々なデータを集めたり、電子メールを使って遠くの人と連絡を取り合ったりすることがITの特徴と説明し、ホームページの閲覧と検索、文字チャットやインターネット電話、ショッピング、ホテル・飛行機・新幹線の予約等の実例を示してパソコンの面白さや便利さを実感していただきます。講師によっては「パソコンと遊ぼう」とか「パソコンに親しもう」という切り口で授業を進める方もおられます。

授業は「パソコンの基本操作」「文字の入力」「インターネットの利用」「電子メールの利用」の4つの章から構成されていて、それぞれに3時間割り当て4日間掛けて教えることになります。これまでパソコンに無縁であった人が、パソコンの電源スイッチを入れてMSワードを立ち上げて文章を作成し、閉じるボタンでワードを終了して、スタートボタンからWindowsの終了ができるようになります。習得が難しいのはマウスの使い方です。クリックと右クリックの使い方、ダブルクリックを苦手とする方には、右クリックでプルダウンメニューから「開く」をクリックするようにを教えます。つまり(シングル)クリックで済むために、指を素早く動かせない方には、ダブルクリックを無理に教えなくてもよいでしょう。ドラッグはペイントで絵を描きながら身に付けます。文字入力はメモ帖で文章作成を体験した後、MS-Wordにより日本語変換システムMS-IMEを起動して文字入力の練習を行います。

難関を乗り越えて

高齢者はいったん操作を理解しても、再び繰り返す頃には忘れてしまい勝ちで、そのときは何度でも繰り返し手順を教える事にしています。忘れることを恥じたり、中には長い人生経験が通じないもどかしさを感じる方もおられます。「正しく操作したのにおかしい」「間違いはないはず」と訴える方もおられますが、「ほらここが違っているでしょう」とやさしく接するようにしています。どこに間違いがあるかは指摘されるまでは、なかなか気付かないようです。また一方では褒める効果も無視できません。「ずいぶん上達しましたね」「もう大丈夫です」「すっかりパソコンをマスターされましたね」と一人一人に声をかけるようにしています。これは受講者の励みになっているようで、パソコンやインターネットへの不安を和らげる効果があります。

講師には指導要領を記述した「講師用マニュアル」が配られています。「下手なごまかしや曖昧な回答は講師への信頼をなくし、さらにはIT講習自体の信頼喪失にもつながりますので誠実な対応を心がけてください」という一節があり、これを読んだ時にはじめて教える立場の厳しさと、誠実な取り組みが望まれていることに気付きました。そのためには基礎知識の隙間を埋めるために、「パソコン用語辞典」などを買い込んできて目を通す努力が必要でした。結果、これまでの実用一点張りのパソコンオタクから抜け出す良い機会となったのも事実で、教えるつもりが逆にIT講習から教わっていました。

会場にはISDNかCATVのどちらかの通信回線を引いて講師用1台、受講者用20台の計21台のパソコンにルーターを経由して接続します。ここにアイコムの無線LANを使えば、IT講習会でのセッティングも配線に煩わされることもなくスッキリと片付きますので、これはお勧めです。お試しください。