「松下幸之助氏が飛躍するきっかけとなった二股ソケット、本田宗一郎氏が戦後ヒットさせた原動機付き自転車、井深大氏が創業したソニーの基礎を築いたテープレコーダーとトランジスタラジオ」等々、西暦1,000年から2,000年にかけての名経営者を称える記事(朝日8.28)に目を通しながら、「井上徳造氏が創業したアイコムの基礎を築いたハンディの傑作、IC-2N」の一文が浮かびました。

それまでのポータブル機とは違う本格的なハンディ機の出現でした。周波数の選択をサムホイールに置き換えたシンプルなデザインと小型化、そして驚異の価格設定がアマチュアの心をしっかりと捉えました。おそらく当時のアマチュア無線家のほとんどがIC-2Nを腰のベルトに挟んで持ち歩いていたと思われ、アマチュア無線の普及に一段と加速度を加えた歴史的な偉業だったと称えられます。今思い返してもあの爆発的なヒットが松下の二股ソケット、ソニーのテープレコーダー同様、企業発展の礎になったと知ることができます。

日本のハムフェアと並んで有名なハムの祭典に「デイトン・ハムベンション」があります。今年はミレニアム特別イベントとして「ARRL NATIONAL CONVENTION」が同時に開かれイベントが盛りだくさんで例年にない賑わいを見せました。ハムベンションの魅力は何といいましても日本メーカーを始めとする内外の企業による最新モデルの展示と即売、それに米国ならではのベンチャー企業のアイデアあふれる機材にお目にかかれることにあります。そして、ハムベンションを日本に喧伝させた第一の功績は、世界的規模と称せられるフリーマーケットにあるのは事実で、何が手に入るか目利き次第という買い物の面白さが人気を呼んでいます。

会場のハラアリーナーは空港から車で30分ほどの距離にあります。メディアセンターに立ち寄り取材の受け付けを申し出ると、報道用のコールサイン入りバッジと帽子、駐車券などが手渡されます。広報係りの婦人がしきりと「ミィディア」を連発しますが、カタカナ英語のメディア(Media)と気付くまでしばらく時間がかかり、本場の米語に触れた瞬間を笑い話として取材仲間の間で長く語り継がれています。今回はそのミィディア・センターから毎年の取材活動が認められて「感謝状」のようなものをいただきました。

初日は屋外のフリーマーケットから取材をはじめる事にしています。高周波関連のパーツに見るべきものが多く、行くたびに自作心を刺激されて取材の合間にあれこれ買い込んでしまいます。駐車スペースを利用した2千を超える青空ブースを見てまわり20本を越すフィルムを撮り続けます。取材にくたびれると木陰で冷たいビールと熱々のソーセージをほおばって一休み。疲れが癒えると今度は屋内の展示場に向かいます。

普段はなかなかお目にかかれないメーカーが出展していますので興味津々です。Patcomm、Heil SGC、TIMEWAVE、KACHINAなどなど、新製品に的を絞り撮影と資料の収集を続けます。電子パーツを売る販売店も見逃せません。黒山の人だかりをかき分けてのぞきこんでみますとBull Dogの愛称もかわいらしい超小型マニピュレータ(19.95ドル)を見つけ、思わず衝動買いしてしまいました。

日本企業は殊のほかブースが華やかで目立ちます。ICOMのブースを見つけました。分厚いマニュアルを抱えた技術説明員が正面に陣取って質問や相談にてきぱきと答えています。居並ぶ説明員が申し合わせたように立派な髭を蓄えていて威厳があり、信頼感が漂います。分厚いマニュアルを手元に用意して即座に対応する姿勢にユーザーを大切にする気持ちが汲み取れます。

ハムベンションがユーザーと触れ合う場所と位置付けて、ユーザーとの対面を重視する姿勢と受け取りました。相談、提案、苦情・・・・いずれも製品開発の重要なヒントを含んでおり、さすが伸びつづける企業の姿勢は一味もふた味も違うと感嘆しました。米国の某アンテナ企業のブースで補修パーツをめぐりメーカーと販売店の間でたらいまわしされた苦い体験から、アイコムの姿勢に企業の良心を見出してすっかりうれしくなりました。

日がめぐりハムフェア2000/JAIAフェアでは、アイコムのブースで「Iuse HFサポート」に出会いました。ユーザーの提案を受けてIC-756PROの2種類のスペシャルROMの開発と発売につなげるなど、早くもサポート効果が目に見えてきました。デイトンハムベンションの思い出と重なり清々しい気持ちになったのはいうまでもありません。