「デイトンハムベンション」のARRL EXPO出版物の即売コーナーで2冊の書籍を買ってきましたので、今回はそのうちの一冊、「LOW PROFILE AMATEUR RADIO」セカンド・エディション W1AB、Al Brogdon著 を紹介したいと思います。A5判 本文57頁+Notes、19.95ドル。“どこからでもオン・エア!”(Operating a Ham Station from Almost Anywhere)のサブタイトルに引かれました。

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「LOW PROFILE AMATEUR RADIO」 ARRL刊 19.95ドル

米国のハムが、ハムベンションの会場でBuddipoleアンテナを組み立てて、バッテリーを電源にして運用を始める光景を見かけましたし、バックパック・モービルがホイップ・アンテナをなびかせてフレア・マーケット(Flea Market)の会場を往き来している姿にも幾度となく出会いました。ハンドヘルドの運用とあいまって “どこからでもオン・エア!”の好きな国民性を見た気がしました。もしかして、米国人のアマチュア無線への思い入れを知る一冊になるかもしれません。訳文に関しては、米語に精通しているわけでなく、単にアマチュア的英語を槍に代えて風車に突き進むドンキホーテのような役回りに過ぎないことを、始めに断っておかなければなりません。

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どこからでもオン・エア!(バックパック・モービル)

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どこからでもオン・エア!(ポータブル・オペレーション)

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どこからでもオン・エア!(道路に座り込んでのんびり交信)

[ロー・プロファイルってなに?]

薄い本をぱらぱらとめくり、目に付いた写真やイラストに違和感がなく、取り組みやすいと感じた一冊なのに、LOW PROFILEの訳文につまずいてしまいました。辞典には「輪郭、横顔」などとありますから「アマチュア無線の横顔」「アマチュア無線の輪郭」となるのか、ふむふむ、なんとなく分かるけれど日本語としてはちょっと納得できません。「アマチュア無線のプロフィール」とカタカナにしてみると、意味がぼやけて、良い感じ・・・と思ったのも一瞬で、LOWを訳さずどうするということで、この案はあえなく却下。後にLOW PROFILEの深い意味を知ることになるのです。

はじめにYahoo翻訳−テキスト翻訳、翻訳@niftyのいわゆる機械翻訳に頼ってみました。LOW PROFILE AMATEUR RADIOを入力して、 [翻訳する]をクリックすると、いずれも「控えめなアマチュア・ラジオ」となりました。しかしながら、これが正しい訳文とはいえません。Googleに、Low Profile DX Contesting を入力すると「控えめにDXを争う」と出ました。Low Profile Towerが「控えめなタワー」で、頭を抱え込むばかり。もしかして、ネーティブ・スピーカー(言語を母語とする話し手)でなければ分からない、感覚的な表現ではないかという疑いが浮かんできました。

そこで、アメリカ・シアトル在住15年目のWB6Z /JE1PTZ 古谷さんにLOW PROFILEの訳文についてご教授をいただきました。氏はCQハムラジオで「実用QSO英会話」を連載した実力派ですから、きっと良い答えをいただけるに違いないと期待しました。ほどなくしてA4判2枚にわたる電子メールが届き、目からうろこが落ちる思いになりました。

[カタカナ表記はどっち?]

PROFILEのカタカナ表記をお尋ねしました。ネーティブ・スピーカーの二人の息子さん(K7NTO、W6RKU)が「プロファイル」と発音しているとのこと。日本ではプロフィール(人物紹介、横顔など)が一般的ですが、コンピューター用語にプロファイル(各種設定情報の集まり)があります。英語ではプロファイルとプロフィールは同じ単語ですからややこしくなってきました。次に、古谷さんの解釈を紹介したいと思います。

[ロー・プロファイルの意味するところ]

機械翻訳の「控えめな」はネガティブな意味が強すぎると思いますが、昨今の米国住宅事情ではその意味も充分あると思います。「派手な」キャンペーン等で注目を集めるのはhigh profile、「地味な」はlow profileとなりますが、日本語ではネガティブ過ぎます。最近の薄型TVやパソコンも「省スペース」の意味でlow profile PCと呼ばれます。逆に「でかい」をネガティブにとらえると「high profile なTV」の表現になります。

ARRLのこの本では、単純にこそこそっと、ささっと、簡単に目立たなくやるだけでなく、何となく「都会的なロー・プロファイルなアマチュア無線の楽しみ方」的な都会的ステルスな無線をやってしまおうという気がします。サブタイトルの「どこからでもオン・エア!」からもスーパー・ビッグ・ガンではない、アマチュア無線の楽しみ方の記述があるのかな?という気がします。

My Favorite Low-Profile HF Antenna System」は、小型アンテナの紹介であれば、「お気に入りのステルス系HFアンテナの紹介」なのかもしれません。日本で言う「アパマン・アンテナ」を見えない爆撃機・ステルスになぞらえて「ステルス・アンテナ」と呼びます。威力があればなおさらですし、屋根裏にマルチバンド・ローディング・ダイポール・アンテナあたりはもちろん、トライバンド3エレメントを押し込んでしまう、正にステルス爆撃機のつわものもいます。

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W1ABのHFダイポールの片側は屋根裏に収納(LOW PROFILE AMATEUR RADIO 11-2 図6)

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屋根裏にセットした10mダイポール・アンテナ(LOW PROFILE AMATEUR RADIO 付録A 、図5)

V/UHF系にも「ロー・プロファイル」があるのが不思議に思えるかもしれませんが、CC&R(Covenants, Conditions and Restrictions=コミュニティー規定)等では、衛星ディッシュはもちろんご法度ですし、TVのVHFアンテナでさえ許されません。そうした背景から、ベンテナ(Ventenna=ベンテナ)と呼ばれる排気パイプに見せかけたアンテナがあるほどです。

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風見鶏の内側にさりげなくセットした2mのループ・アンテナ(LOW PROFILE AMATEUR RADIO 17-3 図40)

[目次はこのように]

はしがき

ARRLのCEOデヴィッド・サムナー氏(K1ZZ)は、「この本は、CC& R制限内のHFアンテナをインストールする方法を学習するのを助けるために情報を示し、HFアンテナおよび作動について議論、実験によってカット&トライを学び」「HFのための目立たないアンテナを紹介し、加えて、この本は目立たないハミング(hamming)および運用モードについて詳述します。」と核心に迫る内容を紹介。

ARRLについて

1. 導入部

2. この本の概観

3. CC&R−A 現代のジレンマ

CC&R=コミュニティー規定では、衛星ディッシュはもちろん、TVのVHFアンテナでさえ許されません。CC&R施行の例、W3LPLとCC&Rsの話が盛り込まれている。

4. お気に入りのステルス系HFアンテナの紹介

ワイヤー・アンテナのためのアンテナ・チューナー、SGC-237、MFJ991、MFJ-941Eを紹介し、スクリュードライバー・モービルアンテナを装着したモーターサイクル、パラレル・ダイポール・アンテナ、MFJ-1622(40m〜2m)、木造家屋の2階室内に設置したMFJ-1621アンテナ+100WでWAS、WAC、DXCCをゲットしたN5JED。コンパクト・ループアンテナMFJ-1786を紹介。

5. HFアンテナのための給電線

同軸ケーブルの給電、給電線のバランス、単一ワイヤーの給電線の実例を紹介。

6. 極度に単純化したアンテナ理論

簡単な数式計算、単純なグラフ、複雑なグラフ

7. 目立たないHFアンテナを屋内と戸外

HFバンド80〜20メーターの使用法、グレー・ライン経由のDX交信の一例、室内のアンテナ、アパートの2年、屋外アンテナ、目に見えないアンテナ、夜行性のアンテナ

8. 無敵アンテナ...そしていくつかのバリエーション

無敵アンテナ、東部沿岸地方、ナンタケット島、カナダのニューブランズウィック、ヒルトン・ヘッド島/南カロリナ、アビモア・スコットランド、セント・マーチン島、無敵アンテナの結論。

9. ステルス・ワイヤー・アンテナ

10. 変装したアンテナ

11. HFワイヤー・アンテナを屋内へ

12. アンテナ・チューナーの紹介

13. スクリュー・ドライバー・アンテナ

14. HFのためのコンパクト・ループ

15. HF運用の先端

16. QRP、あるいは、QRPでない

17. 目立たないVHF/UHFアンテナ

18. アマチュア無線の秘匿

19. 固定局運用の代わりとしてのモービル

20. 発言を終えて 付録

[あとがき]

「Low Profile」を感覚的な表現と言い切り、CC&R(コミュニティー規定)が背景にあると言い当てたのは、さすがと言わねばなりません。古谷さんに相談したときは本当に手詰まり感が強くて、本書の紹介を投げ出したい気分でした。読み終えて、真っ先に思い当たるのは、QSTなどアマチュア無線雑誌にアンテナ・チューナーの広告が多い理由と、アンテナ・チューナー好きの米国の事情を分かったような気がしました。

お国が抱える事情、環境、文化的な背景を抜きにしてアマチュア無線を語ることができないということでしょう。日本でも住環境の保全が徐々に厳しさを増す中、Low-Profileなアマチュア無線が、今以上に求められる日がやってくるはずです。目を通しておいて損のない一冊として推薦しておきます。(本書はARRLのWEBサイトから購入できます。http://www.arrl.org/