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No.94 D-STAR in デイトン・ハムベンション2008
デイトン・ハムベンション2008は米国オハイオ州デイトン市の郊外、Haraアリーナーで5月16日(金)、17日(土)、18日(日)の3日間、全米のアマチュアを集めて開かれました。デイトン地方名物の激しい降雨や竜巻などに見舞われることなく天候に恵まれたハムベンションになりました。昨年はシカゴ空港での乗り継ぎに失敗して最終便でデイトン空港にたどり着く最悪の事態を体験しましたが、今回は乗り継ぎに2時間以上の余裕を見てフライト・スケジュールを組み、デイトン空港へ無事に到着できました。
2008年のハムベンションはアイコムが新製品HF/50MHzトランシーバーIC-7200を公開して人気を集めました。また、会場にD-STARのレピーター(W5DIT)を設置して日本の三つのレピーター(JP1YIW、JP2YIG、JP3YHJ)をオンラインでつないで交信が行われました。D-STARレピーターはテキサス・インターネット・チームのブースにあり、さまざまなサポートを行っていました。購入したばかりのIC-91AD(144/430MHz デュアルバンドデジタルトランシーバー)を持ち込み、D-STARの設定を係員のWD5ERDフレッドさんに依頼する様子を目の当たりにして、D-STARへの関心の高まりを感じました。
ハムベンション2008のガイドブック
ICOM HF/50MHzトランシーバー IC-7200(新製品)
ICOM HF+50MHz+144MHz+430MHz100W トランシーバー IC-7000
D-STAR Digital dual band transceiver IC-91AD(米国仕様)
D-STARによるハムベンション会場と日本を結ぶ
米国へ出かける直前、「D-STARレピーターがデイトン・ハムベンションに設置」のニュースを知りました。会場に特設したD-STARレピーター(W5DIT)と日本のレピーターをオンラインで結び、米国のハムと日本のハムが交信するという企画が進んでいました。結果は大成功を収めました。
テキサス・インターネット・チームのブース(101、102)を訪ねるとW5DITのレピーターが目の前で稼動しており、立ち寄る人にD-STARの仕組みを丁寧に説明して好感がもてました。壁面に大型の液晶ディスプレイがあり、レピーターにアクセスしたコールサインを履歴として表示、どの局が出ているかが分かります。ここで顔見知りの技術者Mさんと安田さん(AD6GZ/7M3TJZ)にお会いしました。安田さんは交信の立会いに来られたということで、明日に備えて打ち合わせが続いていました。また、No.96-98のブースにもレピーター装置や全米のネットワークなどの展示があり、説明者が常駐していました。筆者(NV1J)はアメリカ仕様のIC-91ADでカーチャンクをしてみると、ディスプレイにコールサインが残り、電波が届いていることを確認しました。
W5DITレピーターにアクセスした履歴が表示される。NV1Jは下から8番目の行に
テキサス・インターネット・チームのWD5ERD フレッドさん
D-STARの交信当日
朝からIC-91ADでワッチしていると英語による交信に混じってドイツ語のおしゃべりが流れました。大型ディスプレイでアクセス履歴を見るとHB9IBI、DO3DLのコールサインを見つけました。ドイツのHiberling Radioの人たちでしょうか? KF0X、KB8SSH、K6BIV、K7DXなど米国のコールサインに混じってVE3GWQ、VK3EUL、F4DIAなどカナダ、豪州、フランスのコールサインも見られました。レピーターの周波数は440.60MHzで+5MHzでした。日本の局はJA3など2局のCQを聞いてコールしてみるが応答がなく、残念ながら交信に至りませんでした。
デイトンは16日(土)09:30(米国東部時間)、日本は5月17日(土)22:30(JST)より、デイトン・ハムベンションの会場と日本との間で、D-STARによる交信が行われました。YLのモーリーンさん(KD7QDZ)がオペレーターを務め、日本の20局余と交信に成功したということです。アルプス・スタンドに飛び入りした時は、交信直後の緊張した空気が漂う中、スタッフが健闘を讃えあい喜びに包まれていました。一方、にわかD-STARユーザーのNV1JはIC-91ADのバッテリー上がりで充電中というきわどい状況にあり、お昼からサービスにつとめるという安田さんに期待して、D-STARへのアクセスをあきらめました。
米国の70cmバンドは420MHz〜450MHz、日本は430MHz〜440MHzですから相互運用協定による日本の免許では440.6MHzは運用できませんし、日本仕様のトランシーバーはバンド外となり操作ができません。ただし、FCC(連邦通信委員会)から米国のコールサインを与えられた日本人なら米国人ハムと同じように運用できるのは当然です。日本でもARRL/VECとW5YI/VECのチームがFCCアマチュア・ライセンスの試験を行っていますので、こういうときのために取って置かれると良いでしょう。
次にD-STAR以外の話題にも触れておきたいと思います。
ARRL EXPO 2008でVEパッチと書籍を購入
パッチ(Patches)はつぎはぎ、当て布の意味ですが、ここでいうVEパッチはARRL VECの標章で、ジャンパーなどに縫い付けてVE(ボランティアの試験官)の身分を明らかにします。VEパッチは本の売り場で丸型(5ドル)、横長の小さいサイズ(3ドル)をお土産として各3枚ずつ買い求めました。ARRLはNo.800-808の広いスペースに「ARRL EXPO 2008」を開催しました。
メーンはブックストアです。ここにARRLが発行する書籍がすべてそろい、ロゴが入った帽子・Tシャツなどのグッズが山積みになって飛ぶように売れていました。日本では「缶バッジ」というのだそうですが、直径32ミリの丸型のボタンがガラスの器にFREE GIFTとしておいてあり、記念品として自由に持ち帰ることができました。「ARRL EXPO と DAYTON」の文字が入り、年号と色・デザインが年毎に変わります。よい記念品、お土産になりますので友だちの分もいただいてきました。ここでの買い物は「RFI BOOK 2nd Edition」とFCCアマチュア・ライセンスの受験本「テクニシャン、ゼネラル、エクストラの「Q & A」の計4冊を友人のお土産として購入しました。
ARRLのトートバッグ
ARRLの受験本3冊(TECH/GENERAL/EXTRAのQ & A)
ARRL/VECの標章
ARRL EXPO 2008のバッジ
バッグパッカーが勢ぞろい
バックパック(リュックサックと同意語)を背負って移動することから「バックパッカー」と呼ばれますが、アマチュア無線では、バックパックに小型のHFトランシーバーとバッテリーを詰め、大型のホイップアンテナを身体に固定して歩きながら送受信する人を指します。フレアマーケット(蚤の市)の会場で軍用機を背負ったアマチュアが歩き回って人目を引いていましたが、ここに来てバックパッカーが急に増えたように思えます。
小型のHFトランシーバーの普及がその一因ですが、2日目の午後2時を過ぎるとHaraアリーナーの入り口付近にBuddipoleのW3FFを慕うように、バックパッカーが集ってきました。その数20名くらい、互いの装備を自慢しあっていました。無線機を装備して歩き回る姿が珍しいらしく地元テレビ局の取材を受けていました。大勢の見物が取り囲む中、記念写真を撮りあいバックパッカーの絆を確かめ合っているように見えました。
HFバックパッカーの記念撮影
あとがき
広い会場を歩き回っていると思わぬ人に出会うアイボールQSOの楽しみも格別なものがあります。一方では会場の内外でフォーラム(公開討論会)やDXミーティングが活発に開かれにぎわっていました。大いに興味がそそられますが、いつもながら早口の会話を聞き取れないのが残念です。個人的には「ソフトウエア・ラジオ」「キット組み立て」「D-STAR」「TAPR DIGITAL」「QRP」「SSTV」などのフォーラムに関心がありました。
2日目の早朝、開場を待っていると突然、日系二世のイナミさん(W6GSR)から声をかけられました。初対面の挨拶を交わした後、「なぜ、日本ではガソリン税の値下げに反対するのか?」という問いかけがありました。入場口が開くまで、ニュース番組のコメンテーターのような解説をしましたところ「そういうことですか」と納得いただけました。日本語が達者なイナミさんとEchoLinkでの再会を約束して分かれましたが、オンエアもアイボールQSOも偶然の出会いがアマチュア無線の醍醐味と確認しました。2009年の会期は5月15日〜17日と発表されました。