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No.98 T型ヒンジを使った電鍵の作り方
T型ヒンジ(蝶番)を使った縦振りキーの製作を思い立ち材料探しを始めました。蝶番を使うアイデアはARRL機関紙QSTの記事が始まりで、「米国製丁番を使った手作りキー」(JF1GUQ)の記事に触発されて友人たちが競作しました。残念ながら当該QSTの月号が思い出せません。この蝶番は米国独特のタイプのようで日本で見かけたことはありません。手に入りにくい部材を使って電鍵を作ったと発表するのは気が引けますが、輸入材料を扱う店などで手に入るかもしれませんし、米国に出かける人に買ってもらえると考えて、ここにT型ヒンジを使った電鍵の製作を紹介することにしました。
MFJ cub QRP CWトランシーバー(左)と自作したキー
2008年5月、デイトンに出かけたときにインターネット検索で調べた市内のDIY店(THE HOME DEPOT)に出かけてT型ヒンジ(商品名Tee HINGE)を2個一袋で2.79ドル、3袋を買ってきました。日本では兆番、丁番、蝶番(ちょうつがい)ともいいますが、蝶番は英語のhingeからヒンジといい、語源は「蝶の番(つがい)」、その形が雄蝶にみえるところから蝶番というのだそうです。なお、インターネット検索でHeavy Duty Tee Hingesをみつけました。Hardware Source で入手できそうです。(ご参考:ここに使用したTヒンジの全長は88mmです)
手作りキーの材料集め
主なパーツ
台座:キーの外観、操作性を決める台座を探すことにしました。台座の材質は金属、タイル、石をイメージして適当なものを探すためにDIYの大型店「ジョイフル本田・瑞穂店」に出かけて広い店内を歩き回りました。厚みのあるステンレス金属片を探していましたが、イメージ通りのものがなかなか見つかりません。石材のコーナーで御影石(80×300mm、厚み14mm)220円を見つけました。値段が手ごろな上に大理石のような紋様と光沢が気に入り、これだとひらめきました。長辺が30cmなので10cm程度にカットしなければとあたりを見回すと、奥まった所に工作室があり、有料でカットしてくれることがわかりました。
御影石のカットを依頼すると、「切断面がぎざぎざになるが、それでもいいか」と念を押されました。なめらかな切断面が希望だったので、カタログの重しに使っていた商品でない御影石の小片(120×80×12mm、約400g)が欲しいと申し出て100円で手に入れました。これは切断面がきれいでサイズがイメージ通りなのでこのまま使えます。御影石は大小いろいろなサイズがあり、希望するサイズにカットしてくれますので、台座としてお勧めです。御影石の裏に1ミリ厚のゴムシート(50円)を貼り付けて滑り止めにしました。
台座の裏側にゴムシートを張り付けて滑り止めにした
キー接点:キーの性能を左右する接点は友人(JA1KJW)のアイデアを頂いてマイクロスイッチ(50円)を用意しました。友人の一人が真鍮ビスを接点にしましたが、微妙な接触抵抗でトーン発信機をつないでトーンを聞くとチャピリが感じられることもあり、接点に銀線を埋め込むアイデアもありましたが、工作に難点があり後日マイクロスイッチに置き換えたと聞きました。マイクロスイッチは微小接点間隔とスナップアクション機構をもち、規定された動きと、力で開閉動作する接点機構がケースで覆われています。アクチュエータと呼ばれる可動片を取り外して使いました。
ジョイントアングルにまとめたマイクロスイッチとステレオジャック
出力:電鍵とトランシーバーを結ぶラインはステレオジャックから取り出します。これも友人のアイデアでT型ヒンジにマイクロスイッチとステレオジャックをミニジョイントアングル(1.0×10×10×25mm)に並べて固定しました。ジャックはモノラルを使うべきところ、厚みがステレオジャックの2倍ほどあるためジョイントアングルに収まらないことがわかり、あえてステレオジャックにしました。
六角ボルト: DIYのドイト東久留米店に出かけて六角穴付ボルト、六角ホルダー(いずれも4×10mm)をTヒンジの支点から約2cmずらしたあたりに立てて六角穴付きボルトを差し込みます。これでキーの間隙を調節します。マイクロスイッチに触れるあたりまで追い込み間隙がいちばんせまくなり、六角ボルトを緩めると間隙が広くなります。このあたりの微妙な感触がわかったところで六角ホルダーをペーパーボンドで仮止めしました。
バネ:カー電装品の配線に使われるギボシ端子のメスカバーをキーの支点にはさみ、カバーの弾性を利用してばねにしました。友人のアイデアに感心するばかりです。メスカバーの太さにもよりますが、ちょっと弾力が足りない時はもう一つ追加して挟むとほどよい感触になります。写真のようにカバーはほぼ透明なので、見た目にもじゃまにならず、いまのところこれ以上のアイデアが出てきません。
ギボシ端子のメスカバー
組み立て:始めにTヒンジにノブをつけてみました。これだけで電鍵の雰囲気が出てきました。ノブ(knob)は扉の取っ手の中から選びました。これを台座の上で移動してバランスのとれた位置を決めてペーパーボンドで仮止めし、他のパーツを配置して全体のバランスを考えながら、キーを押した時の感触を確かめました。ペーパーボンドの用途は紙や写真を貼り付けるもので、容易にはがすことができますので仮止めにお勧めです。
T型ヒンジを台座にそのままつけると低すぎるので、手元にあった2ミリ厚のゴムシートを2枚重ねて台座に貼りました。いきなりスーパーボンドで接着しましたが、翌日になってよくみると位置が少し右に寄っているため、はがして位置を修正しました。組み立て作業は半日もあると済むようなものですが、パーツの配置や機能性を考えながら作業を進めるため、時間をかけて拙速を避けました。その時はよくても翌日になると誤りに気付いて修正を行うことができました。机上でしっかりたした設計を行うわけでなく現物を前にして考えながら作る過程を楽しむため、十分な時間をかけました。
調整:部品の取り付け位置の微調整を繰り返してセメダインスーパーで固定しました。構造が簡単な分、位置決めが性能を左右するのでゆっくり作る過程を楽しみました。手元にあるハンドメイドのSwedishキーと比べてもキーイングの感触はそん色ない出来栄えに仕上がりました。ロシア製縦振りキー、中国解放軍製の縦振りキー、Macマニピュレーター(No.86021)、Kuniマニピュレーターなどの珍品コレクションがありますが、これに自作のキーが加わりましたので、MFJ cub QRP CWトランシーバーにつないでみようと思います。最後にTEPRAの透明テープにコールサインを印刷して台座に貼り完成しました。
キーの外観
パーツリスト(※クリックすると画像が拡大します。)
まとめ
QSTの記事や友人のアイデアをもとに製作した縦振りキーですが、自分なりの工夫を加えて手作り感を十分に味わうことができました。キーが必要だから作るというよりは、久しく手作り感を味わう機会がなくて、友人の勧めもあり手作りキーに飛びつきました。パーツリストでご覧のように部品点数が少なくてあっという間に終わる工作ではありますが、部品を選びながら丁寧に作ることで愛着のある一品が出来上がりました。
記事の中で明らかにしたようにQSTの記事、友人のアイデアの上にこのキーの製作があります。米国のFCCアマチュアライセンスの試験からモールスコードがなくなりましたが、モールスコードは依然として多くの愛好家がおられますし、日本でも25字/分の受信試験が第2級アマチュア無線技士以上に課せられています。この機会に縁遠かったモールス通信になじみたいと思います。
丸太の輪切りを台座にしたキー(JF1GUQ)
アイデアが詰まったキー(JA1KJW)
Tヒンジを開いたキー(JJ1HKS)