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No.100 アマチュア無線が登場する映画ベスト6
2008年7月17日、宮崎駿・監督作品の長編アニメーション映画「崖の上のポニョ」が公開されてたちまち評判になったのは記憶に新しいところです。何の予備知識もなくこの映画を観た人が、劇中に登場したアマチュア無線交信のシーンに驚いたとブログなどに書き込みがあり、実際にありそうなコールサイン(JA4LL)が使われていたために免許人の詮索や推測が行われて話題になりました。映画にアマチュア無線が登場するのは、主役であれ脇役であれ、同じ趣味人としてうれしいもので、この機会にアマチュア無線が登場する映画ベスト6を選んでみました。
空と海の間に (Si Tous Les Gars Du Monde)
1955年(昭和30年)フランス映画、1時間52分
原題のフランス語を機械翻訳に掛けると「世界のすべての男の子ならば」これではなんだかわからないので、配給会社の東和が「空と海の間に」という邦題をつけたものと思われます。昭和27年7月28日、JA1AA庄野さんら30名に予備免許が与えられてからわずか3年後、昭和30年にアマチュア無線を主題にした「空と海の間に」が公開されて評判になりました。
それから半世紀余を経た今でも伝説の映画として長く記憶にとどまり、時折、特別な催事に上映されることもあり、NHKとWOWOWで放送されたこともあるようです。今では幻の名画になりましたがDVD化が望まれるところです。残念ながら日本では計画はないようです。ただし、オリジナルのフランス語版はDailymotionで予告編が見られます。
【解説】ノルウェーの沿岸から最短2日の北氷洋上に漁船「リュテス号」が出漁していた。乗組員は12名。その船内で次々と病気に倒れる。船舶無線で救助を要請するが無線機の故障で連絡が取れない。アマチュア無線家のゲレック船長が14.300MHzで救助を要請する。「SSTKXL calling ・・・fishing boat Lutece QTH is lat,68’ N and ling. 02° W QSO QSQ・・・」 非常通信をキャッチしたのはアフリカ・トーゴのタバンゴに住むビギナーハムのアルベルト(FD8IM)。応答するがリュテス号に電波が届かない。そこで高さ15mのワイヤーアンテナを立ててようやく交信に成功する。
診療に来ていたジュグウ軍医を呼び、問診や猫を使った検査の結果、病気はハムが原因の腸詰中毒(ボツリヌス菌による食中毒)と判明。12時間以内(明朝8時まで)に血清を打たなければ食中毒の乗組員は助からない。血清はパリのパスツール研究所にしかない。パリに向けて非常通信を行い、これに応答したのがパリの18歳少年ハム、ジャン・ルイ(F8YT)だった。ミュンヘンのブラインドハムDL3IK、スチューワデス、米軍人、ソ連機、フランス機を経て血清が無事にリュテス号にわたるが、無償で未知の人たちのために奔走した人々の善意が描かれている。
「Si Tous Les Gars Du Monde」 (VHSテープより)
崖の上のポニョ
2008年製作、宮崎駿・監督作品の長編アニメーション映画、東宝配給、101分
【解説】船乗りの夫(耕一)と妻(リサ)が交信するシーンでポール付きのキャパシティハット付きV型ダイポールアンテナを庭に持ち出して、あらかじめ用意した穴に差し込みました。無線機はIC-7000のような印象、周波数は50.119MHz、「JA4LL 聞こえますか」と呼びかける。JA4LLを1963年のCall Bookで調べると筒井笹臣さん(大正14年11月15日生れ)、岡山県玉島市、無線局検索ではノーヒット。
筒井さんは商船三井の通信士、「無線と実験」1958年2月号に40mバンドでカルフォルニアのK6DVがパナマ運河を航行中のJA4LL/MMと交信、7000-7050kcではJAのFoneによるQRMがひどいとレポートされている。コールサインから中国地方の瀬戸内海が舞台と推測できるところからJA4LLを使ったようだ。5歳の宗助が信号灯によるモールスの送受信シーンもある。宗介は母をリサ、父をコーイチと呼び、リサも夫をコーイチと呼ぶ。宗介は「ひまわりの家」で暮らすお年寄りを「トキさん」「ヨシエさん」「カヨさん」と呼ぶ欧米スタイルが珍しい。
オーロラの彼方へ (Frequency)
2000年製作、アメリカ映画、GAGA/HUMAX、117分。
【解説】無線で現在と過去をつなぐ斬新なアイデア、時空を超えた父と子の絆に涙するSF感動作。 ニューヨークの空にオーロラが出現し、メッツのワールド・シリーズ出場にクイーンズ中の市民が熱狂した1969年10月。6歳のジョン・サリヴァンは幸せだった。消防士の父、看護婦の母。ジョンの周りには、いつも愛と笑い声があふれていた。だが、そのような日々は、父の殉職によって突然終わりを告げる。 30年後、フランクの命日が2日後に迫るなか、再びニューヨークの空に現れたオーロラは、ジョンの思いを自然と父に向かわせた。幼なじみのゴードの親子が、クローゼットのなかにフランク愛用の無線機をみつけ、昔を懐かしみながら無線機を設置する。
やがて彼らが帰ったあと、ジョンの耳に電波で呼びかける声が聞こえた。CQ15野球の話に花を咲かせる。話題はもっぱら1969年のワールド・シリーズだった。翌日、CQ15交信を求めてきた。男が子供に「チビ隊長」と呼びかけるのを聞き愕然とする。CQ15は、30年前の今日、この同じ場所で同じ無線機に向かっているフランクなのだと。フランクは頭からジョンの言葉を信じようとせず、翌日自分が死ぬ運命にあるという話にも耳を貸さなかった。交信が途切れる寸前、「父さんは直感に従って失敗したんだ。他の脱出ルートなら助かる」 と叫んだ。 DVD(松竹ホームビデオ)
「オーロラの彼方へ」 DVD Frequency (松竹ホームビデオより)
私をスキーに連れてって
1987年11月に公開されたホイチョイ・プロダクションズ製作。98分
【解説】この映画のヒットがスキーブームの火付け役となった。劇中でアマチュア無線機が仲間との連絡用に使用され、その便利さと機動力の高さがうまく表現されていたため、本作をきっかけにアマチュア無線家が急激に増えたといわれる映画。ホイチョイのメンバー内に免許所持者がいたといわれ、俳優の沖田浩之はアマチュア無線家として知られる。映画に出て来たトランシーバーはICOM μ2(144MHz帯FMハンディ)を指名買いする人が続出したという。(この項、ウィキペディアを参考にした) 予告&曲集はYouTubeでみられます。7分54秒 DVD(ポニーキャニオン)
リメンバーミー (Ditto=同感)、
2000年韓国映画、日本では2001年10月公開。111分
【解説】皆既月食が起きた夜、壊れて動かないはずの無線機から男の声が聞こえてきた。「コーリング CQ CQ CQ こちらはDS1AVO」 ソウンはあちこちスイッチをさわり、「もしもし」と応答する。「もしもしだって?」 の声に怖くなってスイッチを切ってしまう。翌日、無線機の電源スイッチをオンにして「もしもし」 一瞬の間を置いて「返信ありがとう」と昨日の男の声が返ってきた。男の名前はイン、ソウンと同じ大学の広告創作学科に通っていた。無線通信マニアのインはアマチュア無線機のマニュアルを貸すと約束する。いつしかお互いのことを話しながら惹かれあうが、二人は違う時代を生きていると気づくようになる。1979年と2000年という21年もの時の中で交信していたのだ。
2002年4月DVD(パイオニアLDC)発売。
「リメンバーミー」 DVD (パイオニアLDCより)
コンタクト (CONTACT)
1997年のアメリカ映画、ワーナーブラザース配給、1997年9月13日公開、153分
【解説】コンタクト(Contactはカール・セガンによるSF小説の映画化作品。父娘家庭で育ったエレノア・アロウェイは少女時代に父からアマチュア無線の手ほどきを受ける。映画のオープニングで「CQ CQ CQ this is W9GFO だれか聞いていませんか?」と交信するシーンがかわいらしい。ビーナス(火星)を教えられたことから天文にも関心を持つ少女だった。時が過ぎ、エレノアは地球外の知的生命体とコンタクトをとろうとする電波天文学者となっていた。しかし、なんの成果も得られないばかりか、科学財団会長ドラムリンから研究費を削減される。そんな時、琴座のベガからの信号を受信することに成功する。しかし、ドラムリンにその成功の上前をはねられることになる。一方、エレノアはベガから送られてきた暗号を謎の男の助けによって時空移動装置の設計図であることを突き止める。搭乗員1名限定の装置は完成するが、神を否定していることを理由にエレノアは外されることになるのだった。 DVD(ワーナー・ホームビデオ)
「コンタクト」 DVD (ワーナー・ホームビデオより
あとがき
「空と海の間に」の解説が一番長くなりました。それというのも製作が半世紀も前にもかかわらず、アマチュア無線の描かれ方が本物なのでつい力が入ってしまいました。「崖の上のポニョ」は2008年公開のアニメ映画として、マリタイム・モービルと交信するシーンは好感のもてる内容です。「私をスキーに連れてって」はハンディ機やモービル機が爆発的に増えた時期ですし、そうした意味からアマチュア無線にとっても記念碑的な映画になりました。ほかの3作品はいずれも過去との交信やSF小説の映画化という概念で製作されたために、本来のアマチュア無線と違う表現に戸惑うこともありますが、娯楽作品に細かな詮索は無用なのかもしれません。
ここに紹介できなかった「宋家の三姉妹」(ポニーキャニオン)は、いずれも中国のVIPとして知られ、次女の宋慶零女士は国家名誉主席に任じられた名士、「宋慶零基金会」を創設し、その傘下に中国福利会少年宮(BY4ALC)があり、その源流・背景を知る上で貴重な資料となり得るでしょう。ほかに2007年11月公開の「ミッドナイトイーグル」(ジェネオン エンタテインメント)、1980年6月公開の「復活の日」(パイオニアLDC)などもお勧めです。