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No.107 「上海ハムラジオ EXPOと最新無線事情」
中国で初めての「2009ハムラジオEXPO」が6月6日〜8日の3日間、上海国際展覧センターで開催され、2日半の会期に約4千人の入場者を記録しました。EXPOは「上海国際業余無線電産業展覧会&上海国際業余無線電節」の名称で、CRSA(中国無線電運動協会)、SRSA(上海市無線電運動協会)、上海市無線電管理員会などが後援しました。
同EXPOにはICOMをはじめ日本のメーカーが出展し、上海海姆無線電通信設備有限公司 + KENWOOD + CUSHCRAFTなどに加えて、CQ現代通信、QRZ・中国などの出版社、SANWA(アンテナ)、SRSAが出展したほか、屋外ではBY4AA/4の公開運用が行われました。 講演会場ではBA1HAM(陳平氏)による「アマチュア無線の現状と未来」の講演、「業余無線電通信」の著者(BA1AA、BA4RC)による握手とサイン会が開かれました。
アイコムのブース
BA1AA童先生によるサイン会 後方はBA1HAM
BA4AA徐儒先生から招待状
22年来の友人BA4AA 徐儒先生からSRSAが「上海ハムラジオEXPO」に招待するというメールが舞い込んできました。徐先生はBY4AAの台長、SRSAの秘書長・副会長を歴任された上海アマチュア無線界の重鎮です。現在は第一線から退かれて名誉委員に。傍ら上海海姆無線電通信設備有限公司を経営しておられます。社名を読み替えると「上海ハムラジオ通信設備会社」となります。アマチュア無線機器・アクセサリー・アンテナとタワー建設などを業務とする上海唯一のハムショップとして多忙を極めています。
SRSA(上海市虹口区廣中路444号)とBY4AAは、上海市軍事体育クラブの敷地の一隅にあり、内外のアマチュアが上海を訪ねると必ず訪れる場所です。6年ぶりに訪ねたSRSAのオフィスは改装されて様子は一変していました。上海のアマチュア局の総数を尋ねると約5千とのこと、ずいぶん多くなりました。資格取得者はひと月に約100人の割で増えており、自家用車の普及に伴うモービルハムの人気が増加の主な要因ということでした。
従事者免許の試験はSRSAにより隣接の試験場で行なわれていました。受験料+SRSA年会費などで500元(約7,500円)と聞きました。当初、アマチュア無線の発展を牽引したクラブ局は、指導者の交代などで廃止されたクラブ局も少なくないようです。年少者が進学の際にアマチュアオペレーターとしての加点がなくなったため、父兄のアマチュア無線熱が一気に下がったのが原因といわれています。
ハム専門誌・書籍について
次に中国で流通しているアマチュア無線の雑誌と書籍を紹介しておきます。いずれも上海ハムラジオ EXPOで購入が可能でした。成熟期の中国アマチュア無線界を俯瞰できるまたとない機会であり、主な出版物を手に入れました。また、書籍の著者(BA1AA、BA1HAM、BA4RC)とアイボールQSOができたのも大きな収穫でした。
「CQ 現代通信」
6年ぶりの上海で初めて見かけたアマチュア無線誌が「CQ 現代通信」でした。2009年01号と02号を入手しました。B5判、80頁、15元(225円)、隔月刊。表紙は鮮明で美しいカラー印刷です。驚いたことに全頁がカラー印刷でした。
CQ 現代通信(隔月刊)
01号の広告は人民郵電出版社の自社広告のみ。記事はハンディ機、モービル機、固定局用HFトランシーバーの写真と性能が掲載されているほか、IC-92AD(日本ではID-92)が4頁にわたり紹介されています。ほかに無線機の車載技術(上)やCWによる交信のだいご味、CW練習機の製作記事、衛星通信、KP5 DXぺディション、IC-703によるバックパッカー、野外移動運用、中日友好交流の記事(CRSA初代・汪勲秘書長)などを満載。編集委員にBA1RC、BA1HAM、BA1FB、BA4RF、BA1CY、BA1AA、BA1KYらのコールサインがみられました。
02号ではIC-2820Hの紹介、電波伝搬、無線機の車載技術(下)やHF帯モービル局のアンテナ搭載技術、D-STARの解説、ハムフェアと南ドイツで開催のHAMRADIOの紹介も。横浜のハムショップを訪ねたBD6CR/4)による写真入りの紹介記事がありました。
「中国コールブック2008」
HAM EXPOで2番目に購入したのが2008年版のコールブックでした。A4判、160頁、25元(375円)。原題は「業余電台通信録」Chinese Callbook、コールサインに通し番号があり9,415を収録していることがわかります。
Chinese Callbook 2008
「アマチュア無線通信」
原題は「業余無線電通信」(修訂本)、童效勇 BA1AA、陳方 BA4RC 編著、305頁、26元(390円)。著者のBA1AA童效勇 さんは、中国を代表する北京のクラブ局BY1PKの台長(局長)を務められたオールドタイマーであり、国内各地のクラブ局を指導してこられた中国の有名人です。BA4RC陳方さんは江蘇省・南京の指導者としてあまりにも有名で技術力に定評があり、古くから国産の無線機作りを目指して試行錯誤を繰り返していましたし、2007年、中国で初のARISSスクールコンタクトを成功に導く原動力となりました。因みに2008年、上海のBY4AYによるARISSスクールコンタクトは中国では2番目になりました。
業余無線電通信(修訂本)
内容はアマチュア無線業務に必要な知識や規則を網羅していますが、中国のアマチュア無線制度を知る上で貴重な資料を満載しています。エリア区分やコールサイン、個人局のプリフィックスなど、たとえば1級はBA、2級BD、3級〜5級BGなどのように。さらに各省、自治区、直轄市のサフィックス分配表が分かりやすい。RTTY、AMTOR、パケットラジオ、CLOVERなどに加えて衛星通信、月面反射通信の解説もあります。
アマチュア無線業務に必要なLOGの書き方やQSLカードの発行の仕方など知識全般を盛り込みながら、世界のコンテストにも触れていますが、巻末の「付録」に中華人民共和国無線電管理条令、BY電台住所録、業余無線電台管理暫行規定、中華人民共和国無線電台操作証書等級標准、同実施細則、個人業余無線電台管理暫行弁法、CRSAバンド区分などが網羅されており、一見に値します。
「中国アマチュア無線」
原題は「中国業余無線電」、中国最高峰のハンドブックでしょう。(上)技術篇・操作篇、(下)史記篇・交流篇・設備篇の大冊、いずれもCRSA秘書長を歴任された陳平(BA1HAM)さんの責任編集。A4判、765頁、上・下巻共に260元(3,900円)、2008年11月発行、印刷部数5,000冊、深圳出版発行集団公司・海天出版社。執筆陣は技術篇:陳平(BA1HAM)、操作篇(1-4章):樊紹民(BA1EO)、操作篇(5-9章):范斌(BA1RB)、史記篇:童效勇 (BA1AA)、設備篇編集:項軍、交流篇編集:趙素汊(BA7AS)。
中国無線電(上)(下)
初のARRL翻訳本
中国(2008年5月28日)で出版されたはじめてのARRLの翻訳本「アマチュア無線入門」が北京、人民郵電出版社から出版されました。QSTのエディター・スティーヴ・フォード(WB8IMY) によりアマチュア無線の入門書が2008年6月、中国で購入、利用が可能になりました。他に翻訳されたARRLの本は「ARRLハンドブック」、「ARRLアンテナ本」、「RF設計の実験的方法」、「理解する基礎的なエレクトロニクスおよび移動中のアマチュア無線」などです。同出版は情報産業省の管理の下で活動する最大の中国の印刷および電子メディアの一つです。なお、翻訳はBG1FPXによって行われました。
ARRLの「アマチュア無線入門」(中文)
まとめ
徐儒先生との交友から22年、アマチュア無線の成熟の象徴として上海HAM EXPO 2009が開催されました。会場で購入したハム専門誌といくつかの書籍が中国アマチュア無線のレベルを推し量る重要な手掛かりになりました。無線機器はショップで自由に手に入る時代になり、富裕層と呼ばれる経済的に恵まれた人々がモービルハムに夢中です。同時に技術レベルの向上を目指すリーダーによる技術書やハンドブックの出版の意義は大きいと思われます。2010年は上海万博(5月-10月)の開催と合わせてSEANETコンベンション(10月)が上海で開催することが決まっており、中国のアマチュア無線にとって一層の飛躍の年になるのは間違いないところでしょう。