山梨県南都留郡山中湖村の山荘にHFオールバンド+50MHz(SSB/CW/RTTY/PSK31/AM/FM)100Wトランシーバー IC-7600とリニアアンプIC-4KLを持ち込み無線設備共用で6人が1キロワットの免許を取得した流れをOnlineとーきんぐNo.111「6人による無線設備共用1キロワット開局のてん末」に、また「書類申請のみで1キロワット免許を取得した話」をNo.115で紹介しました。今回はIC-7600のファームウェアのバージョンアップと手作りのSSTV/PSK31/RTTYアダプタを紹介したいと思います。

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IC-7600に手作りアダプタを接続した様子

山中湖村の山荘は標高約1,000mの富士山の裾野にあるため、冬期(11月〜4月)は雪と氷の世界に閉ざされてしまいます。春の兆しが見えた4月24日、ALL JAコンテストに合わせて山荘を開きました。5か月ぶりに訪れたシャックに大きなトラブルもなく、クランクアップタワーのウインチを巻き上げると、すぐにオペレートの準備が整いました。降雪によるワイヤー・アンテナに欠損がないか、HFトライバンドHB9CV、WARCバンドのV型ダイポールを点検した後、IC-7600のファームウェアのインストールにとりかかりました。


 

ファームウェアの書換え

メイントランシーバーのIC-7600はインターネットのWebサイトから、ファームウェアをダウンロードすることで、いつでも最新の機能にバージョンアップできる利点があります。

IC-7600ファームウェアダウンロードページはこちら
 

上記サイトの「アマチュア無線機器」→「固定機」の中からファームウェアIC-7600 Ver.1.02 (2010/04/01公開)を選びファイルをノートパソコンにダウンロードしました。

今回のバージョンアップでは二つの機能が修正されています。

・ フィルターシェープ切り替え動作の不具合修正。

一部の運用モード切り替えに連動して、意図せずにフィルターシェープが切り替わってしまう不具合を修正。

・ 送信モニター音量の改善。

 

始めに新しい2GB のUSBメモリを用意しました。USBメモリはIC-7600のメニューで初期化(フォーマット)しておき、ファームウェアをダウンロードしたノートパソコンのUSBポートに挿します。ダウンロードしたファームウェアのファイル(7600_102)をダブルクリックすると自動的に解凍されます。解凍されたファイルは「7600_102.dat」となり、これをUSBメモリのIC-7600フォルダにコピーします。作業時間は約10分です。これらの手順はIC-7600の取扱説明書の159頁〜162頁に説明がありますので参照してください。

取扱説明書ダウンロードはこちら
 

 

SSTV/PSK31/RTTYアダプタ

次にSSTVがスマートに運用できるように、マイク端子に接続するアダプタを作りました。IC-7600の背面パネルにUSB端子が装備されていて、USBオーディオの機能と周波数・モードなどCI-V(シーアイファイブ)の情報を取り出すことができます。CI-Vを使用する場合、従来機ではCT-17等の追加オプションが必要でしたが、IC-7600のUSB端子ではComポートを割り振るだけで、CI-Vの情報をやりとりできます。

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手作りアダプタと配線

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手作りアダプタの内部

 

音声によるレポート交換を伴わないPSK31やRTTY(AFSK)を運用するなら、IC-7600のデータ通信モードで、USBオーディオの信号を取り込む設定で便利に使えます。また、パソコンにサウンド機能が無い場合、IC-7600のUSBオーディオ機能が威力を発揮するでしょう。SSTVでは画像を送った後で音声によるレポート交換が一般的ですから、SSBのモードのまま画像の送り出しに使えます。そのため、今回はIC-7600のUSBポートはCI-Vの情報を使用して、ログソフトに周波数とモードを自動的に記録させ、USBオーディオの機能を使わない方法にしました。

ログ管理ソフトのHamLog(フリーソフト)やRTTY用のコンテストログソフトRTCL(Radio Teletype Contest Log)など、パソコンと無線機を接続できるログソフトではICOM CI-Vを選択してComポートの番号を設定し、受信ポートを"7A"と記述しておきます。CI-Vの通信速度を速くする必要はあまりありませんから、安定する速度を選ぶのがコツです。1200bpsで不自由なく通信できています。

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COMポートの設定

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RTCLのCWの画面

特にパソコンのRS-232CのComポートがどの番号に割り当てられているかの確認やCI-Vの機能を使いこなすにはマニュアルを読んで取り掛かることが必要でした。特に「設定後に一度ログソフトを再起動する必要がある」の記述を見落としていたために、設定を終えてもトランシーバーからの情報が取り込めなくて、どうして?と少なからず悩んでしまいました。マニュアルに再起動の一文を見つけて、その通りにするとIC-7600の運用周波数、モードを快適に取り込んでくれて解決しました。


 

アダプタの回路

アダプタ(JF1GUQの設計)はアースループの遮断を考えた回路になっており、特別な部品としてはフォトリレー(650円、1個)があります。これはアナログ(音声)信号を遮断したり通過させたりできるタイプを使用します。通常のフォトカプラと呼ばれているタイプはアナログ信号の制御では使用できませんのでお気を付け下さい。ほかにトランスST-73A(500円、2個)、ケース170円、マイクコネクタ300円、レセプタクル300円、RCAピン端子(90円、3個)、EMIコア200円、ほかに配線、シールド線等で構成しました。

 

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アダプタの実体配線図(※クリックすると画像が拡大します。)

基本回路はOnlineとーきんぐNo.103 「SSTV・RTTY・CWに対応 簡単インターフェース」と同じですが、入手しやすいサンスイ製小型トランスに代わっています。卓上マイクまたはハンドマイクのPTTを押すと、フォトリレーが通電し、音声をトランシーバーにつながると同時に、もうひとつのフォトカプラでIC-7600を送信状態にします。マイク側からのPTTにしかフォトリレーは反応しないから、ACC1または本アダプタのPTT端子につないだパソコンからの送信要求(PTT)では、音声信号がマイクからトランシーバーに入らないため、SSTVの画像を送信中にまわりの音が混じることはありません。


 

フォトリレーの入手

今回使用したパーツの中で、入手しにくいのはフォトリレーです。TLP696Aは一時、秋月電子通商で買えましたが、残念ながらいまでは廃番品種になっています。いろいろ探してみると通販の[サトー電気]※ でフォトリレーを見つけました。

TLP595G(441円) TLP597A(252円) TLP598A(462円) TLP598G(483円)

※ http://www2.cyberoz.net/city/hirosan/ld.html

ほかに使えそうなフォトリレーにパナソニック電工のAQVシリーズがあります。出力の定格にACでの通過電圧、電流がわかるものを選びます。通過、遮断するのはマイクの音声ですから電圧と電流にこだわる必要はありませんが、IC-7600の8V出力の定格電流(10mA)では機械的なリレー(20mAは必要でした)は動作しません。


 

2系統のデコードで文字化けを回避

IC-7600はUSBキーボードを追加すると画面のモニター機能と組み合わせてRTTYモードを運用できます。RTTYモードには誤り訂正機能がないので、文字化け(ガーブル・garble)が起こったら、その部分を想像して通信します。以前からRTTY'erは異なる方式の2系統の受信装置を設けて、同じ信号をデコード*することで文字化けの推測を行っていました。*デコード(decode)とは、一定の規則に基づいて符号化されたデータを復号し、もとのデータを取り出すこと。

IC-7600が内蔵しているRTTYのモニター機能のほかにMMTTY(RTTYモードのフリーソフトウェア)の受信機能を追加して、これで2系統のデコード回路でモニターできるようになり、文字化けの確認と推測が容易になります。送信もACC1端子にアダプタを追加してFSKで運用できるようにしました。パソコンにMMTTYとRTCLをインストールして手軽にFSKの運用が行えますし、コンテスト時はRTCLを使うことで、指一本の操作でログが進むので効率的な運用を目指す方にお勧めです。

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RTCLのRTTYの画面


 

まとめ

IC-7600のハイスペックDSPの性能をフルに引き出すにはファームウェアのアップデートが欠かせません。山荘シャックのオープンと共にコンテストの参加に先んじての作業になりました。次いで無線設備共用者の好みに合わせてスペシャライズド・コミュニケーション※ (SSTV、PSK31、RTTY)をアダプタで容易にオペレートができるように工夫しました。

※ specialized communication:電話,電信以外の電波型式による通信方法。