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No.125 「ドイツ製トラップ・ダイポールから手作りのヒント」
事の始まり
ドイツ連邦共和国ミュンヘン在住の壱岐さん(DF2CW/JA7HM)夫妻の日本国内周遊から始まりました。壱岐さんは日独友好の目的で1985年に設立されたJAIG(Japanese Radio-Amateur's In Germany)の代表世話人であるのはよく知られており、2010年春、夫人のエリカさん(DN2MCW)と共にドイツ訪日団を率いて関西・関東の大勢のアマチュアと交流し日独親善に尽くしました。
同年秋、壱岐さん夫妻はJAIG世話人の立場を離れて関西から関東へ。ドイツ訪日団の辿った道のりを水入らずの旅を続けていました。夫人が富士山を間近に見たいという希望に沿ってJR大月駅(山梨県)に降り立ちました。友人の迎える車に乗って忍野八海(おしのはっかい=山梨県南都留郡忍野村忍草)を観光した後、山梨県南都留郡山中湖村の無線設備共用局(1キロワット)を訪ね、7人の免許人(JH1VVW、JF1GUQ、JA1IFB、JA1KJW、JA1XVY、JA1CVF、JA1FUY 、JA1ZNG)とアイボールQSOしました。
ドイツ製トラップ・ダイポール
山荘に到着した日は富士山は雲に隠れて見られず、翌朝、雄大な富士山が姿を現し山中湖から眺望する富士山をカメラに収め、散策から戻った壱岐さん夫妻は美しい富士山の印象を交々に語っていました。やおら壱岐さんがバッグからドイツKelemenアンテナ社のマルチバンド・トラップ・ダイポールDP-201510(20m-15m-10m)を取り出しました。
マルチバンド トラップ・ダイポールDP-201510
※【トラップ・ダイポール・アンテナ】英語で、trap dipole antenna。ダイポール・アンテナのエレメントにいくつかの周波数に同調させたトラップを挿入し、マルチ・バンドで使用できるようにしたアンテナ。 (週刊BEACON「アマチュア無線用語集」より)
DP-201510のトラップに注目しました。一般的なトラップはボビンに銅線やアルミ線を巻く方式に対し、目の前のトラップは極細の同軸ケーブルを直径4〜5センチに何回か巻いて結束バンド(ケーブルタイ)で止めてあります。このやり方は同軸を巻いた時のインダクタンスLと同軸の芯線と外側のシールドの間に生じる容量Cで共振する方式とすぐにわかったものの、テフロン製同軸ケーブルによるトラップに虚を突かれました。
トラップとしての同軸ケーブル接続方法
テフロン製同軸ケーブル※(RG178B/Uなど)は秋葉原やネット通販等で手に入りますが1,600円/1mと値段が高いのが少なからず難点です。テフロンケーブルはオヤイデ電気のWebサイトが参考になります。http://www.oyaide.com/catalog/categories/c-2_112.html
※【テフロン同軸ケーブル】細線、軽量化に最適。高速、高密度信号伝送特性があり、耐熱耐寒性、難燃性、耐薬品性、耐候性にも優れている。線径が細いにもかかわらず、高圧がかけられるなどの特徴もあり、同軸だけではなくさまざまな用途に使用できる。
DP-201510とは?
移動運用に適した20m-15m-10mのトラップ・ダイポール・アンテナです。
Model | Max Power(PEP) | Length | Bands | Order No. | Price |
---|---|---|---|---|---|
DP-201510 | 400W | 7.6m | 20,15,10 | 11500.251 | 157.59 (153.00) EUR |
価格は円換算(1ユーロ=110円)17,335円となります。
トラップの構造
このアンテナを最初に分析したのが中山さん(JA1KJW)で、いち早く14MHz帯のトラップを作り、DP-201510に追加接続して40m-20m-15m-10m の4バンドにしました。その中山さんにトラップの接続図を描いていただきました。くるくる巻いて出てきた両端の外皮と芯線をつなぎ、さらに外皮と芯線の両端にワイヤーを結びます。トラップはディップメーターやMFJ-259Bなどで共振周波数を測定できます。
DP-201510のトラップの接続部分 (JA1KJW)
DP-201510に見るトラップの固定の仕方が参考になります。コイルは両端をワイヤーで引っ張られるため何かで固定して引っ張る力をそがなくてはなりません。観察すると写真で見るように角型棒状の樹脂で固定してあります。これをヒントに手作りしたトラップは、両端を板状のプラスチックで固定してあります。
透けて見えるバラン
DP-201510のバランは内部が透けて見えます。まるで教材のように構造が丸見えのバランです。周波数特性が同じトロイダルコアに線の巻き方を真似て巻くと同じものが出来上がります。コアを収納する容器は100円ショップやホームセンター等で探すと適当なものが見つかるでしょう。適当な接着剤で全体を固める方法もあります。
透けて見えるバラン (DP-201510)
10MHzトラップを作る
黒色のトラップはハイパワーバージョン(1kW:SSB・CW、200W/RTTY・SSTV)、白色のトラップは400W SSBバージョンです。周波数特性はいずれも同じで使用しているテフロン同軸ケーブルの規格(太さ・耐圧)が異なります。バランを含む給電部の写真は、樹脂製の波型碍子を用いエレメントの張力がバランにかからないようにしています。トラップは10MHzのエレメントの端に取り付けます。
10MHzのトラップ・コイル (左1kW用、右400W用)
給電部に波型碍子を使う。写真上部に極細同軸ケーブル
|給電点|-----------|トラップ|======
----------は10MHzのフルサイズのエレメントです。
トラップは10MHzに同調していて、それから先のエレメントを無視できるようになっています。トラップの先の ====== は7MHz用の追加エレメントです。トラップは10MHzより低い周波数にLとして働く。高い周波数の10MHzはフルサイズのダイポールとして動作し、低い周波数の7MHzはローディングコイル入りの短縮ダイポールとして働きます。
従ってトラップから先のエレメントを伸ばして、3.5MHzとの2バンドにすることもできます。10MHzのトラップ・コイル入りダイポールは給電点からトラップまでの長さが約7m、トラップからエレメント先端までが約2m、全長は18m弱となります。
フルサイズのダイポールを製作した後、トラップを追加してトラップから先のエレメントを調整して目的の周波数に共振させます。MFJ-259Bで測定するとフルサイズのダイポールのインピーダンスは75Ωを指し、トラップを追加すると50Ωに変化しました。ハイパワータイプの10MHzトラップの周波数特性(JA1KJW)を掲げておきます。
ハイパワー10MHzトラップの周波数特性 (JA1KJW)
MFJ-259Bで7MHzの共振周波数、SWR、インピーダンスを測定 (JF1GUQ)
終わりに
トラップとバランの製作は前出の中山さん、そして10MHzトラップとバランを用いて7/10MHzダイポール・アンテナに仕上げたのが日置さん(JF1GUQ)です。このアンテナの初運用はARRL RTTY Rundup (1月8日〜9日)になりました。念願の7MHzダイポールを自宅敷地内に張ることができたと喜びを語っていました。DP-201510は、独特な形のバランやワイヤーの留め金具にドイツ製らしい頑丈な作りに感心し、多くの自作のヒントを得て製作の意欲をかきたててくれました。
7/10MHzトラップ・ダイポールを上げました (JF1GUQ)