技術の進歩がオーディオ用としても使える「コンパクトカセット」に

「コンパクトカセット」が登場した初期の頃、オーディオ用カセットとしては、録音周波数特性やダイナミックレンジ、ノイズ性能などで性能的に不向きと評価された。それでも、手頃なサイズで持ち運びや保管に便利だったこと、構造がシンプルで量産性に優れ、かつ扱いやすかったことなどによって様々なカセットテープをおさえて普及していった。これについては第12回でメタルテープの登場やドルビーノイズリダクションの普及などが「コンパクトカセット」の性能向上に大きく貢献したことを紹介したが、同時に、録音・再生ヘッドの改良によって、コンパクトカセットレコーダーの性能が向上していったこともオーディオ用として普及していく要因となった。

ラジオカセットレコーダー"ラジカセ"が発売され「コンパクトカセット」の普及に拍車

「コンパクトカセット」の性能向上とともに、ラジオとコンパクトカセットレコーダーが一体化された「ラジオカセットレコーダー」いわゆる"ラジカセ"が発売されたことが普及に拍車をかけた。テープレコーダーが出始めた頃、録音ソースとしては、ラジオから流れてくる音楽番組をはじめとする様々なラジオ番組が多かった。それならテープレコーダーにラジオを一体化すれば便利という発想は、誰でもすぐ思い付く。古くは、テープレコーダーに真空管式ラジオを組み込んだ製品も発売されていた。その後、1963年に日立製作所がオープンリール式テープレコーダーにトランジスターラジオを一体化した製品を発売した。さらに、アイワが1968年に「コンパクトカセットレコーダー」とトランジスターラジオを一体化したラジオカセットレコーダー「TPR-101」を発売した。このアイワの「TPR-101」のヒットによって、メーカー各社が一斉に「ラジオカセットレコーダー」市場に参入した。そして、FMステレオ放送が盛んになり、音質の良いステレオ音楽番組が多くなると、これを録音するためにFMステレオチューナー搭載の「ラジオカセットレコーダー」が人気を呼んだ。そして1970年代後半には「ラジカセ」ブームとなった。

年々、巨大化していった「ラジオカセットレコーダー」

「ラジオカセットレコーダー」市場は、オーディオメーカーばかりでなく、家電メーカーも参入し激戦市場となっていった。このため、各社が特長のある商品を開発し優位に展開しようと開発競争が激しくなった。初期の頃は、モノラルタイプのものが多かったが、やがてフルレンジスピーカーを左右に配置したステレオラジカセが主流となった。そして、より音質を高めようとウーハーとツィーターを組み合わせた2ウエイ4スピーカー搭載の重量タイプのステレオラジカセが登場してくる。当然、大きなスピーカーをドライブするためにアンプや電源も大きくなり、もはや持ち運んで音楽を楽しむと言うよりセットステレオの様な使い方がなされるものも登場した。その一方で年々、巨大化する「ラジオカセットレコーダー」に、"ちょっと待った"をかけたような製品も登場した。三洋電機が1979年に"おしゃれなテレコ"の愛称で発売した、小型で横長のステレオラジカセ「U4」シリーズが大ヒットした。何も大きいだけが良いのではなく、女性やお年寄りでも扱いやすく、デザイン性に優れた小型ラジカセが待ち望まれていたことを証明した製品だった。

簡単にダビングできるダブルカセットラジカセが人気を呼ぶ

「ラジオカセットレコーダー」の良さは、ラジオ放送を聞いたり、音楽テープを再生したりするだけではなく、市販のミュージックテープやラジオ番組を録音できることである。自作音楽テープを作ることがユーザーとって魅力だった。そこに目を付けて開発されたのがカセットからカセットへダビングできるダブルカセットラジカセだった。友人知人から借りてきたカセットテープをダビングしたり、自分のカセットテープをダビングして友人にプレゼントすることがダブルカセットラジカセなら簡単にできる。さらに、よりダビングを一度にたくさん出来るトリプルラジカセさえ登場した。さすがに、これは著作権問題もあり、それほど普及しなかったが、ダブルカセットラジカセは一つのカテゴリーとして安定した市場を形成していった。

「ラジオカセットレコーダー」と「ヘッドホンステレオ」が「コンパクトカセット」普及に大きな役割を果たす

「コンパクトカセット」が普及したもう一つ要因に「ヘッドホンステレオ」の普及がある。1979年にソニーがウォークマンの第一号機「TPS-L2」を発売した。このウォークマンの大ヒットによって「コンパクトカセット」を使ったヘッドホンステレオブームが世界中を駆け巡る。ウォークマン開発の経緯については、本連載の「小さな町工場を世界のSONYに育て上げた井深大さん」をご参照いただきたい。ウォークマンは、ポケットサイズの「コンパクトカセット」再生専用プレーヤーであり、録音機能は無い。再生専用とすることで小型・軽量化と電池の消耗を少なくし、再生持間を長くできるようにした製品。再生専用としたことで録音したソースが必要となるため、家で「ラジオカセットレコーダー」で作ったミュージックテープを外出先で「ヘッドホンステレオ」で楽しむという使い方が普及していった。つまり「ラジオカセットレコーダー」と「ヘッドホンステレオ」が「コンパクトカセット」普及に大きな役割を果たしたのである。

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ソニーのウォークマン第一号機「TPS-L2」

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、東芝HP、東芝科学館、ほか