1.はじめに

今まで電源は何台か作りました。No.116でも実験用の電源を紹介しています。フト気が付くと、世間はスイッチング電源ばかりになっています。ACアダプタですらスイッチングが主流です。世の中の流れは止められないとしても、無線機の実験にはトランスを使ったシリーズ方式の電源が一番です。しかし、このままで行くと何年か後にはトランスを始めとする部品が入手できなくなるのでは、と不安になり早速作ってみる事にしました。

電源は自作の定番でした。以前はキットも沢山ありましたが、見回すと廃止が多くなったように思います。そこで、今では流行らないのは承知ですが、秋月電子のトランスを使うNJM723の電源キットを作ってみました。少々本格的で、電流制限機能が付いた実験用を作ろう、というものです。当然ですが、写真1のように電圧、電流も読めるようにしました。内部は写真2のように、しっかりと作ってみました。

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写真1 このように電圧、電流を読めるようにした電源です。

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写真2 一応「本格的風」に、しっかりとまとめてみました。

2.トランス

メイン部品となるトランスですが、16V3Aのジャンクが出てきましたので、これを使う事にしました。このトランスは、35年前に勤務していたところで出たジャンクです。古いのですが、素性としては悪くなさそうなトランスです。トランスの入手が・・と上の方で書きながら節操がないのですが、探し出したトランスは使うしかありません。ここで使わなければ、一生使う事はないでしょう。仕様としては13〜14Vで2.5A程度となります。電圧としてはあまり上げられませんが、ちょっと本格的なQRPトランシーバの実験には十分に使えるでしょう。

作成途中で思い出したのですが、このトランスは2個あったはず・・?ともう一個を探したところ、現在使っている電源の中にありました。写真3のような電源で、何十年も前に作った亜土電子のキットのようです。ケミコンの交換をした記憶もありませんが、今でも現役で動いています。

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写真3 以前に作ったキットにも同じトランスを使っていました。

3.メータ

メータは製作の後半で作ったものです。しかし、回路の考え方に関係しますので、順序は前後しますが先に述べておきます。

メータを探したところ、20Vの電圧計と6Aの電流計が出てきました。何年か前のハムフェアで入手したような記憶があります。同じシリーズのようですので、外見的にはピッタリです。しかし6Aでは少々大き過ぎます。そこでこれを3Aにする事を考えました。内部には分流器が入っていましたので、ニッパで切りました。切った後の内部が写真4です。分流器を測ると0.02Ωです。従って、0.04Ω程度にすると3Aの電流計になるはずです。但し、こんな小さな値のVRはありませんし、微調整ができません。そこで少し大きめの0.05Ωを使う事として、図1のように半固VRを入れて調整することを考えました。

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写真4 6Aの電流計の内部で、分流器を切った後です。付いている時も写すべきでしたが、完全に忘れていました。緑のテープはキズを付けないように養生用テープを貼っています。

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図1 「適当な抵抗」と半固VRで調整する分流器です。(※クリックすると画像が拡大します。)

ところで0.05Ωですが、キットの回路に電流制限用の電圧を作る抵抗があります。これに分流器を兼ねさせる事を考えました。メータ側には半固VRも入り、0.05Ωに比べてかなり抵抗は大きくなりますので、影響は僅かです。そこで図2のような回路にして、電流計の分流器と電流制限用センサーを兼ねるように考えました。最初は0.05Ωだった電流制限用抵抗ですが、この後で電流の制限値を調整したため最終的には0.27Ωとなっています。それでも半固VRで調整できる範囲でした。この半固VRは100Ωを使用し、写真5のようにメータの端子に付けています。写真6のようなセメント抵抗を、付けたり外したりして試験をしました。

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図2 このようにして電流制限用の抵抗0.27Ωに分流器を兼ねさせています。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真5 分流器には外付けの抵抗を使う事とし、その補助のために付けた半固VRです。

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写真6 このようなセメント抵抗で分流器と電流制限の実験をしています。

電流計の目盛を作り直すついでに、電圧計も20Vでは少し高すぎるので15Vとしました。もちろん分圧器も変更しています。内部を見ると写真7のような分圧器(ただの抵抗ですが)が空中配線で付いていました。確か14kΩ程度だったと思います。そこでこれを10kΩとし、写真8のようにメータの裏側にも5kΩの半固VRを付けて、合わせて分圧器としました。20kΩの半固VR1個でも分圧器になります。しかし、下手をするとメータを焼き切りますので、お勧めできません。

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写真7 電圧計に入っていた分圧器の抵抗です。空中配線ですが、そのまま14kΩを10kΩに付け替えました。

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写真8 調整しやすいように端子に5kΩの半固VRを付けて、併せて分圧器としました。

なお、メータの目盛はUSA製の「Meter」というソフトの購入版を使っています。貼り付けたところが写真9です。お試し版があり無料でDLできますので、同じように作れると思います。

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写真9 専用のソフトを使って、このような目盛を作っています。

4.回路

どのようなトランスを用意できるかでスペックが変わってきますので、入手したトランスに合わせるという方法も「あり」としました。使った秋月電子のキットとしては電圧差が10Vで10Aを最大としていますので、十分に使う事ができます。使用目的によって組み立て方も回路も変わりますので、スペックについては自分で考えるしかありません。このようにして、トランスから14V2.5A位を目標にする事にします。

写真10の、秋月電子のNJM723を用いたキットで作っています。メータも含めて上述のような作り方をする事として、図3のような回路になりました。データシートに載っていそうな、オーソドックスな回路です。LM338Tを使ったキットもあるのですが、これにはセンサー端子がありません。NJM723のキットにはS+とS-のセンサー端子がありますので、本格的な使い方が可能です。例えば電流計を入れたとすると、この内部抵抗で出力電圧が下がってしまいます。そこでセンサーを負荷側にする事で、電圧低下が補償されるわけです。もちろん、負荷まで長く引き回すような場合も同じで、センサーにはほとんど電流が流れないため電圧のドロップが少なく、電圧の低下を防ぐ事ができます。このような配線をケルビン接続と呼びます。昔々に習ったブリッジのケルビンさんです。使い方にもよりますが、センサー端子と出力端子を並べて外に出す方法もあります。

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写真10 このような秋月電子のキットが基本です。

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図3 全回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

トランスに16Vを使い、出力電圧を最大で14V、最小で5Vとしたときに、最も過酷なのが5Vの時になります。この時に2.5A流すと16V差があるため、40Wを放熱器で逃がす必要があります。概ね2.05℃/Wの放熱器が必要となります。普段は12V付近で使いますので、5Vで2.5Aというのはほとんど考えられない使い方です。もちろん、だからといって放熱には手抜きができません。そこで放熱器に温度センサーのLM35DZを付け、45度以上でFANが回るようにしました。FANが回るとホコリが付きますし寿命もあります。決して良い事はありませんので、普通は仕方なく付けるものです。しかし、パソコン用のFAN付き放熱器が余っていましたし、このような温度制御も試してみたいテーマでもありました。このようなヘソの曲がった理由で、FAN付きにしました。ほとんど遊びモードですので、正攻法で行くなら2.05℃/Wをクリアするヒートシンクにするべきでしょう。放熱器とFANは一体化したPC用のものですが、規格は不明です。FANを回した時に2.05℃/Wをクリアしているのか解りませんが、実験した結果では大丈夫でした。

ところで、元々は10Aまでのキットですが、トランスは3Aを使っています。このままでは電流制限が効かず3A以上流してしまい、トランスやダイオードに負担をかけます。そこで電流制限を手直ししました。図4はキットの元回路で、0.1Ωをパラにして0.05Ωとして、この間の電圧が0.6V以上になると制限がかかるという回路です。つまりI=0.6/0.05=12Aです。半固VRで調整できるのは12A〜36Aとなります。ここで必要なのは3Aとすると、R=0.6/3=0.2Ωです。そこで0.1Ωをシリーズとして0.2Ωで試しましたが、実測では3.5Aとなってしまいました。そこで0.27Ω10Wという半端な値をジャンク箱から出して使うと2.65Aとなりました。設定用の半固VRは左いっぱいです。調整して3Aちょうどでも可能ですが、FANに使う電流を考えて良い事としました。メータのところでも述べましたが、図2のように0.27Ωにした理由です。

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図4 キットの元の電流制御回路です。計算上12Aで制限がかかります。(半固VRで12A〜36Aが調整範囲となります)(※クリックすると画像が拡大します。)

なお、最終的に行った変更ですが、出力電圧は0〜20Vまで可変してしまいます。無負荷では20V出るのですが、少し電流を流すとトランスの電圧が下がり使えません。ここは使えない電圧とし、MAXは15Vとしました。15Vでも2.5A近く電流を流すと、少し電圧が下がってしまいます。また、最小電圧は0V近くまで下げられるのですが、実用的ではありません。このような電源は5V程度まで下げられれば十分としました。そこで調整用VR(10kΩ)のアース側とホット側に、3.9kΩの抵抗をそれぞれ入れて可変幅を調整しました。これで4.2〜15Vとなります。このVRまでの配線は2芯シールド線で配線していますが、VRをケースから浮かせると電圧が変わったり、多少怪しい動きをします。

電流制限をもっと低くして使いたい時もありますので、ポリスイッチを通した出力も設けました。ポリスイッチが完全に遮断するのは表示の2倍の電流です。電源自体が2.5Aとすると1Aではバランス的に大き過ぎる事となります。そこで0.3Aのポリスイッチを用いました。電圧計は本線系に入っていますので、このポリスイッチでの電圧ドロップは測れません。従って、ポリスイッチを通した出力端子をショートしても、電圧計は変化しません。

5.作成

まずは写真11の基板を作成します。電流の通り道はパターンが幅広くなっています。キットに入っていた、写真12右の整流用のブリッジは35A用です。あまりに大きいので、左側のKBU8Dにしています。これは部品箱にあった8A用です。そのような意味ではトランジスタも一個で何とかなるとは思いますが、実験の流れもありオリジナル回路のままにしています。基板を作成し、これでバラックを組んで写真13のように動作を試します。ケースに取り付けた基板が写真14となります。なお、整流用のケミコンは基板外になります。キットには入っていませんので、写真15のように別のユニバーサル基板に載せています。

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写真11 基板です。以前はユニバーサル基板タイプだったのですが、作りやすくなりました。

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写真12 キットには右側の35Aが付いていましたが、あまりに大きいので左側の8Aにしました。

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写真13 バラックで配線し、動作確認をしているところです。

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写真14 ケースに取り付けた基板です。

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写真15 整流用のケミコンを載せたユニバーサル基板です。

FANの温度制御用を行う基板は写真16のようになっています。センサーは、写真17のようにりん青銅で放熱器に抑えて固定しています。シリコングリスも塗っています。

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写真16 FANの温度制御用基板です。

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写真17 放熱器の上側に付けた、温度センサーのLM35DZです。

ここでバラックのまま、No.28で作った電源用ダミーを使って3A流した時の動作をチェックしました。この電源用ダミーは地味ですが、結構便利に使っています。この時の放熱器の温度は注意が必要です。そしてFANを回した時の温度の下がり具合も確認します。次に温度センサーの部分を取り付け、ほぼ一定温度に保たれる事を確認しました。使った温度計は写真18のような放射温度を測るものです。

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写真18 このような温度計を使っています。

ケースはリードのPK-11を使う事とし、写真19のようにパネルなどの穴あけを行いました。次に内部に部品を取り付け、組み立てました。組み立てたところが写真20になります。このように、先を考えながら少しずつ実験と製作を進めました。

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写真19 パネル面の穴あけをしたところです。

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写真20 組み立てた内部の様子です。

6.測定

実験も最終テストも、No.28で作成した電源用のダミーで試験しています。測定した結果が測定結果1になります。センサー端子を使っているため、見事に一定の電圧になっています。15Vでは少しだけ下がるのが早くなっていますが、十分に使えそうです。電流制限のかかり方を見たのが測定結果2です。2.5Aを超えると見事に下がっています。

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測定結果1 15Vにすると少しだけ早く下がりますが、十分に使えそうです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果2 2.5A以上でストンと下がっている様子です。(※クリックすると画像が拡大します。)

ポリスイッチを通した0.3Aレンジでは、測定結果3のようになりました。これ以上ではポリスイッチが遮断モードに入って、特性としては不安定に見えてしまいます。

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測定結果3 0.3Aのポリスイッチを通した出力です。(※クリックすると画像が拡大します。)

写真21のようにして、FANの有無による温度変化の違いを測ってみました。出力電圧を5Vとして電流を2.6A一定とし、この時の放熱器の温度変化を読みます。これが測定結果4となります。FANを使用しないと5分程で45℃を超えますが、温度制御をしてFANを使うと回転と停止を繰り返し、ほぼ一定となります。完全に一定になっていないのは、センサーと違う位置で測ったためと思います。センサーの温度としてはノコギリ波になるはずです。

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写真21 温度変化の様子を測っているところです。

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測定結果4 5V2.6Aとして温度上昇の様子を比較してみました。(※クリックすると画像が拡大します。)

ずい分前にPICを使ったキットを作って試していた時ですが、突然動いていたキットが動かなくなってしまいました。PICを交換すると動くのですが、また動かなくなってしまいました。これは電源のOFF時に出力電圧が一瞬上昇する「ヒゲ」が出てPICを壊したのだと、数個壊してから気が付きました。それ以来OFF時には先に接続を外すようにしています。この電源の出力を見ると、ほとんどヒゲが出ていません。全くないという事ではありませんし、出力に入れた330μを外すと出ますので注意が必要です。最近ではこのトラブルはないのですが、瞬間的な規格オーバーには違いありません。ICが強くなっているとしても、注意すべき点です。

7.使用感

このように作成し、まだそれ程使ったのではありません。しかし、QRPの実験には性能としては十分なものですし、何の問題もなく使用しています。12Vで使っている時にFANが回った事はありません。一つ問題点があるとすれば、電流容量の割りに「大きい」という事でしょう。実は、これが大きな問題だったりします。

考えてみると、最近はこのように「自分で考えなければならない」というキットが少なくなったように思います。面倒には違いありませんが、それ以上に面白い事も確かです。