エレクトロニクス工作室
No.140 PSoCを使ったAF-BPF
1.はじめに
AFのフィルタといえば、OPアンプを使って作るのが定番でした。しかしPSoCを用いて作ると、簡単にLPFやBPFを設定する事ができます。フィルタに使う外付けのCR類は、全く必要ありません。もちろん初期投資と多少の練習時間は必要ですが、使えるようになってくると楽しいものです。そこでBPFを使って、写真1のようなCW用のAF BPFを作ってみました。PSoCにはCPUも入っていますが、これを全く使わずにデジタル回路とアナログ回路の組み合わせだけで作ったものです。どちらかと言うと、「BPFを作ってみたかった」というのがスタートです。
写真1 このようにワンボード上にまとめたCW用のBPFです。
このようなフィルタには、自作向けにFCZ研究所の「パッシーブ型CW用オーディオフィルタ」やハムジンの「ピートルズ」などのキットが過去にありました。最近のリグであれば使う必要はないと思いますが、球式リグや自作のDC受信機などには効果があると思います。
2.PSoC
PSoCとは内部の回路を自分で組み合わせる事ができるICです。詳しくは専門の本を読んで頂くしかないのですが、アナログ回路もデジタル回路もCPUも入っています。どうも私のパターンは、CPUよりもアナログ回路を組み合わせるタイプのようです。このようなAF処理の他にも、AGCなど受信機の内部に使う事ができそうです。No.132やNo.138も参考にして下さい。
ここでは写真2のような8ピンのCY8C27143を使っています。しかし、もう少し読みやすい表示にできないものでしょうか。これでは型番が読みにくくて仕方ありません。ICの内部は図1のように設定します。入力した信号はアンプに入りますが、このゲインはゼロに設定しています。ここにアンプを入れたのは入力ピンと接続するためで、ゲインは最初から考えていません。ゲイン不足の場合は×48まで調整できます。
写真2 使用した8ピンのPSoCです。
図1 PSoC内部の設定です。(※クリックすると画像が拡大します。)
次にBPFに入ります。このBPFは設定によって好きなように作る事ができます。ここでは中心周波数を650Hzとし、幅を10Hzとしてみました。BPF設定時のウィザードに出てくるのが図2です。このようなフィルタを設定だけで作れます。ところが、このBPFを作るのにはツマヅキました。LPFは簡単にできたのですが、BPFが思ったとおりの周波数にならず、数倍高い周波数にピークが出てしまいました。さんざん悩んだのですが、クロックを1/4で設定するという記述を見つけ、やっと解決しました。単なる英語力の無さに過ぎませんが、このような設定は解り難い一因となります。
図2 BPF設定のウィザードです。(※クリックすると画像が拡大します。)
7ピン出力はAGNDで、アナログの基準電圧を作っています。PSoCは5Vで動作させますので、AGNDは2.5Vとなります。2.5Vを中心にして信号を入力しますので、100kΩ程度を通して入力の2ピンをプルアップします。
このPSoC設定については、一般的なソフトでないのでBEACONのページには置けません。私のHPに置いておきますので、ダウンロードしてみて下さい。
3.回路
全体の回路図は図3のようにPSoCのアナログ回路を使ったBPFと、TA7368PLを使ったAFアンプのキットです。これは写真3のような秋月電子のキットがありましたので、これを使う事としました。特にこのキットである必要は全くありません。BPFの性能としてはPSoCの設定に任せる事となります。
図3 全体の回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真3 使用したAFアンプのキットです。
受信機などのスピーカ出力に接続する事を想定しています。ボリュームの前あたりに接続するのであれば、入力の100Ωは邪魔になります。また、PSoC内部でもう少しゲインを上げる方法もあるでしょう。
4.作成
図4の実装図を作成してから作りました。この実装図は2階建てで、TA7368PLのアンプキットを使うようにしています。別のアンプの場合には修正して下さい。アンプも自作する事とし、ユニバーサル基板上に組んでも良いと思います。キットの端子はユニバーサル基板の位置と微妙にずれているのですが、何とか強引に載せました。PSoCの設定変更は頻繁に行いそうですから、プログラミング用の端子は必須です。
図4 実装図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真4のように主な部品を並べてイメージを湧かせます。イヤホンジャックは写真5、電源ジャックは写真6のようなキットを使ってユニバーサル基板に合わせています。このキットをまず組み立てておきます。次にAFアンプのキットを組み立てて、写真7のように動作チェックをしました。BPFの全体を実装図に従って作ったところが写真8です。
写真4 部品を並べて完成のイメージを作ります。
写真5 イヤホンジャックをユニバーサル基板に合わせるキットです。
写真6 電源ジャックをユニバーサル基板に合わせるキットです。
写真7 AFアンプの動作チェック中です。
写真8 BPFをハンダ付けしたところです。
PSoCをユニバーサル基板に載せ、プログラムを書き込みます。写真9のように基板状態で動作の確認をしておきます。この時のハンダ面が写真10になります。ざっとでも特性を測っておけば安心です。
写真9 AFアンプを載せて動作試験をします。
写真10 そのハンダ面です。
ケースには入れず、生基板をカットして台にしています。小型のスピーカBOXと一緒にネジ止めしてみました。適当なサイズがあったので生基板を使いましたが、アルミ板でも同じに作れます。もちろんケースに入れるのも良いと思います。
5.測定結果
まずはPSoCの入力と出力を600Ωに設定し、周波数特性を測ってみました。No.19で作ったFRMS-AFで測ったところ、BPFは測定結果1のような特性になりました。No.137のホワイトノイズを入力し、FFTアナライザで測定したのが測定結果2です。このような特性が簡単に作れるのですから、面白いのに加えて次への応用も広がりそうです。
測定結果1 FRMS-AFで測った600~700Hzの周波数特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果2 ホワイトノイズを入力し、FFTアナライザで測ってみました。測定結果1と変わるものではありません。(※クリックすると画像が拡大します。)
実際に使ってみると、10Hz幅で設定していますので、かなり切れの良い感じです。但し、狭いフィルタの欠点として、エコーがかかったようになってしまいます。発振寸前のアンプという表現もあります。幅をもっと広くした方が良いのかもしれません。何しろ「BPFを作ってみたい」からスタートしていますので、やたらと狭い設定になっています。ウィザードでは最も狭い設定です。このあたりは、使う人の感覚によって調整すべきなのでしょう。
6.おわりに
スイッチトキャパシタのアマチュア無線への応用は、JA1AYO丹羽さんがCQ誌や「AYO'sハム機器の製作」などで紹介されたのが最初かと思います。MF4を使ったオーディオジェネレータなどです。面白いICと思ったのですが、当時は状況的にICの入手が困難でした。そのために、後に続く記事があまりなかったように思います。PSoCの場合は、ソフトの設定をするという壁は確かにあるのですが、入手は容易です。このようなフィルタはトランシーバや受信機に、最初から組み込んでおく方法もあると思います。