エレクトロニクス工作室
No.129 50MHz測定用アダプタ
1.はじめに
No.63、64では「おじさん工房」のAPB-1(写真1)を紹介しました。その後更に進化したAPB-3(写真2)がトラ技で連載記事となり、CQ出版からキットが頒布されました。このAPB-3も作っていますがコネクタ位しかハンダ付けするものがなく、ハード的には全く作り応えがありません。このエレクトロニクス工作室では紹介していませんが、性能的にお勧めの測定器です。
写真1 おじさん工房のAPB-1です。
写真2 CQ出版から頒布されたAPB-3です。
APB-1やAPB-3には、分解能の高いスペアナモードがあります。このスペアナモードでは、30MHzまでのスプリアスが見られる事はもちろんですが、分解能が高く帯域内の様子が見られます。つまり、変調や歪の「まずさ」が解ってしまいます。「まずさ」が解るという事は、改善点が解るという事です。従って、自作品の性能向上に大きく役に立ちます。しかし、測定範囲が30MHzまでですので、50MHzのトランシーバは測れません。同じCQ出版から頒布されているSAE-1を使って拡大させられるようですが、50MHzだけに限定すれば簡単に自作できます。
そこでAPB-1やAPB-3にコンバータを付けて50MHzを見るという、写真3のようなアダプタを作ってみました。50MHzの送信帯域内の状態や、近傍のスプリアスを見るためのものです。2倍波や3倍波を測るものではありませんし、元々高性能のスペアナがれば不要のものです。
写真3 このような測定用のアダプタを作りました。
2.電波法
ところで、平成17年12月から電波法におけるスプリアス発射の許容値が変わっています。それまでは高調波などのスプリアスを測っておけば良かったのですが、変調をかけた時の帯域外領域についても定義されました。必要周波数帯幅の中心から、その2.5倍の幅を帯域外領域としたものです。その様子を図1に示します。詳しくは大元の総務省のHPにPDFファイルがあります。今は自作とはいえども、この帯域外領域の輻射にも気をつけなければなりません。そのため、何らかの方法で測定ができないと困る事になります。
図1 総務省のHPからのコピーですが、このようになります。(※クリックすると画像が拡大します。)
この説明は総務省のHPを検索するとすぐに見つけられます。しかしスプリアスのレベルについては別に決められていますので、これを表1にまとめてみました。私が調べた「アマチュア局用」ですので、理解の間違い等があれば指摘して下さい。送信機を自作する場合の基本的な部分なのですが、ネットで検索しても「TSSが・・」とか、「保証認定が・・」などしかヒットせず、電波法の規定値を扱ったものが見つかりません。そこで自作する指針となるように、まとめたものです。
表1 アマチュア局用にスプリアスの規定をまとめてみました。(※クリックすると画像が拡大します。)
3.周波数構成
50MHzを0~30MHzのどこかに下げるのですから、基本的には普通のクリスタルコンバータ、通称クリコンと全く同じです。注意すべきは、スプリアスを作るような周波数構成だと、トランシーバの出力に問題があるのか、クリコンの内部で作られているのか解らなくなります。最初は図2のような周波数構成で作っていました。45.18MHzが手持ちにあったので、これを使えば50.18が5.00になるという考えでした。ところが、5MHzの9倍や10倍がLOや入力に近いという事で、今一つ上手くありませんでした。それほどのダイナミックレンジを持って見えてしまうのがAPB-3です。そこで45.18MHzではなく、図3のように43.3MHzにしてみました。これで近接スプリアスは全く見えなくなりました。このクリスタル(写真4)は、昔々に買ったサンコーの50MHzを7MHzにするクリコンSC-6Sに付いていたもの、と思い出しました。
図2 これで動くかと思ったのですが、スプリアス的に問題がありました。(※クリックすると画像が拡大します。)
図3 クリスタルは43.3MHzとしてみました。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真4 使用した43.3MHzのクリスタルです。
4.回路
図4のような回路としました。普通のクリコンですが、QRP送信機を直接つないで測る事を考えていますので、入力にはダミー代わりの3dBアッテネータを使っています。QRPではなく10W用にするのであれば、10W用ダミーを用意するべきでしょう。後から考えると、ここにはダミーで良かったように思います。そして1kΩのVRを使ったアッテネータでレベルを調整し、DBMのSWRを補償する3dBアッテネータを通ってDBMに入ります。アッテネータを最大の1kとした時が入力SWRの一番悪化するケースです。1kΩの入力側に50~100Ω位のダミーを入れておく方法もあるかと思います。アッテネータを最大にした時のSWRが、多少は補償されるからです。出力ポートも3dBアッテネータを入れて、そのままAPB-3へ出力しています。もちろん、図5のように本格的に50Ωのアッテネータを使ってレベル調整するのが正しい作り方ですが、各部品の対電力には十分注意する必要があります。今回は簡易なツールと考えた回路になっています。
図4 全回路になります。(※クリックすると画像が拡大します。)
図5 高周波的にはこのようにするのが正しいと思います。(※クリックすると画像が拡大します。)
私としては珍しいのですが、DBMにはFB801トリファイラ巻きと、NECのクォッド型ダイオードND487C1-3Rを使ってみました。まだ流通在庫はあるようですが、1N60などでも十分に使えます。もちろん市販のDBMでも使えます。
発振回路はオーバートーンを用いて直接43.3MHzを発振させます。ここで3逓倍をするとスプリアスが増えるだけですので、周波数の微調はできないのですがオーバートーンで発振させます。最優先は余分なスプリアスを減らすべき、という考えです。
5.作成
写真5のように部品を集めてイメージを作り、図6のような実装図を作成し、基板をハンダ付けしました。高周波を扱いますので、部品面にシールドの付いたユニバーサル基板を使っています。図6の緑の点は部品面でのアースを示しています。入力の3dBのアッテネータは3Wの抵抗を使っています。少々大きいのですが、No.119のQRPリニアで使った余りなので仕方ありません。DBM(写真6)は昔々に自作したものを流用したため、このようになりました。どのような作り方でもできますので、工夫してみて下さい。写真7が基板の完成したところです。写真8がハンダ面の様子です。
写真5 まずは部品を集めてイメージを作ります
図6 先ず作った実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真6 昔々に作り貯めた自作のDBMを使いました。
写真7 完成した基板です。
写真8 ハンダ面です。
動作の確認を行い、問題がなければ写真9のようにアルミ板上に基板を固定し、使いやすいようにしておきます。このアルミ板の有無で、使いやすさと丈夫さが全く違ってきます。ケースに入れるほどでもないが基板だけでは少々不安定、というような場合には、このようにアルミ板に乗せておくと良いでしょう。生基板上に固定しても、同じように作れます。
写真9 このようにアルミ板の上に固定します。
6.使用感
写真10がAPB-3と組み合わせて測っているところです。測定結果1は、50MHzのSSB送信機の帯域内を観測した結果です。これでも「かなり良い」のですが、ノイズが見えています。これは2トーンを入力していますが、1トーンや無信号を試せば状態が見えてきます。マイクアンプから出力までのトータルの動作状態を確認する事ができますので、これで目的が達せられました。もちろんMIC端子からAF信号を入力する必要がありますので、この他にNo.110のような2トーンジェネレータが必要です。このように送信波の様子が観測できると、良くないところが見えてしまいます。
写真10 測定しているところです。
測定結果1 (※クリックすると画像が拡大します。)
このようなものは作るだけではなく、波形を見て良し悪しが解り対策を立てられなくてはなりません。必ずトランシーバの性能がステップアップする事でしょう。